30年以上引きこもりに接し、一般社団法人「OSDよりそいネットワーク」を設立した臨床心理士の池田佳世さんは、こう話す。

「親が動じるからいけない。引きこもっていても、口を利かなくても、生きていればいい、あなたはそのままでいい、と接することが大事。子どもに『親のせいだ』と言われたら、『そうだね』とただ応じ、言い返したり、価値観を押し付けたりせず、何でも聞いて言葉を引き出す。コミュニケーション能力を家庭で高めつつ、安心させることです」

 多くの引きこもりと接してきた人たちによると、引きこもりの当事者に「最も怖いことは?」と聞くと、多くが「親の死」と答えるという。自分が生きていけなくなるという不安からだ。

 前出の林さんはこう語った。

「8050問題の当事者たちはすごく焦りを感じています。彼らに大事なのは、孤立しないこと。つながりが絶たれると、当事者はたぶん死んでしまうと思います。親が生きているうちに、行政の窓口、保健所の担当者、民生委員、社会福祉協議会、地域包括支援センターなどとつながっておくことです」

【子どもが引きこもった場合、「親」にすすめる五つの行動】
(1) 家族会など、共通の悩みを持つ人々の集まりに行って愚痴や悩みを吐き出そう。
(2) 子どもが生きていてくれることにまず感謝しよう。
(3) 子どもには、魔法の言葉「そうだね」を言おう。
(4) 子どもから責められても言い返さずに応じるのみ。聞くことに徹底して、言葉を引き出そう。
(5) 家庭内で解決しようとせずに、行政の窓口や保健所、民生委員らに相談しよう。

(本誌 大崎百紀、吉崎洋夫、上田耕司/今西憲之)

週刊朝日2019年6月14日号に加筆

著者プロフィールを見る
上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

上田耕司の記事一覧はこちら
著者プロフィールを見る
吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

吉崎洋夫の記事一覧はこちら