今後、有効な手立てが進んだとしても、引きこもりの問題は現代社会が抱える大きな問題だ。小中学校の不登校の数は17年度は14万4千人。少子化で生徒数が減る中で、不登校児童は増えてきている。15年の15~39歳の引きこもり数は推計54・1万人だ。中高年の引きこもりを合わせると、全体の数は100万人以上いるとの指摘もある。

 前出の林さんは、引きこもりを対象にした「女子会」を各地で開いている。すると毎回必ず、「駅までは来たけれど、たどり着けない」「建物の前まで来たのに中に入れない」という人がいるという。

「人や電車が怖いから、彼女たちは、電車に乗っては外を歩く練習を重ね、その日に備える。10年ぶりに電車に乗るという人もいる。それだけの思いをして女子会に行こうとするのは、孤立から抜け出したいとの思いがあるから。それだけ彼女たちは居場所がない」

 KHJ理事で20年以上、引きこもりを取材してきたジャーナリストの池上正樹さんもこう話す。

「よく聞くのは、『生きていたいと思えるようになりたい』という一言。社会は、それだけ厳しい。社会のレールからひとたび外れるとなかなか元に戻れない」

 孤立すると自分を責め、「『自分みたいな人間がこの世に存在しているのが申し訳ない』『たまに外出しても道の真ん中を歩けない』という人もいるのです」(林さん)。

 昔のように地域が一緒になって助け合う時代ではなくなり、親は「働けなくなった子どもが恥ずかしい」と周囲から隠そうとする。そしてさらに孤立が深まる悪循環。

 親はどうすればいいのか―。

 池上さんはこう指摘する。「『働け』はNGワード。親は、仕事をさせたいという思いを切り替える。就労よりもまずは生活や本人の望み、生き方の支援。社会も『孤立するのは自己責任』という考え方では、8050問題はさらに増えていくことになる」

 KHJ共同代表の伊藤正俊さんは、「親が全部抱え込むのが問題です。それが何かの間違いで、一家心中や殺したり、殺されたりになってしまう。子どもは子どもの人生があっていい。困ったときは、無理して家庭内で解決しようとせず、さまざまな機関に相談すればいい。場合によっては警察にも」と助言する。

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子どもが引きこもった時、親が取るべき行動とは?