内閣府が昨年初めて実施した前出の40~64歳対象の調査では、引きこもりは男性のほうが多く、その割合は7割を超える。一度引きこもると社会復帰は難しく、長期化する傾向がある。約5割の人が7年以上引きこもっており、20年以上にわたる人も2割弱いた。引きこもった理由はさまざまだが、「就職活動の失敗」や「退職」など仕事にかかわるものが多い。

 これまで引きこもりは若者の問題として捉えられてきたが、引きこもり本人、家族ともに高齢化が進んでいる実態がある。KHJの調査によると、引きこもり本人の平均年齢は2002年に26・6歳だったのが、18年には35・2歳に上昇。3割で本人の年齢が40歳以上。親の年齢も高齢化しており、18年は65・9歳だった。

 03年に厚生労働省から公表された引きこもり問題のガイドラインによると、家庭内での問題行動が少なくない。親に対する暴力が17・6%、家族への支配的な言動が15・7%などになっている。また、4%が家族以外の外部に対して問題行動を起こしていた。

 国としても大きな課題だ。引きこもりになれば、収入がなく、将来的には低年金や年金がもらえないということも想定される。親の死後、多くの人が生活保護に頼ることも懸念されている。将来的には生活保護費の総額が数十兆円増えるという見立てもある。

 この問題で改めて注目を集めているのが「就職氷河期世代」だ。バブルが崩壊し、景気低迷に苦しんでいた1993~04年ごろに大学や高校を卒業し、就職活動に苦しみ、非正規など不安定な職に就いた人たちが多い。

 労働力調査によると、氷河期世代にあたる35~44歳の非正規雇用の数は約371万人。25~34歳では264万人で、100万人以上も氷河期世代が多い。就職活動や不安定な雇用でつまずき、引きこもりになった人が多く、それが80代の親と無職の子どもの家族が社会から孤立する「8050問題」につながっているとの指摘もある。

 国はこの世代を対象にした抜本的な対策をしなかったのだろうか。

 04~06年に内閣府参事官(少子化担当)を務めた増田雅暢さんは、「就職氷河期世代に注目し、就労支援などを進めるように動いた」と話す。しかし、高齢者向けの政策や財政再建などが優先され、就職氷河期世代に対する十分な財源を確保できなかったという。

「年長の政治家に『自己責任』という意識が強く、就職氷河期世代を支援するという動きにはならなかった。これが今の引きこもりや結婚できず子どもも産めないという少子化の問題につながっている」(増田さん)

 国が、引きこもりを若者の課題と決めつけていたことも、中高年の引きこもりに対する対応の遅れを招いた。今回、中高年を対象に調査を行った内閣府では、10年と15年にも調査を行っているが、対象は15~39歳だった。「子供・若者育成支援推進大綱」で40歳未満を若者と定義しており、それに従っているという。

 自治体でも同様に対策は後手に回った。東京都ではこれまで引きこもり家庭への訪問などは34歳までとしてきた。引きこもりの中高年化に合わせて、今後は年齢制限を撤廃するという。自治体の窓口によっては、40歳程度と制限を持つところが多かった。

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引きこもり人口は100万人という現実