一方、中等度以上の場合は、薬物療法をおこなう。ほかの年代のうつ病と同様、初めに選択されるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬だ。副作用のリスクを抑えるために少量から始める。効果が出なければ量を増やしたり、複数の抗うつ薬を組み合わせたりして、それでも効果が出ない場合は抗精神病薬などを使用することもある。

 慶応義塾大学病院精神・神経科学教室教授の三村將医師はこう話す。

「高齢者のうつ病は、妄想を伴う傾向があり、自分は重い病気だと思い込んだり、悪いことはすべて自分のせいだと自分を責めたりします。こうした妄想は薬が効きにくいのです。効果が出ないからといって、多剤大量の薬を使用するのは、副作用のリスクが高くなるだけなので、避けるべきです」

 薬物療法が効かない高齢者のうつ病に効果的なのが、「通電療法」だ。「電気けいれん療法」とも呼ばれ、古くから実施されてきた治療法で、こめかみのあたりに電極を置き、脳に通電する。しかし以前は、けいれんによる咬舌や骨折のリスクがあった。このため近年は「修正型電気けいれん療法」といって、全身麻酔と筋弛緩薬を用いて、けいれんや身体的苦痛が起きないようにより安全におこなわれている。

 1回の通電時間は数秒間。麻酔薬と筋弛緩薬を静脈注射し、眠った状態で通電する。1~2カ月程度入院して週に2~3回、1クール10~12回をおこなう。治療後に一時的に物忘れが起きることがあるが、問題となる副作用は少なく、薬物療法よりむしろリスクは少ないともいえる。

「即効性があるので自殺のリスクが高い場合にも有効で、1回の治療で見違えるくらいに元気になる人もいます。当院では年間500回程度実施しています」(三村医師)

 退院後は、再び薬物療法に戻る。薬物療法の効果がなかった人でも、通電療法の治療後は効果が出てくることもある。一方、治療前と同様に薬物の効果が出ない人も少なくない。そこで「維持電気けいれん療法」といって、月に一度、1~2泊入院して、通電療法を1~2回実施し、継続的に通電療法をおこなっていく方法もある。

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