順天堂大学順天堂越谷病院 メンタルクリニック教授 馬場 元医師(左)/慶応義塾大学病院 精神・神経科学教室教授 三村 將医師(右)
順天堂大学順天堂越谷病院 メンタルクリニック教授 馬場 元医師(左)/慶応義塾大学病院 精神・神経科学教室教授 三村 將医師(右)
高齢者のうつ データ (週刊朝日2019年5月24日号より)
高齢者のうつ データ (週刊朝日2019年5月24日号より)

 高齢者の10~15%程度は発症しているといわれるうつ病。ほかの年代のうつ病よりも自殺のリスクが高い傾向があるが、治療の基本となる薬物療法が効かない場合も少なくない。そうした場合に有効な治療法があるという。

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 高齢化に伴って増加している高齢者のうつ病。ほかの年代のうつ病と区別して「老年期うつ病」と呼ばれることもある。特有の誘因や症状があり、それに伴って治療のアプローチが異なるためだ。

 高齢者がうつ病を発症するきっかけとなりやすいのが、「喪失体験」だ。親やきょうだい、配偶者、同世代の友人との死別や身体機能の低下などの喪失体験を次々と経験しやすい。若いころは喪失体験によって気分が落ち込んでも、時間の経過とともに回復しやすいが、加齢による脳の変化により、回復しにくくなることがある。また、高齢者世帯の増加などにより、高齢者が孤立しやすいという現状もある。

「軽症で心理・社会的要因が影響している場合、心理的アプローチや環境の調整だけでよくなることもあります」

 そう話すのは順天堂大学順天堂越谷病院メンタルクリニック教授の馬場元(はじめ)医師だ。例えば、高齢者のうつは、ありえないことを思い込む傾向があり、ささいな不調を家族に訴えることが多い。家族は「年のせい」と、まともに聞かず、本人は孤立感を深めやすい。初診の段階で医師が患者の訴えをじっくりと聞き、理解を示すと同時に、診察に同席した家族にも理解してもらえると、それだけで表情が明るくなるという。

「高齢者のうつ病は、家族の理解や対応が治療効果を左右します。本人に家の中での役割を与える、感謝を言葉にして伝える、離れて暮らしていたり、同居していても日中は不在にしたりする場合は、電話をするなど孤立させないことが大切。こうしたことを理解していただくためにも、ご家族には診察に付き添っていただきたいです」(馬場医師)

 うつ病の治療の柱は薬物療法だが、高齢者はほかの年代に比べて副作用のリスクが高い。肝臓や腎臓の機能が落ちているほか、別の病気を合併していたり、すでに服用している薬があったりするためだ。そこで軽症の場合は薬物療法に先行して、前述した心理的アプローチや認知行動療法などの精神療法を実施することがある。認知行動療法は、ものごとの捉え方や考え方の偏りに気づき、それを修正する治療だ。

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