最新の研究で、難聴は認知症のリスクと報告され、聞こえを改善したいと思う人は多い。加齢などで聴力が低下した人に、聞こえを補う有効な手段として補聴器があるが、補聴器に対する誤解は多く、その恩恵を受けられていない実情もある。いつまでも人生を豊かに過ごすには、まずはその誤解を正すことが大切だ。現在発売中の週刊朝日ムック「『よく聞こえない』ときの耳の本」から、事例とその対策を紹介する。
栃木県在住の主婦、岡田良枝さん(仮名・79歳)は、75歳のときに著名人の講演会に行き、その内容がほとんど聞き取れなかったことに愕然とした。それまで、テレビの音や電話の声などが聞こえにくいと感じることなどはあったが、「年のせいだから仕方ない」とあまり気にしていなかったという。
近くの耳鼻咽喉科を受診したところ、補聴器を勧められたため、紹介された補聴器販売店で補聴器を購入。「これをつければすぐによく聞こえるようになる」と思い込んでいた。ところが、補聴器をつけてみたら、うるさくて耐えられない。すぐに販売店に行き、音量を下げてもらったが、それでもうるさくてつけていられない。友人に話すと「補聴器を買ったけど合わなくてやめる人が多いみたい」と言われ、自分も合わないのだとやめてしまった。
ところが、聞こえはどんどん悪くなり、娘と電話で話すのにも苦労するように。さらに、久しぶりに友人たちと会ったら会話がほとんど聞き取れない。みんなが楽しそうにおしゃべりをする中、自分だけ話の輪に入れず愛想笑いをするしかなかった。そういうことが重なるうちに出かけるのが億劫になり、家に引きこもるように。そんな母の姿を見かねた娘に「いい先生がいるみたい」と勧められ、済生会宇都宮病院の聴覚センターを受診した。
同センター長の新田清一医師は、「岡田さんのように、補聴器をつければすぐ聞こえると思っている人は多い」と話す。
加齢により音を聞き取る機能が衰えて起こる難聴を「加齢性難聴」という。75歳以上の約7割が難聴であるといわれ、聞こえの低下は誰の身にも起こることといえる。しかし、「年のせいだから」と難聴を放置すると、脳に届く情報が減ることによる認知機能の低下、コミュニケーション不足による孤立やうつ症状など、さまざまな問題につながるリスクが指摘されている。
加齢性難聴を根本的に治す治療法はないが、補聴器を使うことで聞こえを補うことはできる。しかし、補聴器を正しく使いこなせていない人も多く存在する。