今後期待の最新治療(イラスト/河島正進)
今後期待の最新治療(イラスト/河島正進)

 近赤外光を利用してがん細胞だけをピンポイントで破壊する新たな治療法の開発が進んでいる。米国立保健研究所(NIH)主任研究員の小林久隆医師が考案した「光免疫療法」という方法だ。2018年3月から国立がん研究センター東病院で、頭頸部がんに対して臨床試験が始まっている。好評発売中の週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」では、今後期待の最新治療として「光免疫療法」を取り上げ、同院副院長の土井俊彦医師を取材している。

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 複数のがんの種類において、がん細胞の表面に「EGFR(上皮成長因子受容体)」というたんぱく質が発現することがわかっている。光免疫療法は、EGFRにくっつく性質を持つ「抗体」を利用。その抗体に特殊な光(近赤外光)で反応を起こす「光感受性物質」を結合させた新しい薬剤を作る。

 これを点滴で体内に注入すると、抗体はがん細胞膜上のEGFRにくっつく。そこをめがけてからだの外側から近赤外光を当てると、光感受性物質が化学反応を起こし、がんの細胞膜が破壊される。

 近赤外光は、テレビのリモコンの信号などに使われる目に見えない光で、人体に無害のため、安全な治療法として期待されている。

■抗体と光でがんだけ狙う

 アメリカでは再発した頭頸部がん患者を対象に臨床試験がおこなわれ、15例のうち14例はがんが30%以上縮小し、うち7例は画像上確認できなくなった。

 日本でも2018年3月から国立がん研究センター東病院で臨床試験が始まっている。同院副院長でこの臨床試験の調整を進めてきた土井俊彦医師はこう説明する。

「光免疫療法は、抗体が結合していない細胞や光が当たらない細胞にダメージを与えることはなく、がん細胞を選んで、ピンポイントで破壊できます。そのため副作用は少なく、治療自体も数時間で終了します。治療による負担も比較的軽いと考えられます」

 EGFRを標的にした抗体自体は新しいものではない。EGFRに付いてその働きを抑えるセツキシマブ(商品名アービタックス)という分子標的薬を投与する抗体療法が、大腸がんと頭頸部がんに対し認可されている。

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