行政も費用の助成制度を用意しているが、対象となる建物は限られている。いまは好景気で人手不足もあって、工事費は高止まりしている。所有者にとっては重い負担だ。

 今回の発表を受けて取り壊しを決めたところもある。六本木共同ビル(ロアビル)の管理会社によると、9月までに約7割のテナントと賃貸契約が切れ、更新はしない。ほかのテナントにもできるだけ早い退去をお願いし、将来解体するという。

 理解しておかないといけないのは、今回発表された危険性が高い建物は、全体のごく一部だということだ。小規模なビルや一般の木造住宅などは対象外だ。

 都は12年に首都直下型地震の被害想定を出している。東京湾北部でM7.3の直下型地震(冬の午後6時、風速8メートル)が起きると、火事による被害を含め、全壊する建物は都内全域で約30万棟に達する。死者は約9700人に上り、そのうち約56%は建物倒壊によるものだ。

 被害が集中するのは戸建ての木造住宅。耐震化率は14年度末時点で77.5%にとどまっている。

「木造住宅には高齢者の世帯も多く、お金がかかる耐震補強はやりにくい。そういうところが大きな被害を受けることになる」(三舩さん)

 自分が住んでいる地域の危険性も知っておこう。都が2月に発表した「地震に関する地域危険度測定調査」では、荒川・隅田川沿いの墨田区、荒川区、葛飾区、台東区などで、建物の倒壊危険度が高くなっている。地盤が比較的緩く、古い木造住宅が密集しているためだ。

 東京では江戸時代以降、かつて干潟や沼地だったところを埋め立ててできた地域が広がる。こうしたところでは、液状化の恐れもあり、これまでも大きな地震のたびに被害を受けてきた。

「自分の住む地域が、どのような被害を受けてきたかを知ることで、将来の危険性もわかります」(都司さん)

 地震はいつ起きるかわからないし、建物が崩れればなすすべはない。あきらめる人もいるかもしれないが、できることはある。身近にある危険性が高い建物をチェックしたり、自宅の耐震補強を検討したり、できるところからやってみよう。(本誌・吉崎洋夫、多田敏男)

週刊朝日  2018年5月25日号

著者プロフィールを見る
吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

吉崎洋夫の記事一覧はこちら