長年、舞台を中心に活躍しNHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)では、その独特の存在感で注目された女優の白石加代子さん。チャーミングな素顔に、作家・林真理子さんとの対談は、ほんわかした雰囲気で進みました。
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林:白石さんは、劇団に入る前は区役所に勤めてらしたんですよね。びっくりですよ。
白石:母子家庭の長女でしたからね。母を助けるために7年間、区役所に勤めました。私は昭和16年、真珠湾攻撃のあくる日に生まれてるの。戦争が終わったときが3歳で、父が亡くなったのが5歳。
林:お父様、結核でいらしたんですね。あと数年したらストレプトマイシンが出て、多くの方がそれで助かったと聞きますが……。
白石:悔しいねえ……。私は少女のころにものすごい飢餓感を味わっている世代だから非常に我慢強いし、食べること生活することがいちばん大事だと身にしみています。だから弟が高校を卒業するまでは家族のために働こうと決めていました。その間もずっと舞台への憧れを胸に秘めながらね。だからそのときが来たとき、当時高給取りだった区役所をやめることを全然惜しいとは思わなかったの。
林:小さいころから憧れだったんですか?
白石:私が通っていた小学校にときどき児童劇団がやってきてね。王女様が出てきたりするとってもロマンチックなお話に魂を奪われちゃったの。母は夜遅くまで仕事から帰ってこないから、これ幸いとばかりに近所の子を集めて、風呂敷をベール代わりにしたり、敷布で幕をつくったりしてお芝居をつくってたの。
林:文学座や民芸、俳優座のお芝居もご覧になっていたんですか。
白石:見てた。俳優座の市原悦子さんのファンだったから。
林:まあ、市原悦子さんの。
白石:市原悦子さんは家政婦だけでなく高貴な役をやっても素敵だったんだから。私がすごいと思ったのは、「アンドロマック」。体から光を放ってるような感じなの。私もその役をやりたいと思ったけど、25歳からではちょっと遅いですよね。
林:そのころ、きっと恋人もいらしたと思うんですが、そのまま結婚しようとかは……。