「命は取り留めても、ダメージを受けた部位や程度によっては麻痺や言語障害、味覚障害、運動障害などの後遺症が残ります。その後の人生が大きく変わってしまう場合もあるのです」(河野医師)

 横浜市在住の田中晃子さん(仮名・60歳)は、7年前から同い年の夫の介護を続ける。夫は脳梗塞の後遺症で今も右の手足がほとんど動かず、杖や車いすを使う生活だ。食事など日常生活の助けが必要で、夫だけでなく田中さんも長年勤めた会社を退職した。

「もともと夫婦仲は良く、子どもがいないのであちこち旅行に出かけ、いずれは田舎暮らしをしたいね、などと話していました。当初は命が助かったことがうれしくて支えていこうと頑張りましたが、夫中心の生活に心身ともに疲れてしまっています。正直、助からなければよかったと思うこともある。会話もギスギスして、この先何十年も続けていく自信がありません」

 2大トラブルのもう片方である「破裂」も、命にかかわる。

 動脈の壁には常に血流の圧がかかっているため、壁に弱い部分があるとそこが圧でこぶ状に膨らむ。これが胸部や腹部の動脈にできる大動脈瘤だ。大動脈解離は血管内壁の一部に亀裂が入った状態をいう。膨らんだ風船のように薄くなった動脈瘤や大動脈解離の亀裂部分はもろく、破れると大出血を起こす。ショック状態になり、緊急手術でも命を救えない場合がある。

 脳に向かう血管が破裂すれば、脳出血やくも膜下出血を発症する。時間の経過とともに出血が固まってできた血腫やその周囲のむくみが脳を圧迫し、ダメージを広げていく。脳梗塞と同様に命と後遺症の危険があるのだ。

 血管のトラブルの影響は、血液の化学処理をおこなう肝臓や、血液の汚れをとって排泄する腎臓の機能低下など、全身に及ぶ可能性がある。血液は免疫の役割も担っているため、質が落ちれば感染が起きやすくなる。ひとたび感染が起これば、血液を通して全身にばらまかれる危険もある。命にかかわることはなくても、視力が低下して失明することもある糖尿病網膜症や、ED(勃起不全)、貧血、肌荒れ、下肢静脈瘤など「生活の質」を低下させる病気も多い。

「人は血管とともに老いる、と言われます。ベースになっている血管をいたわれば、さまざまな不調や病気を防げる可能性があるのです」(河野医師)

(ライター・谷わこ)

週刊朝日 2018年3月16日号より抜粋