老人医療施設で暮らす認知症の妻の手を握りながら、介護をする男性(写真は本文と関係ありません)(c)朝日新聞社
老人医療施設で暮らす認知症の妻の手を握りながら、介護をする男性(写真は本文と関係ありません)(c)朝日新聞社
日本人の死亡場所別の割合の推移(週刊朝日 2018年3月9日号より)
日本人の死亡場所別の割合の推移(週刊朝日 2018年3月9日号より)
世代別でみた高齢者の「死」に対する意識のイメージ(週刊朝日 2018年3月9日号より)
世代別でみた高齢者の「死」に対する意識のイメージ(週刊朝日 2018年3月9日号より)

 死を直前にした終末期に、延命措置などの医療や介護を「過剰だ」として望まないお年寄りが増えている。「亡くなり方の質」を追求し、穏やかな最期をめざす。その姿に死生観の変化を読み取り、日本の死の「スタンダード」が一変すると予想する声も出始めた。「自然死」が急増する、というのだ。

【図表】自宅、病院…日本人の死亡場所別の割合はどう変わった?

 千葉県松戸市の黒田美津子さん(79)は、昨年5月に80歳だった夫の正さんを看取った。

「肺腺がんでした。見つかった時はすでにステージ4で、『余命3カ月』と言われましたが、亡くなる1カ月ほど前までの1年以上、平穏な状態が続きました。好きな囲碁を打ちに行ったり、仲間と芝居を見に行ったりで、ふだんと変わらない生活でした」

 医者には抗がん剤による治療をすすめられたが、「高齢だから」と断った。

「もともと、どんな場合でも延命治療はしないと主人は決めていました。いつ、そうなるかわからないので、文書にもしてありました」

 正さんが作った「病重篤・死亡時に関するメモ」には、こう記されている。

「私たち夫婦は、尊厳死を強く希望しますので、不治の病(事故等による損傷を含む。)と診断された時、一切の延命措置は不要です」

 痛みが激しくなったため、最後の約2週間は病室で過ごしたが、食事はできるだけ自分の口からとり、食べられなくなってからも点滴はしなかった。

「『葬式は家族葬で』とか、『お坊さんも戒名もいらない』など、自分の死後のこともメモに残していました。作るのはさぞつらかっただろうと思います。最後の日は荒い息遣いが続き、長男が駆けつけるのを待っていたかのように、静かに逝きました」

 がんによる死だが、正さんは自らの意思を貫き、望まない治療は一切受けなかった。延命治療を拒否するメモに「私たち夫婦は……」とあるように、美津子さんも同様に考えていて、実は自らもメモを作っている。正さんのものより、中身はさらに具体的だ。

「徒に死期を引き延ばすための延命措置(胃ろう・人工透析を含む)は一切お断りいたします」「私の苦痛を和らげる措置は最大限に実施してください」「いわゆる植物状態に陥った時は一切の生命維持装置をとりやめてください」……

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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