成田さんは深く息を吸って妻の幸子さん(46)を問い詰めた。すると「管理人の佐藤さんは、高校の先輩なの。勤めていた会社をリストラされて、管理人になったそうよ。管理人室にはシャワーがないんですって。掃除やゴミ捨てで汗かいたままだなんて可哀想だからシャワーを貸してあげただけよ」と、平然と答えた。

「そうか……」

 だがいくら知人とはいえ、管理人が居住者の部屋に入るのは変だ。

 それからは葛藤の日々だった。妻が朝からめかしこんでいると、「ひょっとしたら、オレの留守中にあの管理人がうちにいたりして」と疑う。出張先でも、「管理人が妻と抱き合っているかも」と妄想が膨らんでいく。たまらなくなって妻に電話をかけるが、何度コールしてもつながらない。「今ごろ妻は……」と、また妄想にとらわれてしまう。しかも折り返しの電話をかけてこない妻に腹が立つ。これまで妻を信じてきたから、出張先から一度も電話をかけたことがなかった。だがそれは間違いだったかもしれないと、今度は自分を責めてしまう。帰宅して妻の顔を見るたびに「オレを裏切っているのか」と苦しくなる。成田さんは疑惑と妄想のはざまでさいなまれた。

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