──「治療したい」という気持ちと「舞台に立ちたい」という思い、そのせめぎ合いだったのでしょうか。

 せめぎ合いもあるし、なりたくてなったわけではないですからね。治療には早い人で1年、長いと5年くらいかかると言われているし、完全に治るかどうかもわからない。ただ、「音楽ができない」とは考えていなくて、要は爆音を聞かなければいいんです。一人で曲を作ったり、大音量でない小さなステージなら今でも立つことができますから。もちろん、以前と同じというわけにはいかなくて、エレキギターを弾きながら歌う、踊りながら歌うとか、同時に何かをやるのは難しい。それでも、この現状のなかで何ができるか、何かおもしろいことができないか、そう考えたほうが頭いいし、効率もいいですから。

──現在の剛さんの症状は?

 食器がカチャカチャいう音とか、高い音は正常に戻ったんですけど、真ん中の音やさらに低い音、男の人の声とか、楽器でいうとベースとか、波のうなるような音なんかはまだ難聴です。そういう音が耳に入ってくると何を言っているのかよくわからないし、音量が大きくなると音が倍増して頭の中で響くんですよ。だから歌っていても音を見失ってしまう。それでも今は、日常生活は大丈夫です。不便ではありますけどね。最初の頃は踏切の音とかもすごく頭に響いて、ゴハン食べに行っても人がペチャクチャしゃべる音や食器の音が強調されて疲れるだけだったんですよ。だから左耳に耳栓をして、右耳だけで生活したりしていました。今はリハビリとして、右耳に耳栓をして左耳にヘッドホンをして、大きくない音量で聴いたりとかしています。スポーツ選手が故障を補うためにトレーニングをするのと同じですね。

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