町田さんは妻と一緒に新宿神経クリニックを訪ねた。渡辺医師は問診、脳波検査、関連病院での長時間ビデオ脳波モニタリング、MRIを実施。町田さんを潜因性の高齢発症てんかんと診断し、薬物療法を開始した。

 てんかん治療は、発作を防いで日常生活が支障なく送れるようにするためにおこなわれるが、とくに高齢者に対しては、記憶障害を進行させないことも大きな目的になる。治療開始までに失われた記憶は戻ってこないが、それ以後は人生における大事な出来事を忘れないようにするのだ。

 治療には抗てんかん薬が用いられる。てんかんを根治するのではなく、発作を抑えるもので、20種類ほどある。発作のタイプによって効くものが違い、高齢発症てんかんには、部分発作に有効な種類を選ぶ。

 それらはさらに、従来薬と新規薬に分けられる。効果は同等だが、新規薬は副作用が少ない。これにはラモトリギン、レベチラセタムなど数種類あり、副作用の内容などを考慮して、患者に合ったものを用いる。

 また、高齢者の多くは持病があり、ほかの薬を飲んでいるので、相互作用にも注意が必要だ。

「大事なのは、少量から始めることです。高齢者は薬の効きがよいのですが、副作用も出やすいので、通常量の3分の1から始めます。効果と副作用を秤に掛けながら、必要があれば徐々に増量していきます」(渡辺医師)

 町田さんは、レベチラセタムを通常の3分の1量から始めた。2週間後、妻は「発作は出ていない。元気になって、イライラも少なくなった」と話した。それから1年以上、同じ量を維持しているが、発作は起きていない。

「医師の指示どおりに服用を続ければ、約9割の人は発作を起こさずにすみますが、飲むのをやめると発作が出ます。飲み忘れがないよう、薬をカレンダーに貼り付けるなど工夫するといいでしょう」(久保田医師)

 てんかんが疑われる場合は、精神科、神経内科、脳神経外科などが受診先になる。てんかん専門医は、日本てんかん学会のホームページに掲載されている。(ライター・竹本和代)

週刊朝日 2017年11月24日号