複雑部分発作は、けいれんがないのが特徴だ。目は開いたまま、急に動きを止めてボーッとしたり、口をモグモグ動かしたり舌をペチャペチャ鳴らしたり、貧乏揺すりのように足を小刻みに動かしたりといった具合で、知識がなければてんかんの発作には見えない。

 発作は数十秒から数分で終わる。ただ、その後も症状は続き、元の状態に戻るまで数時間から時には数日かかることもある。その間は話しかけられると「ああ」とか「うん」とか生返事をすることが多い。元の状態に戻ってからそのときのことを聞いても、本人は覚えていない。

「また、人生の大事な出来事を忘れてしまう記憶障害も起こります。それで、よく認知症に間違われるのです」(前出の渡辺医師)

 東京都に住む町田隆さん(仮名・67歳)は2年ほど前から短気になり、ささいなことで怒るようになった。半年後、家族で食事中に、初めての家族海外旅行だったハワイの話題になった。しかし町田さんは、その旅行にまつわるすべてのことを覚えていなかった。

 家族は認知症を疑い、町田さんを神経内科に連れていった。認知症の検査は正常で、MRI(磁気共鳴断層撮影)にも異常はなかった。「元気がないし、何か変」と思いながら町田さんの様子を注意深く見るようになった妻は、1カ月ほどで、町田さんの動きが急に止まること、口をモグモグさせることに気づいた。娘に話すとインターネットで調べてくれ、てんかんかもしれないことがわかった。

 てんかんの診断では、問診と脳波検査が重要だ。

「家族など身近にいる人が同行して普段の言動を教えてくれたり、発作中の様子を動画撮影してくれたりすると、よい情報になります。一人暮らしの方は、趣味の会やデイサービスなどに参加して、普段の自分をよく知る人を作っておきましょう」(久保田医師)

 脳波検査は、発作が起こっていないときにしても、てんかんが疑われる波形が描出されることが多い。それがあったら、長時間ビデオ脳波モニタリングの実施が望ましい。

 これは数日から1週間ほど入院してもらい、連続して患者の様子と脳波を同時に記録する検査だ。専用の装置が必要であり、患者の負担も大きいので、できる施設は限られる。なお、MRIなどの画像検査は原因疾患を特定するためにおこなわれるもので、てんかんかどうかの診断はできない。

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