バンクーバー五輪では金メダルにあと一歩届かなかった(c)朝日新聞社
バンクーバー五輪では金メダルにあと一歩届かなかった(c)朝日新聞社
浅田真央の軌跡(週刊朝日 2017年11月10日号より)
浅田真央の軌跡(週刊朝日 2017年11月10日号より)

 日本中を熱狂させた浅田真央の引退し、すでに半年が経った。なぜ彼女は多くの人に愛されたのだろうか。その理由を探った。

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 朝日新聞スポーツ部の後藤太輔記者の話だ。

 2013年に東京・代々木競技場で行われた世界国別対抗戦終了後のインタビューで真央さんは、

「来季は集大成のいい演技にしたい」

 とコメント。翌年のソチ五輪がゴールと定めているのかと、記者らはざわついた。そこでその日の夜、もう一度真央さんを直撃した。

「ソチのシーズンが最後ということなのですか」

 すると真央さんは、かわすことなく「今はそのつもりです」と答えたのだ。後藤記者は当時を振り返る。

「夜にバスに乗る瞬間だったため彼女の表情まではうかがい知れません。でも真央さんはそう言ったんですよ。そこまで無理しなくてもいいのに」

 取材を受けたら質問から逃げたり、偽ったりしない。

「思っていることをそのまま言うのが真央さんらしいのです」(後藤記者)

 後になって、姉の舞さんから真央さんは、「えー、言っちゃったの」と驚かれたという。

 ソチ五輪後の記者会見での真央さんのコメントを覚えているだろうか。森喜朗元首相が「大事なときには必ず転ぶ」と発言したことをどう思うのかと、外国人記者に聞かれた真央さんは、「人間なので失敗することもありますし」と言った上で、こう答えたのだ。

「私はなんとも思っていないけれど、たぶん森さんは少し後悔しているのでは」

 後藤記者は、笑って言う。

「そんなふうにかわすなんて、最高だなと思いました」

 感情が素直に出る。無茶振り質問を記者から投げかけられても真剣に考える。記者に対しては、足の爪先から体ごと向けて真剣に回答するという。

 器用ではないが一生懸命で、古風な人の琴線に触れるタイプ。

「だからお年寄りにも好かれるのかもしれません。全世代的に好かれる。いつも一生けんめいだから」(後藤記者)

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