首尾よく建物が完成したとしても、原発にはその後もリスクが付きまとう。東芝で原子力プラントの設計技師を務めた後藤政志氏は、地震や津波が少ない英国にも原発事故の原因となる要因はたくさんあると言う。

「まず欧州を狙い撃ちにしているテロリストたちが格納容器にミサイルを撃ち込んだらアウトです。核燃料を冷やすための配管が壊れて冷却不能になる。そこから放射能もどんどん漏れ出し、止めるまで1カ月ほどかかるでしょう。特に危険なのは壁の厚さが1~2メートル程度しかない燃料プール。持ち運びのできる対戦車砲などで狙われたら防ぎようがありません」

 人為的なミスや内部の機器トラブルも怖い。

「79年にアメリカで起きたスリーマイル島原発事故の原因は主給水ポンプの故障でした。どんなに安全性を高めても事故のリスクが絶えないのが原発。いったん重大な事故が起きれば住民などからメーカーが訴えられます。現に、福島原発事故ではGE、日立、東芝の責任を求めて訴訟が起こされている。原発を輸出するということは、そうしたリスクを負うことになるのです」(前出の後藤氏)

 こうした不安要素に対し日立は、子会社のホライズン社への出資比率を引き下げることでリスクを減らすと強調する。

「これから出資者を募り、ホライズン社を当社の会計上の資産から取り除く『オフバランス』にします。資産から省くことができなければ、19年に決めるウィルファの原発プロジェクトへの最終投資を実行しないことにしています」(日立製作所広報部)

 だが、これだけリスクが大きい原発事業を背負い込むところがあるかは微妙だ。

「海外企業はない。あるとすれば、国内の電力会社が間接的に運営するかどうか」(業界関係者)との見方も出ている。

 たとえホライズン社をオフバランス化できなくても、もう撤退できない状況に追い込まれていると指摘するのは前出の宗氏だ。

「やめると言いだしても、アベノミクスの成長戦略の一環として原発輸出を進めたい政府がそれを許さないでしょう。日立の中西宏明会長が『原子力事業自体に疑義がある』と言い始めたのは、輸出する見返りに政府にしっかりとフォローをしてほしいと遠回しに要望しているのにほかなりません」

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