実際、高齢者にはどれくらいの薬が処方されているのか。先のガイドラインによると、医療機関の診療報酬明細書(レセプト)の調査では、70歳で平均6種類以上の薬を服用していた。また、薬の数が増えるほど、健康への害(有害事象)が生じ、特に6剤以上でリスクが増えることもわかった。

 この理由について、総合診療医の徳田安春さんは、次のように解説する。

「加齢にともない腎臓や肝臓の機能が落ちて、薬の代謝が悪くなるので、薬の成分が体内にとどまりやすい。さらに、身体の脂肪の割合が高くなるため、脂溶性の薬が残りやすい」

 そのため有害事象が起こりやすいのだという。

 先にも述べたが、高齢者は糖尿病や高血圧、心臓病、関節の痛みなど、複数の持病があることが多い。

「関節痛などで、“痛み止めには胃薬”というように、副作用対策として必ずセットで処方される薬もあるので、薬の数はどんどん増えてしまいます」(徳田さん)

 薬が増えれば、薬と薬の相互作用が起こりやすい。冒頭の男性のケースのように効果が強まったり、逆に弱まったり、思わぬ症状を引き起こしたりすることもある。例えば、認知症の薬とパーキンソン病などの治療に使う抗コリン薬を併用すると、効果が薄れることがある。また、骨粗しょう症に使うビタミンD製剤と、降圧に用いる利尿薬の併用で、血液中のカルシウムが増える高カルシウム血症のリスクが高まる。

 救急の現場でも診療にあたっていた徳田さんは、搬送されてきた高齢者で、多剤処方が原因と思われる症例をいくつも見てきた。

「高カルシウム血症は、重症になると意識障害が起こることがあります。高齢の患者さんやご家族に話を聞くと、多くの薬を飲んでおられる。過ぎたるは及ばざるが如し、です」(徳田さん)

週刊朝日 2017年7月21日号より抜粋