WBCに注目が集まるなかで、西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、プロ3年目に突入した楽天の安楽智大に期待を寄せる。

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 2月18日から沖縄のキャンプを巡ってきた。各球団ともに実戦を開始しているし、紅白戦や練習試合では楽しみな戦力がいたよ。

 侍ジャパンも宮崎で合宿を行うなど注目は代表選手に集まっているが、私が見て驚いたのは楽天の安楽智大だ。プロ3年目に突入した20歳。2月22日に沖縄で巨人と楽天の練習試合を見て、彼の変身には目を見張った。

 WBCでもエース格となる巨人・菅野との先発での投げ合いだったが、4回無安打無失点。16日の韓国・ハンファ戦でも3回1安打無失点だったから、結果も伴っている。何より、内容がある。

 体の内側にパワーをためこめるようになった。体全体を使った投球フォームと荒々しさで甲子園でも活躍し、ドラフト1位で入団したが、昨年までは力を無駄に外に逃がしていた。言葉では難しいが、今年は体の内側にパワーをためこみ、腰の回転、腕の振りにつなげている。

 そして、軸がまったくぶれない。練習試合では、安楽へのライナーが飛ぶ場面があったが、キッチリ対応して捕球していた。昨年までのように目線がぶれていたら、捕れなかったかもしれない。今年大きく飛躍することを予感させる。

 1軍で実績を積んでいない選手がブレークするには、とにかく良いスタートを首脳陣が切らせてあげることだ。そして安楽本人の心構えとしては、多少打たれたところで何かを変えようとしないことだ。今の形で投げ続ければ、必ず結果はついてくる。打たれる中で学ぶべきは、技術的な変更ではなく、投球術である。そうすれば年間ローテーションを守れるし、勝ち星も挙げられる。

 同じプロ3年目の西武・高橋光成はまだまだ物足りない。技術的にも、向かうべき方向性が定まっていない。このままだと同期で大きな差が開いてしまうよ。

 
 WBC期間中には各球団の主力が抜ける。1軍定着を狙う若手にとっては、これ以上ないチャンスだ。キャンプ地を巡って、私が自然と目を向けるのはそういった選手たちである。例年以上にオープン戦でもチャンスをもらえるはずだ。WBCは若手にとっても「4年に1度」の絶好の機会ととらえてもらいたいよね。

 菅野の投球にもふれておきたい。結論からいえば、十分世界をねじ伏せられる内容であると感じた。私が投手総合コーチを務めた前回2013年大会の田中(現ヤンキース)がスライダーを操れなかったような、球種ごとの不安も見られない。本来の力を発揮できる状態だ。過去の日本人大リーガーが証明しているように、日本でエースと言われる投手は必ず世界で通用する。菅野が投げる試合は確実に勝利をおさめていってほしいよね。

 小久保監督も代表合宿集合日の全体ミーティングの中で、勝つための采配を選手に伝えたとの報道も見た。当たり前のことだが、事前に登板スケジュールを伝えてくれる所属球団のようなことは、代表ではできない。選手も十分に理解しているだろうし、3年半をかけて作ってきたチームだから結束力は今までより上。楽しみに戦いを見守りたい。

 世界一を目指す代表と、その裏でレギュラー奪取、1軍定着を図る若い選手たちの双方の視点で3月の実戦も見ていきたい。

週刊朝日 2017年3月10日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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