

著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は小説家・尼僧の瀬戸内寂聴さんの大市(だいいち)「◯鍋」だ。
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このお店は、作家の里見とん先生に連れていってもらったんです。先生はこの鍋を食べるためわざわざ鎌倉から京都にいらっしゃるというほど、お好きでした。あれはまだ出家する前のこと。出家して44年だから、50年近く通っていることになります。祇園のお茶屋の女将さんたちもよく行っているので、『京まんだら』に登場させました。
鍋には野菜などは入っていなくて、すっぽんだけ。それをお酒で煮込んでいるんです。面白かったのは、革命家の荒畑寒村先生をご招待したとき。寒村先生は「おいしい、おいしい」と喜んでくださったけど、雑炊の前に急にひっくり返っちゃったんです。下戸の方で、鍋のお酒に酔ったそうなの(笑)。
私、うっかりこの店の電車の吊り広告に出ることになったんです。担当編集者にそう話したら、その人のお母さんに「尼さんがすっぽんの広告になんて!」と怒られて、中止になってしまいました(笑)。でも今も元気でいられるのは、すっぽんのおかげもあると思うのよ。
「大市」京都市上京区下長者町通千本西入ル六番町/営業時間:12:00~13:00最終入店、17:00~19:30最終入店/定休日:火
※週刊朝日 2017年3月3日号

