仕事も、事務職といった人気の求人はほとんどない。採用に積極的なのは、飲食関係や警備、清掃や介護など賃金が低めできついとされる分野だ。工事現場での交通整理、飲食店やコンビニエンスストアなどで深夜も頑張る人がいる。働きすぎで体調を崩し、藤田さんのところに相談に来る高齢者も多い。「生涯現役」のかけ声のもとで死ぬまで働くことが普通になれば、こうした「過労老人」は急増していく。

 働けなくなれば生活保護を受けることも選択肢だ。受給しているうち高齢者の世帯は16年3月に5割を超えた。制度ができた1950年以降で初めてだ。

 だが、財政の余裕がないとして受け付けに消極的な自治体もある。藤田さんによると、生活保護の基準に当てはまるのに実際には受けていない人は、いまの受給者の6~7倍はいるという。保護が受けられないまま食べるものがなく、万引きや無銭飲食をして捕まった人もいる。

 藤田さんは、セーフティーネットからこぼれ落ちる人はますます増えると危惧している。

「地域の活動などで人間関係を豊かにし、いざというとき頼れる人をつくっておくことが大事でしょう」

 社会保障制度に詳しい慶応大学の駒村康平教授(社会政策)も、米国を例に、健康と収入の負の連鎖が深刻になると心配する。米国では医療保険制度の問題もあって、所得階層や住む地域によって健康の格差が広がっている。

「日本でも同じような傾向が見え始めている。高齢者の定義を見直しても、社会保障を一律にカットするのはよくない。セーフティーネットを充実させることが必要。高齢者だからというだけでは優遇されず、健康で所得のある人には現役並みの負担を求める一方で、働けない人には公的に助成する。まだ時間がある。いまから準備すべきです」

週刊朝日  2017年2月3日号より抜粋