帰国子女でもなければ、海外勤務や留学の経験もない田代さんは、55歳で通訳学校に通いだした。週末ごとの「新幹線通学」を定年まで続けた。

「最初は通訳になるとまでは考えていませんでした。でも、勉強を始めたら会社員人生の後に、英語で飯を食うことが目標に。お金も時間も投資しましたが、今は月20日以上は仕事をしています」(田代さん)

「英語」という新しい知識を身につけると、人間関係も変化。会社員時代に技術畑を歩んできた田代さんの経験を、外国人のビジネスパーソンたちに話してほしいという講演依頼も相次いでいるのだ。

「『カイゼン』が注目されるように、日本の技術力に対する海外からの関心は高い。日本の企業での経験を聞きたいというニーズは多いと思います」(同)

 16年には、訪日客数は2千万人を超え、増加傾向が続く。20年に行われる東京オリンピックでは、9万人近くのボランティアが必要といわれている。

「東京五輪に向けて、日本のことを外国語で解説し、案内できる人が必要とされています。中高年が活躍する良いチャンスではないでしょうか」(同)

 訪日外国人のもてなしは家族や友人からの尊敬も集められそうだ。そう、勉強がもたらすのは「お金」だけではない。仕事を離れ「肩書」がなくなると、会社員時代のお付き合いが途絶えてしまう人は珍しくない。そんな人にとって、人気者になれる起死回生のツールこそ、勉強なのだ。

 身につける知識は語学でなくてもいい。前出の和田さんは言う。

「私の場合は、ワインの勉強です。それから料理もオススメ。ホームパーティーなどを開けば、人脈づくりにもつながります」

 料理の腕前をプロ級に磨かなくても、本などで知識を豊富に蓄えれば、周りに自然といろんな人たちが集まってくるという。

「白トリュフは『ダシとして使ったほうがおいしい』なんてことを料理と一緒に披露できれば、みんなも『へぇ』となりますよ」

 とはいえ、中高年の勉強には、記憶力の低下という壁が立ちはだかる。前出の田代さんも率直に打ち明ける。

「若いときは記憶力もいいですが、この年齢になると、単語がすぐ覚えられないなど、暗記では確かに苦労も多いです」

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