和田さんは、著書でオランダの大学が実施したある調査に着目している。

 表は、55歳から85歳までを対象に行った4年後の死亡率の研究の結果だ。がんや心臓病の有無、情報処理速度や流動性知能のテストの結果と死亡率の関係を調査。平たくいえば、長生きには何が影響するのかを調べたものだ。

 知能を測る二つのテストで上半分のスコアだったグループのほうが、下半分のグループと比べて死亡率が低かった。その上、がんや心臓病の有無よりも差がはっきりしていた。

 さらにこの研究では、学歴と死亡率の関係も調査。その結果、大卒より高卒だった人のほうが死亡率が低かったことが示されている。

「私の仮説ですが、死亡率には、若いころに勉強ができた(した)かではなく、年をとってから頭を使っているかが重要なのでは。定年後に何もせず毎日同じようなことをして過ごしているほうが、早く亡くなる傾向があると読み取れそうです」(和田さん)

 頭を使う生活の大切さは、日本一の長寿県である長野県の「ある特徴」にもみてとれるという。長野の長寿の背景は、地域医療の充実や食生活、山歩きなどで体を動かすといったさまざまな要因がこれまであげられてきたが、和田さんは、働く高齢者が多いことにも注目する。

 総務省の統計(2012年)によると、都道府県ごとの65歳以上の高齢者人口に占める就業者の割合は、長野県は男性が38.5%、女性が19.7%といずれも1位だった。

「働き続けることは、頭を使い続けているということ。運動も効果はありますが、頭を使うことのほうが健康寿命に関係すると考えています」(同)

 学びのメリットは、健康や長生きばかりではない。

 年金制度改革法が成立し、年金の支給額の先細りが懸念されている。60歳を過ぎても収入を得る手段があれば、安心できるというもの。ただ、単純作業は機械やAIにとって代わられ、体力勝負の仕事は年齢を重ねるにつれて不利になる。

 前出の田代さんは言う。

「老後に備え、最初はある程度の自己投資をしてでも勉強して、知識を身につけて稼ぐのはひとつの選択肢だと思います」

 60歳で同時通訳の職を手に入れた田代さんは、今では会社員時代のピーク時並みの収入があるという。

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