作家・室井佑月氏は、日本を称えるようなメディアの風潮に、その背景にある政治との関係をみる。

*  *  *
 
 2017年もあたしが言いつづけるのはこれ。この国は、歪(いびつ)になってきてやしないか? そして、その歪が当たり前になってきてはいないか? それはうんと恐ろしいことである。

 12月23日付の東京新聞「こちら特報部」の記事を取り上げる。

<テレビや本は今年も「日本スゴイ」の称賛であふれ返った。(中略)自己陶酔の先には何が待っているのか。この間、「世界の報道自由度ランキング」などで日本メディアの評判は下落の一途をたどった。戦時下の日本でも「世界に輝く日本の偉さ」が強調され、やがて破局を迎えた。タガが外れ気味の「スゴイブーム」を斬る>

 という良記事だ。記事の中で上智大の音好宏教授は、

「社会が閉塞する中で、日本をポジティブに紹介してくれる番組を視聴者が選ぶ状況になっている」と分析している。

 もう一人、出版人らでつくる「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」事務局の岩下結氏は、「原発事故によって日本の技術がこてんぱんに打ちのめされたが、いつまでも引きずっていたくない。被害妄想からまず嫌韓本が広まった。これが批判を浴び、置き換わる形で一五年ごろから日本礼賛本が目立ってきた」と分析している。

 つまり嫌韓本と日本礼賛本を好む層の根っこは、つながっている。嫌韓も「韓国は酷い。日本はスゴイ」と言いたいのだから。岩下氏は「言ってほしいことを確認することが目的になっている。自らを客観視できないことは非常に危険だ」と言っていた。あたしもそう思う。

 
 隣の国を叩いていれば、日本の技術力は上がるの? カジノ誘致で盛り上がっているが、博打の儲けを当てにする国になっていいの? ふたたび、技術力の日本という誇りを取り戻すため、メディアは安倍政権の間違った成長戦略を正すべきだろう。

 編集者の早川タダノリ氏は、「(満州事変以降、日本主義の)批判勢力が市場から締め出された。第二次世界大戦に突っ込んでいった一因とも言える」と言っている。そしてまた「政治家が『日本人としての誇りを取り戻せ』と振った旗に、メディアが呼応するようになった」と。

 最後に、この記事のおまけ、デスクメモが面白いので取り上げる。

<(略)安倍晋三首相は二十日夜、全国紙やテレビキー局の解説委員らと都内のしゃぶしゃぶ屋で会食している。首相と親交がある記者の集まりで、二〇〇八年ごろから定期的に開催されているという。「総理スゴイ」などと言って盛り上がったのだろうか>

 どうなんですか? BSジャパン・石川さん、読売・小田さん、日テレ・粕谷さん、NHK・島田さん、朝日・曽我さん、時事通信・田崎さん、毎日・山田さん、「スゴイ、スゴイ」と安倍さんをヨイショしながら食べるしゃぶしゃぶは旨かった?

週刊朝日 2017年1月20日号

著者プロフィールを見る
室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

室井佑月の記事一覧はこちら