西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、先日行われたプロ野球ドラフト会議で西武ライオンズに1位指名された作新学院高の今井達也投手に期待を寄せる。

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 10月20日にドラフト会議が行われた。創価大の田中正義投手の5球団指名は前評判通りで驚かなかったが、桜美林大の佐々木千隼投手は1位指名はなく、外れ1位で5球団が競合した。こちらが意外だった。

 各球団の近年のドラフト会議の指名の決め方を象徴していた結果といえるだろう。多くの球団が当日のドラフト会議直前までスカウト会議を重ね、1位指名候補数人のうちの誰に行くかを決める。そこには他球団の票読み予想も入る。多くの球団によるクジではなく、一本釣りを狙いたい──。今回、田中と佐々木の競合を避け、高校生を指名した球団は一本釣りに成功したし、佐々木を回避すると予測できた球団があれば、一本釣りできた。

 昔は、一本釣りのために様々な手を尽くしたといわれる。例えば西武が1986年のドラフト1位で指名した森山良二(現楽天投手コーチ)。森山はONOフーヅという会社所属でそこには野球部がない。そんなチームの選手を1位指名するのだから、何か裏があると思うのが当然だろう。私は当時、現役の投手で詳しいことは知らなかったが、知人にグラブがほしいと言われて渡し、転々として最後に森山の手に渡っていたことを後で知った。今は昔の懐かしい思い出だ。裏金が問題となって、今では公平な形でのドラフトとなっているが、その分、純粋にほしい選手をどんな手を使ってでも獲得するという熱意は表に見えなくなっている。

 
 西武はドラフト1位で指名した甲子園優勝投手、作新学院高の今井達也との交渉権獲得に成功した。甲子園で見た彼の投球には目を見張った。腕の振りのしなやかさ、下半身と上半身のバランス、テイクバックからフィニッシュまでの形、左肩がまったく開かない点など、打者が打ちづらい球を投げられるポイントがしっかりとしていた。甲子園で一気に評価をあげた投手なので、コンスタントに力を発揮できるかは未知数だが、素材の良さは確かだ。

 あとは球団がどう育成していくか。2014年ドラフト1位ルーキーの高橋光成は、入団当初は150キロ前後の速球と腕の振りは良かったが、プロの怖さを知り、暴れ馬のような投球は影を潜めている。チームとしてどういった選手に育てたいのか。ローテーションの一角を守っての10勝でいいのか、球界のエースに育てたいのか。ビジョンが見えてこない。やっと菊池雄星がきっかけをつかみつつあるが、近年の西武の投手育成は成功とはいえない。

 高校生の投手の育成は難しい。結果をほしがってすぐに筋力をつけたがる選手がいるが、18歳はまだ成長が完全に止まっていない。今井投手はまだ線が細いが、今の筋量やバランスが、あれだけの素晴らしい投球フォームを生んでいる可能性もある。まずは投球練習、ランニングを繰り返す中で、投げながら体を大きくすることを基本軸に考えてほしい。目先のトレーニングで、体を単に大きくするだけでは成長はない。長い目で大きく育てることだ。その意味で、現役時代に体の細かった新任の西口文也2軍投手コーチに期待したい。

週刊朝日  2016年11月11日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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