金平:残高証明を見せられ、愕然(がくぜん)としました。残高が2242万円になっていたのです。安河内さん側に約2600万円を差し押さえられていました。健保金が訴訟を巡る費用に充てられていたわけです。協会には何の報告もありませんでした。

 JBCの内紛が原因なのであって、協会や選手には何の責任もありません。「穴埋めできるんですか?」と問うと、浦谷さんたちはウーンと唸ったまま。浦谷さんの「善処します」という言葉を信じ、協議を終えるしかなかった。協会側は使途を明らかにするため、第三者による調査委員会の設置を求めました。

――その後、協会とJBCは何度か協議の場を持つが、物別れに。8月23日、JBCは緊急理事会を開催。出席したのは9人中6人の理事で、健保金問題について協議した。協会側が提出した、調査委員会の設置、浦谷本部長の職務停止、安河内元事務局長の復職などの議案は、すべて多数決で否決された。

 協会案への賛成は、前協会長の大橋秀行氏と津江章二・共同通信編集委員。反対に回ったのはコミッショナーで東京ドーム会長の久代信次氏、東京ドームホテル元会長の土屋誠次氏ら。

金平:コミッショナーが参加されることは、想定していませんでした。私たちには最後の“頼みの綱”でしたのでショックは大きい。コミッショナーは最終決定権限者です。私はコミッショナーの見識を信じてきましたが、健保金問題の重大さをどれほど熟知しておられたのか、甚だ疑問です。

 私の父(故・正紀氏)は82年に、週刊誌報道に端を発した「毒入りオレンジ」事件(※)でライセンスを7年間、停止されました。当時の保坂誠コミッショナーは会見で「限りなくクロに近いグレー」と語り、父を断罪したのです。正直申して疑義はありましたが、何度も理事会を開催して議論を重ねた末の裁定でした。それほどコミッショナーの言葉は重いと考えてきました。ところが、今回の理事会はまったく異なる。協会からの傍聴者は2人までに制限し、資料の持ち出しを禁じるなど、密室状態で採決したのも同然なのです。コミッショナーには協会とJBCの間に立って委員会を設置するなど、威厳を示してほしかった。

――理事会の決定に対し、全国のジム会長らの怒りは収まらない。健保金問題を真っ先に追及してきた名古屋の緑ジム会長・松尾敏郎氏は、JBC幹部らに対し、背任などの容疑も視野に刑事告発を検討している。

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