「選手を守るための健保金が、一般会計だから何に使ってもいいと開き直られて怒らないのはおかしい。妥協してはならない問題だと思います」(松尾氏)

 一方、JBCの見解を問うと、浦谷統括本部長は次のように語った。

「健保金を一般会計に入れた時点で、『基金』という概念はなくなり、健保金の『相当額』と呼んでいます。専用口座も存在しません。協会の一部の方が確認した口座の残高がたまたま2242万円になっていただけで、健保金の相当額は、会計上は4千万円以上あることを説明しました。(『善処します』と言ったかは)記憶にありません」

 浦谷氏は取材に対し、健保金相当額は今年8月31日時点で約4700万円あると語ったが、その根拠を示せなかったからこそ、金平氏らの納得が得られなかったのではないか。JBCが専用口座の存在を否定する理由について、JBC関係者が説明する。

「専用口座を認めると、選手の基金であることを認識していたことになり、目的外に使ったことが明らかになってしまうからです」

 不幸にも、試合で選手が脳挫傷や脳出血などで死亡したり、重度の障害が残ったりするような事故は起きてきました。私のジムでも、9年間意識が戻らないまま亡くなった選手がいます。葬式に駆けつけましたが、お棺には試合時に着けていたトランクスとガウンが入っていました。彼の体は小さくなり、お母さんから「9年間戦ってきた男の顔を見てやってください」と言われ、足が震えました。私は夢と希望を語りながら、選手たちをリングに上げていることを甘く考えていたのではないか、と反省せざるを得ません。

 リング禍が起き、失われる命、後遺症に苦しむ命があります。健保金をせめてもの代償として、私たちは大切な命を預かっている責任があるのです。健保金問題をごまかし続けるJBCは恥を知るべきです。

※1982年に発覚した事件で、協栄ジムの当時の金平正紀会長が、具志堅用高らの世界王者タイトルマッチの対戦相手に、薬物の入ったオレンジなどを差し入れていたとされる。

週刊朝日 2016年9月23日号