が増えるのは人間がいるからだ。猫が自力でネズミや小鳥を捕食して生きているのだとすれば、それができない弱いものは淘汰され、増えすぎたりはしないだろう。男木島に限らず、猫が多い場所というのは、だいたい似たような経緯をたどっている。漁港に猫が多いといわれるのは、漁師が売り物にならない小魚を投げてやっていたからだ。

 またどんな集落にも必ず猫の好きなひとがいて、餌をやる。さらに観光客がキャットフードを持ち込めば、淘汰されるどころではない。それでも数が多すぎると、食べ物が行き渡らなくなる。

「あそこの猫たちは、おなかを空かせていました」

 プロジェクトに関わった香川県高松市の猫愛護団体、NPO法人「BONにゃん」代表の長町満里子さんがこう話す。

「初めて男木島の猫を見たのは、『猫島』として紹介されたテレビ番組でした。風邪をひいて涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった猫の顔が映し出されて、これは大変なことになっていると思いましたね」

 島に渡って視察したが、やはり明らかに栄養不良の猫が多かったという。キャットフードを送ってそれを与えるように指示し、体重を増やすところから開始した。猫が増えるのを止めるには、「TNR」という手法しかないと長町さんは考えている。捕獲し(Trap)、不妊・去勢手術をし(Neuter)、元の場所に戻す(Return)、の略だ。

 猫に困っているなら駆除すればいい、という考え方もあるだろう。しかし日本でも愛護意識の高まりから、国も自治体も猫の殺処分数を減少させる方向へ施策を転換しつつある。たとえ殺処分したとしても、猫が数匹でも残ればあっという間に繁殖して増え、結局はいたちごっこになることが多い。猫を殺さず、かつ数を減らそうと思えば、今いる猫に手術をするのがいちばん確実なのだという。

 猫への餌やりは手術後も続いている。以前に比べて毛艶は見るからに良くなり、鼻水を垂らす猫も見られなくなった。

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