※イメージ
※イメージ

 国内ではすっかり定着した日本のワイン。しかし、そうなったのは長い歴史から見ればつい最近のことだ。

 日本でワイン造りが始まってから約140年になる。だが長い間、ワイン市場が未成熟であったこの国では最近まで、少し傷んだり、見栄えが悪く、市場で売れないブドウなどをワインの原料にするワイナリーも少なくなかった。国際コンクールで入賞歴もある、岩手県花巻市大迫町のエーデルワインにも実は、そうした時代があった。それでは上質なワインはできないと、ワイナリーの中から改革の機運が高まった。

 転換点は1986年、キリッとした辛口の白ワイン「五月長根葡萄園(さつきながねぶどうえん)」の発売だった。同ワイナリーがワイン用ブドウの栽培に本腰を入れて造った、初めての商品。ブドウは、冷涼な岩手に最適として選ばれたリースリング・リオン。甲州三尺とリースリングを交配させてできたブドウだ。当時は無名に近かったが30年を経たいま、同品種の全国の醸造量のうち岩手県が9割を占め、県の代表品種となった。酸味が芯を貫くような、凜としたワインの味わいは、北上山地の冷涼な空気を思い起こさせる。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年8月7日号