鹿児島県の公立高校(全日制)全体でみると志願倍率は0.93倍。ほかにも、高知県全体で0.80倍、島根県は同0.94倍など、全国で同じ悩みを抱える高校があることがうかがえる。

 伊佐市では、大口高校の志願者減の最大の理由を、大学進学実績の低下だととらえた。東大合格者は03年に1人出て以降はゼロ。九州大の合格者も96年を最後に出ていない。国公立大全体に広げても、ここ3年間では12年が18人、13年が13人、14年は鹿児島大2人など4人だけだった。

 進学実績を伸ばすために、「志願者81名以上という数字を達成するためにはインパクトがある支援策が必要」(隈元市長)とひねり出した対策が、難関大合格者への奨励金だった。

 予算規模は5年間で5千万円。東大、京大、九大など旧7帝大と、それに準じる国公立大の医学部医学科など難関学部、早慶など難関私大の合格者には100万円、それ以外の国公立大や、準じる私大の合格者に30万円を交付する、というものだ。現在の高3生から交付を始め、来年からは浪人生も対象となる。

 この緊急支援策は昨年11月12日、市議会で賛成多数で可決された。ところが、これが全国的に報じられると、「お金で釣る教育」などという批判が噴出した。有名な教育評論家がテレビで「史上最悪の愚策」と酷評して話題にもなった。

 だが、隈元市長は言う。

「批判は市外からのものがほとんどです。過疎に悩み、疲弊している地方の実情をどこまでご存じなのだろうかと思います。市民の皆さまにはおおむね理解をいただいています。思い切った施策は時に批判の的となりますが、だからといって何もしなければ、座して消滅を待つばかりなのです」

 支援策について高校側はどうとらえているのか。同校の玉利博文教頭(52)はこう語る。

「ここ数年は、市内の中学の成績上位者の大半が、鹿児島市や姶良(あいら)市など市外の高校に進学しています。入学者が減少している本校にとって、支援策はありがたい。学校には県外から7~8件ほど奨励金に対する批判的な電話がありましたが、県内からはありません。『経済的に厳しいけど、ぜひ子どもを進学させたい』『大学進学はお金がかかるから、奨励金をもらえると助かる』といった声が寄せられました。既に、国公立大の推薦合格者10名に30万円の支給が決定しています」

 ただし、今年の同校の進学志願者は66人。昨年7月の56人から10人増えたものの、批判的な声が出たためか、思ったほどの効果はまだ見られない。

(庄村敦子)

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋