食事を拒んだり、過食後に嘔吐したりする摂食障害(せっしょくしょうがい)。以前は、見た目や体形を気にする思春期の女性に多い病気とされていたが、近年、その裾野は広い年代に広がりつつある。

 関東地方に住む主婦・田中葉子さん(仮名・57歳)は、身長149センチ、体重24キロの低体重で摂食障害が疑われ、昨年6月、東京大学病院に入院した。診察した心療内科科長の吉内一浩医師は、食事を受け付けない神経性やせ症(拒食症)と診断した。

 このとき初めて摂食障害の診断がついたが、実は、田中さんの病気が始まっていたのは、その17年前、38歳のときからだった。

 もともと体重は45キロあったが、38歳で第2子を妊娠したとき、ひどいつわりで28キロまで減少した。その後、30キロに回復したが、低体重による体力の低下を心配した主治医から、育児を両親に任せるように言われた。「私は、子育てさえできず、なんてダメな親」と自分を責め、食事ものどを通らなくなり、体重は再び28キロに落ちた。だが、特に日常生活に問題もなく、本人もまわりも摂食障害を疑わなかったため、そのまま17年が経過した。

 55歳のとき、両親が認知症になり、介護が始まった。田中さんは思うように介護ができないことで自信を失い、体重が23キロにまで減った。低血糖の発作を起こして近所の医院に行くと、「甲状腺ホルモンの異常」と診断され、摂食障害は一切疑われなかった。昨年5月、56歳で再び低血糖の発作を起こし、自宅近くの病院に緊急入院。そのとき初めて摂食障害の疑いがあると言われ、ようやく東京大学病院にたどり着いた。

 長年の低体重のため骨粗鬆症(こつそしょうしょう)がひどくなり、トイレで息んだだけで背骨を圧迫骨折した。寝たきりになりながらも栄養摂取の治療で体重は27キロに増え、食事も取れるようになったため11月に退院。しかし、父親の入院をきっかけに再び拒食するようになり、今年5月、低血糖で昏睡状態になり、再入院した。

 このとき、体重は22キロ。吉内医師は、食事の量を適正にしていく「認知行動療法」をおこない、食事量を増やし、体重を増加させることを目標に置いた。

「田中さんは、病的な低体重でも危機感を感じていなかったため、具体的なデータをもとに、体にとって今の状態がいかによくないかを理解してもらい、本人が食べたくなる動機づけをしました」(吉内医師)

 また、田中さんの症例を分析すると、いつも自信をなくし自己評価が低くなったときに、拒食を起こすことがわかった。

「食事をすることで、自己評価を高め、自信を回復することを意識しました。きちんと食べられたら『残さずよく食べましたね』『よく頑張りましたね』とほめ、食事量や体重を増やしながら、達成感や自信をつけてもらいました」(同)

 2カ月間で食事量を段階的に上げていき、7月には1日2400キロカロリーまで摂取できるようになった。体重は約30キロになり、退院した。

「摂食障害は若い女性に多い病気ではありますが、どの年代でも起こりうる病気です」

週刊朝日  2014年9月12日号より抜粋