甲子園 直木賞作家・木内昇が推す逸材 (2/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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甲子園 直木賞作家・木内昇が推す逸材

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木内昇(きうち・のぼり)直木賞作家。1967年、東京都生まれ。代表作に『漂砂のうたう』『櫛挽道守』。高校、大学とソフトボール部で鳴らした野球通。明治期の一高野球部が舞台の「球道恋々」を現在、小説新潮に連載中(撮影/写真部・松永卓也)

木内昇(きうち・のぼり)
直木賞作家。1967年、東京都生まれ。代表作に『漂砂のうたう』『櫛挽道守』。高校、大学とソフトボール部で鳴らした野球通。明治期の一高野球部が舞台の「球道恋々」を現在、小説新潮に連載中(撮影/写真部・松永卓也)

漂砂のうたう

木内昇著

978-4087451306

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櫛挽道守

木内昇著

978-4087715446

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 そして忘れてはならないのが、鹿屋中央に惜敗した市和歌山の3年生二塁手・山根。延長12回、1死一、三塁から一塁に送球、サヨナラを許しはしたが、そもそもあのイレギュラーバウンドに対応できる野手がどれほどいるか? 彼のグラブさばきの柔らかさ、フットワークのよさは絶品だと声を大にして言いたい。

 打撃では、山形中央の高橋和、三重の佐田を挙げる。両者とも負け越しの9回2死から起死回生の一打を放ち、チームを勝利へと導いた立役者。野球は必ず誰かしらが「最後のバッター」となる。土壇場で選手たちは「自分まで回って来い」との気構えで臨むはずだが、内心「最後」となるのを恐れもする。2死で打順が回ってきた日には、さまざまな思いが走馬灯のごとく駆け巡るのであって、冷静さを欠き「待つ」「見る」ができなくなる。バットも気持ち早く出てしまうため、引っ掛けて内野ゴロ、または球の下を叩いて飛球というケースも少なくない。彼らはこの重圧を、大舞台で見事跳ね返し、持てる力を出し切ったのだ。

 今大会一の呼び声高いパワーヒッター、智弁学園の岡本は、地方大会をひとりで投げぬいた明徳義塾の右腕・岸の前に散った。4打数2安打。高校通算本塁打73本の記録を持つ岡本だが、「ホームランは意識しなかった。チームのためだけを考えて打席に立った」。三振に打ち取られた球は変化球。試合後「力不足でした」と言葉少なに語っていたが、変化球に柔軟に対応する選球眼もスイングの迫力も圧巻だった。

 投手も逸材揃いで、前出の明徳義塾の岸は最速146キロの直球とフォークが持ち味。敦賀気比の2年生右腕・平沼も速さがある上、下半身が安定していて、見るからに球が重そうである。

 また、広陵戦で延長から登板した三重・森の特異なフォームも目を引いた。テークバックの速度がまちまちで合わせづらそう。球種で変えているわけでもなさそうで、金子同様、台風の目となりそうな存在だ。

 大会前から登場を楽しみにしていたのが、盛岡大付の150キロ右腕・松本、加えて、揃って140キロ台を投げるという東海大相模・青島、吉田、小笠原、佐藤の4枚看板。単に前評判通りで恐縮だが……。それはさておき、この2校が2回戦で早々にぶつかった。

 雨で40分試合開始が延びたのち、先に守りについたのは東海大相模。先発は3年生右腕・青島だ。マウンド状態が最悪にもかかわらず、140キロ超の直球に落ちるカーブを織り交ぜ、1回を三者凡退に切ってとる。球は走り、制球も完璧。突然プロが登場した、と見まごうほど高レベルである。

 対する盛岡大付の松本は、スライダーやツーシームの変化球構成。直球も120キロ台、先制も許し、下半身も流れがちで本調子ではなさそうだ。これは継投可能な東海大相模に分があるかもしれん、と思われた。

 だが6回、球威の落ちはじめた青島が捕まる。この日当たっている遠藤、立波の適時打で3点追加、試合をひっくり返した。反して松本は中盤以降徐々に球速を上げ、140キロ台の直球と低めに集めた変化球で打者を翻弄。ランナーは出しても得点は許さない。速球が話題先行していたが、むしろ技巧派投手なのだ。

 東海大相模は失策ゼロの堅守で、投手陣(最後に登板した吉田の変化球も冴えていた)も健闘したが、「打たせて取ることを心がけた」という松本が今回は上回った。甲子園という大舞台で、この大投手がどんな成長を遂げるのか。この後の熱戦も見守っていきたい。

週刊朝日 2014年8月29日号


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