物議を醸している医薬品のネット販売。楽天の三木谷浩史会長兼社長も批判の声を上げているが、ジャーナリストの田原総一朗氏もさまざまな面から「尋常ならざる事態」と指摘する。

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 楽天の三木谷浩史会長兼社長が、医薬品のネット販売についての厚生労働省の決定に激怒して、一時は産業競争力会議の民間議員を辞任すると表明する事態となった(後に撤回)。

 報道では一般用医薬品とは別に、要指導医薬品として28品目が定められ、これは「ネット販売」が認められず、薬店での対面販売が義務づけられたことになっている。専門の薬剤師が丁寧かつ慎重に説明をしないと、健康面などで問題が生じる危険性があるというのだ。

 薬店でフェース・トゥー・フェースで買うのと、ネットで買うのと、率直に言って私にはそれほど差異があると思えない。ただ、28品目を総合しても一般用医薬品の0.2%にしかならないと知って、私は三木谷氏の過剰反応だととらえていた。そしてその後、三木谷氏が辞意を撤回したので、一件落着で済ましてしまっていたのである。

 ところが、ケンコーコムという医薬関連サイトの後藤玄利社長から、意外な実情を聞かされた。

「実は要指導医薬品の対面販売を義務づけるというのは、実態を隠すための囮(おとり)なのですよ」

「囮」とはただならぬ表現である。それでは、「実態」とは何なのか。

「処方箋(せん)薬です。医師が処方箋を書いた薬品、つまり処方箋薬のネット販売が禁止となったのです」(後藤氏)

 私は後藤氏の説明を聞いてもピンとこなかった。要指導医薬品が対面販売しか認められないのであれば、より危険性の高い処方箋薬が対面販売となるのは当然ではないか。そのことを後藤氏に問うた。

「それは大きな誤解でして、医師が処方箋を書いているのだから、あらためて薬剤師と相談することも話し合うこともない。対面販売にしなければならない理由はまったくなく、ネット販売でも何の不都合もないわけです」

 こう説明されれば納得できる。確かに医師が処方箋を書いているのだから、処方箋どおりの医薬品を注文すればよいわけで、ネット販売で都合の悪いことはないはずだ。

「しかも処方箋薬は市場規模が一般用医薬品の10倍以上なのですよ。これがネット販売を認められないとは、ひどすぎると思いませんか」

 この説明を聞けば、三木谷氏が激怒したのが納得できる。それにしても、厚労省は処方箋薬のネット販売をどういう理由で禁じたのか。

「田村厚労相は、対面販売でなければならない理由を『薬剤師の五感による確認が必要』と言うだけです。これでは誰が聞いても理由になっていないでしょう」

 理由にならない理由しか言えないということは、結局、医師や薬剤師、医薬品業界の利権構造でコトが決まっている、ということなのか。

 ところで私は後藤氏の説明を聞くまでは28品目のネット販売禁止のことは知っていたが、処方箋薬がネット販売禁止になっているとはまったく知らなかった。新聞やテレビでも処方箋薬についてはほとんど報じていないのではないか。

「結局、新聞もテレビも医薬品の担当は厚労記者で、彼らは厚労省の役人たちに見事に誘導されて、囮である28品目のことばかりを報じている。処方箋薬隠しに、いってみれば加担させられているのです」

 後藤氏は顔をしかめてそう言った。これは、尋常ならざる事態とは言えないか。

週刊朝日 2013年12月6日号