昨今、アルツハイマー病は生活習慣病との関連性が指摘されている。特に、糖尿病を発症するとアルツハイマー病の発症率が約2倍高まることが、福岡県での大規模な疫学調査「久山町研究」ほか、数々の研究で報告されている。

 これは、糖尿病により発生することの多いβアミロイドという特殊なタンパク質に原因がある。βアミロイドは、脳に蓄積されると、5~10年でアルツハイマー病の発症につながる。βアミロイドは「老人斑」と呼ばれ、脳への沈着後に神経細胞を死滅させ、脳の萎縮を引き起こす。

 そのため、糖尿病の予防はもちろんのこと、糖尿病の誘因となる高血圧や肥満などの生活習慣病を予防することも、アルツハイマー病を予防するためには必要だと東京医科大学病院高齢診療科主任教授の羽生(はにゅう)春夫医師は説明する。

「認知症の発症要因が形成されるのは、働き盛りの40~50代です。高齢期に入る前に生活習慣をきちんと見直して、予防に努めることをおすすめします」

 アルツハイマー病は、現時点では認知症の症状がそろった段階で初めて病気と認められる。そのため、発症した段階で、保険承認されている4種類の薬で進行をゆるめる対症療法をするのが通常だ。

 一方、アルツハイマー病をごく早期か発症の前段階で発見し、完全な回復を目指す治療の重要性が注目されていると羽生医師は言う。

「βアミロイドが蓄積されている発症の前段階を、MCI(軽度認知障害)といいます。これは、物忘れが顕著でも、日常生活は自分でできる状態です。さらにMCI以前の段階をプレクリニカルAD(前臨床器アルツハイマー病)といい、これらの時期に完全に治すための根本治療薬の研究が進んでいます」(同)

 アルツハイマー病の予防や根本治療の可能性が見えてきたのは、超高齢化社会にとっては明るい話題だ。だが現時点では、発症したアルツハイマー病の進行を遅らせ、いかにQOL(生活の質)を保つ治療をしていくかが重要だ。

 アルツハイマー病は、医療機関の間の連携も大切になる。早期段階で病気を発見する「かかりつけ医」の存在はもちろん、そこから本格的に治療を担う「専門医」や認知症患者のための「認知症疾患医療センター」、合併症に対応する「精神科病院」、患者や家族の相談にのる「ケアマネジャー」との連携が最善の治療を施す鍵になる。治療以外の面では、判断能力の低下した高齢者が地域で自立できるように支援する「地域包括支援センター」などと協力態勢を強固にすることで、包括的に患者や家族の満足度を高めることにつながる。

週刊朝日  2013年11月1日号