肺がんで死亡する人は年間7万人。部位別では最も死亡者が多く、かかった場合の死亡率が高い「難治がん」のひとつだ。大きく「非小細胞がん」と「小細胞がん」に分けられ、8割以上は非小細胞がん。その中でも腺がんが多数を占めている。

 肺がんの主な治療は、手術、抗がん剤、放射線治療の三つだ。「がんの種類」「がんの進行度」「患者の状態(年齢、体力、肺機能、持病があるかどうかなど)」を総合して治療方針を決定する。国立がんセンター中央病院・副院長の浅村尚生医師は「肺がんの治療体系はわかりやすい」と言う。

「がんが局所にとどまっていれば、手術や放射線といった局所治療をします。病気I期、II期といった比較的早期のがんは手術で摘出すれば根治が期待できます。一方、局所であってもIII期でリンパ節も腫れているような状態になると手術で取りきるのは難しい。放射線で治療しますが、抗がん剤を併用したほうが治癒率は上がることが明らかなので、III期は化学放射線治療が中心になります。他臓器に転移したIV期は、全身治療(抗がん剤)です」

 肺は、右三つ、左二つの「肺葉」というブロックに分かれた構造になっており、がんのある肺葉ごと切除する(肺葉切除)。がんの位置や大きさによって肺葉一つ分で済むこともあれば、片側を全部摘出しなければならないこともある。

「根治のためには肺葉切除が最善の方法ですが、取った分だけ肺機能は低下します。そこで、もともと肺機能が悪い人は肺葉ごとではなく『区域切除』や『部分(楔状)切除』といった手術を検討します」(浅村医師)

 肺は、肺葉よりも細かくみると、右が10、左が8の区域に分けることができる。区域単位で切除するのが「区域切除」、がんがある部分だけを切除するのが「部分切除」だ。切除範囲が小さいため、肺機能を温存でき、負担が少ないが、がんの取り残しによる再発リスクは高くなる。

 一方「肺機能には問題がない人でも、早期がんであれば、多くの肺機能を残すために区域切除にしてもいいのではないか」という考え方もあり、現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)で肺葉切除と区域切除の有効性を比較する臨床試験が実施されている。この試験の主任研究者でもある浅村医師はこう話す。

「結果が出るのはまだ先ですが、『区域切除をしても再発率が肺葉切除とほぼ同等』『術後の肺機能が明らかに良好』の2点が証明されれば、標準治療になる可能性はあります」

 なお手術は開胸が標準治療だが、カメラや器具を胸腔内に入れて、モニターの映像を見ながら行う「胸腔鏡下(きょうくうきょうか)手術」をする病院もある。体への負担が軽いイメージがあるが、浅村医師はこう指摘する。

「開胸より傷は小さいものの、切ることに変わりありません。手術から退院までの日数もほぼ同じです」

 むしろ手術中に出血が起こったとき、すぐに手で押さえて止血できないなど、安全面にかかわるデメリットは大きいという。

「開胸か胸腔鏡かは、手術の本質には関係なく、安全、確実にがんを切り取って治すことが重要だということを忘れてはなりません」と浅村医師は話している。

週刊朝日  2013年9月6日号