『スタン・ゲッツ・クァルテッツ』(Prestige)
『スタン・ゲッツ・クァルテッツ』(Prestige)
『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)
『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)

 連載5回目も確信犯的に「ブラインド」です。というのも、「ジャズって、難しいなあ」とお嘆きになるみなさま方に、確信を持って推薦できる「ジャズのわかり方」は、とりあえずブラインドだからです。自分も書いているので墓穴を掘りそうですが、いくらジャズの解説書を読んでも、それでわかるのは「アタマの理解」で「カラダの実感」ではありません。通信教育の空手講座で強くなるはずが無いのと同じなのです。

 で、今回の識別ポイントは黒人と白人です。ジャズは黒人音楽として誕生しましたが、ジャズが広まるにつれ、ビックス・バイダーベックなど優れた白人ミュージシャンが大勢出現しました。そして面白いことに、ある時代(1970年代辺り)までのジャズからは、かなり明瞭に白人ならではの特徴が聴き取れるのです。1940年代後半に流行った“クールジャズ”の代表選手、スタン・ゲッツの『スタン・ゲッツ・クァルテッツ』(Prestige)などからは、それまでのジャズ・テナーの王者、コールマン・ホーキンスやらベン・ウェブスターらの黒々としたサウンドとは明らかに異なる特徴が聴き取れるのです。

 というわけで、コレクションとして後々まで楽しめる、黒白識別用名盤をご紹介いたします。まずは黒人ハードバップ・テナーの第一人者、ジョニー・グリフィンの『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)から《今宵の君は》を聴いてみましょう。このアルバムには、グリフィンのほかにもジョン・コルトレーン、ハンク・モブレイといったテナー奏者が参加しており、この3人を聴き別けるという「別の問題」もあって、お徳用。

 最初にソロをとるグリフィンの、コシが強く輪郭のハッキリとしたテナーの音色に注目してください。自由闊達なアドリブも凄い。そしてちょっと似ているけど、音色の違いがポイントとなるモブレイとコルトレーンが聴き別けられるようになったら、もうあなたはジャズ上級者(ということは、それがわからないうちは、まだまだなのです)。しかしどちらも色が濃い。これが黒人ミュージシャンの特徴なのです。

 そして、彼らと対照的なのがアルバム『スタン・ゲッツ・プレイズ』(Verve)に収録された同曲。グリフィンたち黒人ジャズマンに比べ、滑らかで流麗なゲッツのサウンド、フレージングにご注目。しかし、切れの良いアドリブ・パートではまったく負けていません。

 このように、黒人、白人それぞれの個性、特徴を識別できるようになれば、彼らそれぞれのジャズの聴き所がつかめ、それがジャズの面白さに繋がってゆくのです。[次回8/19(月)更新予定]

ジョニー・グリフィン [ジャズ名盤の聴き方]より

スタン・ゲッツ [ジャズ名盤の聴き方]より