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「話題の新刊」に関する記事一覧

吉行淳之介 抽象の閃き
吉行淳之介 抽象の閃き 女嫌いの女好き、冷たいニヒリスト、繊細で懐疑的、研ぎ澄まされた文章、娼婦と性の文学……。作家吉行淳之介に対する読者のイメージは様々だ。本書は、吉行の「人と作品」を丹念にひもといたもので、読者の一方的な先入観や勘違いの印象を一変させてくれる。  吉行は、どのような小説をどのように書いたのか。『闇のなかの祝祭』『焔の中』『砂の上の植物群』『暗室』などの作品の背景や執筆時の心境をたどり、批評家の論評もこまめに拾いあげている。終生、生活を共にした宮城まり子との関係にも触れていて興味深い。  読み進めていくと、吉行の人物像、文学世界が鮮明となってくる。再三論じられる吉行の極度な文章へのこだわり方は、これから小説を書く人のための最適なテキストにもなりそうだ。

この人と一緒に考える

消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影
消えゆく沖縄 移住生活20年の光と影 著者は沖縄出身の両親を持ち、大阪で生まれ育った。2000年代初頭の沖縄ブームの火付け役と呼ばれたが、移住20年を迎えた今、「沖縄を離れたい」と言って憚らない。  観光立県を掲げながら本土以上に再開発を進め、山を切り崩し、海を埋める。ショッピングモールが乱立し、伝統文化や土着の信仰は形骸化した。本土を敵視しながらも、依存し、「沖縄らしさ」を自ら壊していく現実に、著者はもどかしさを隠さない。  沖縄は表層で語ると叱られ、深入りすると火傷する特殊な場所という。沖縄に戦後70 年の矛盾が詰まっている事実は重いが、本土からの差別や基地への視線は変わらない。  ある土地の価値は外部の視点からもたらされる。沖縄の変貌に対する理解も必要だろう。絶望からは何も始まらないのだから。

特集special feature

    緋の舟 往復書簡
    緋の舟 往復書簡 染織家と批評家がおよそ1年半の間に交わした24通の書簡集。巻末に二人の対談と、手紙に紡がれたそれぞれの思索の手がかりとなる引用文集を収める。  志村はパリのロダン美術館で、「私は霊感などありません。美しいものだけが美しいのではありません。私はただ仕事をするのです。人にはよく仕事をしましたか、と問うだけです」と、リルケがロダンに言われた言葉を思い、立ちつくしたと書く。また、「芸術とは目に見えるものを再現することではなく、目に見えるようにする」とのパウル・クレーの言葉に深く共感する。対する若松は、志村とは孫ほども年が離れるが、言葉は光であると理知的に結ぶ。シュタイナー、柳宗悦、小林秀雄、石牟礼道子などさまざまな人物をめぐり、体験から発せられた言葉の数々を胸に深く刻んだ。
    ザ、コラム 2006-2014
    ザ、コラム 2006-2014 自称ひきこもり系コラムニスト小田嶋隆氏の自選コラム集。2006年から14年までの時事問題をするどく読み解いている。  話題はスポーツから皇室までと幅広い。「嫁いびりとしてのドルジ包囲網」では世間から嫌われがちな朝青龍の人間としての魅力を、彼の問題発言における日本語の巧みさに触れながら語っている。また皇室についてのコラムの見出しは「まさかの坂の雅子様」と奇抜だが、皇太子のファンであるという著者は、皇太子の趣味である登山にふれ、山選びの渋さとその登るスピードの速さに好意を抱いたと語る。その他、自身のアルコール依存症の経験を交えた浦和レッズへの思いも語られている。  ユーモラスで気どらない文体でありながら、肝心な問題については明晰。氏の筆力に圧倒された。
    氷の轍
    氷の轍 北海道釧路市の海岸で男性の死体が発見された。被害者は青森市出身の元タクシー乗務員。80歳で生涯独身、身寄りなし。主人公である道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、定年間近の先輩刑事・片桐と捜査を開始する。 著者のミステリーは謎の究明と共に、事件が起こる瞬間の“魔"を描き出すことに長けている。大門たちは、被害者宅で見つけた北原白秋の詩集、着ていた白い麻のシャツ、歓楽街で働いていた過去など、わずかな糸から事件をひもとき、地道に時に大胆に、被害者と縁が深い女性たちに迫っていく。  人間の弱さ、哀しさ、残酷さが胸にしみいる中、それでも闇から光が射すような読後感がある。それは大門と片桐が真っ直ぐな魂で人と対峙しているからであろう。昨年11月に柴咲コウ主演でテレビドラマ化された。
    村上春樹はノーベル賞をとれるのか?
    村上春樹はノーベル賞をとれるのか? 毎年10月になると日本のマスコミはノーベル賞の話題で賑やかになる。とくに文学賞はここ数年、有力候補とされている村上春樹の受賞が注目の的となっている。  村上春樹は受賞できるのか、何故できないのか、読者の関心はそこにある。しかし、本書の力点は「ノーベル文学賞とは何か」に置かれている。この文学賞の本質に向けてあらゆる角度から照射した文芸評論家の労作である。  だが、春樹文学の受賞の可否について避けているわけでもない。つまり、春樹文学は「世界文学」として海外で通用するのかどうかにかかっている、と著者は言う。この賞の政治的色合いや順番制などを考慮すると、可能性は遠のく気がしないでもない。  受賞した川端康成、できなかった三島由紀夫らの興味深いエピソードなども掲載されている。 (村上玄一)
    いつかの夏
    いつかの夏 2007年夏にインターネット上で見知らぬ男3人が知り合い、31歳の女性を無計画に拉致し、命を奪った「名古屋闇サイト殺人事件」。  事件について加害者の視点から書かれたものはあったが、本書は被害者の視点から問い直す。鉄のハンマーで40回も顔面や頭部を殴られながら、必死に生きようとした彼女は何を思ったのか。刃物を突きつけられながら、キャッシュカードの暗証番号を吐かない強さをなぜ持てたのか。彼女の生い立ちから丹念に追うことで、死の恐怖に晒されながらも、自分を貫き、犯人に必死に抵抗し続けた理由が理解できてくる。  被害者視点に立つことで見えてくるものもある。マスコミは無神経な報道に終始し、裁判では永山基準が重くのしかかる。被害者に事件の終わりがないことを本書は改めて突きつける。 (栗下直也)
    少年が来る
    少年が来る 1980年5月18日、韓国の南部光州では、民主化を叫ぶ学生や市民が軍によって無惨に殺される事件が起きた。小説家ハン・ガンは、この事件が人々の心に残した傷痕を繊細な筆致で描き出した。  軍に親友を殺された少年、なぜ殺されたのか、誰に殺されたのかも分からず死んでいったその親友、なぜ自分だけが生きているのか苦しむ人、拷問の記憶から逃れられない人。著者は事件後の人々に焦点を当て、彼らの癒えない傷を見つめる。  だが、これは光州だけの問題ではない。このような暴力は光州事件の前にも後にも繰り返されてきた。済州島で、関東と南京で、ボスニアで、全ての新大陸で。人類の「遺伝子に刻み込まれた」ように繰り返される残忍性と、私たちは向き合わなければならない。二度とこんなことが起きないように。 (すんみ)

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