「今週の名言奇言」に関する記事一覧

女性政治家のリアル
女性政治家のリアル
2014年6月18日、東京都議会の一般質問で、不妊治療などについて質問中だった女性議員に「早く結婚したほうがいいんじゃないか?」「まずは自分が産んでから!」「産めないのか?」などの野次が飛んだ。思い出しました? 都議会セクハラ野次事件。 『女性政治家のリアル』は、その標的にされた塩村あやか議員(当時はみんなの党。同党解党後はひとり会派)の著書である。 〈それまでも酷い野次は日常茶飯事でしたが、女性蔑視も甚だしい、悩みを抱える女性に対しての無神経きわまりない言葉。そして続く野次と笑い声。その野次の多さは、マイクを使って質問に立っている自分の声すら聞こえなくなってしまう状態でした〉  なぜそんな野次が飛んだのかといえば〈それは、私が議員一年目/女性/小会派(当時)だから、というのが端的な答えです〉。〈根本には弱い者イジメ、差別というものが働いている〉とも。  現役の議員さんだから都議会の闇を実名込み徹底暴露というわけにはいかないが、それでも〈「女性・若手・独身」はマークされやすい〉など、女性議員がぶつかる壁が率直に語られている。  女性が政治家になりにくい理由は、家族の理解と協力が必要なこと、多額の供託金(地方議員の場合は50万~60万円)などの金銭負担が大きいこと。とてもじゃないが専業主婦が立候補するのは不可能に近い。結果、都議会議員の構成は127人中、女性は25人。ほとんどが野党で、60人近い与党自民党では女性わずか3人。  1978年生まれ。いわゆるロスジェネ世代に属し、広島生まれの被爆2世で、母子家庭で育った彼女にいわせれば〈都議会は時代に遅れに遅れています〉。マイノリティーに対する差別がひどく〈いかに強い者に付いて乗り切るかということしか考えていない議員や職員が非常に多いのです〉。〈女性が政治家になるということがどれだけ無防備で、リスクのあることか〉と嘆きながらも、前向きな本。女性議員を増やすクオータ制の導入には私も賛成です。
今週の名言奇言
週刊朝日 11/17
誰も知らない世界のことわざ
誰も知らない世界のことわざ
こんなことを知っていたからといって何の得にもなりゃしないけど、言語の多様性を知るには有用かも。エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳『誰も知らない世界のことわざ』は、世界中の言葉から拾い集めた51のことわざに、短い説明と絵をつけたちょっと変わった絵本である。  人間の考えることなんて似たり寄ったりですからね。すぐ意味のわかることわざもある。オランダ語の〈テーブルクロスには小さすぎ、ナプキンには大きすぎる〉は「帯に短したすきに長し」とほぼ同じ。ブルガリア語の〈一滴一滴がいつしか湖をつくる〉は「塵も積もれば山となる」だ。  意味は同じでも表現がステキなのもある。セルビア語の〈彼の鼻は、雲をつきやぶっている〉は〈舞い上がっていて、うぬぼれている〉の意味だから「天狗になる」と同じだが、こっちのほうがややロマンチック。ポルトガル語の〈ロバにスポンジケーキ〉は「猫に小判」「豚に真珠」と同じ意味だが、ちょっとメルヘン。アラビア語の〈ある日はハチミツ、ある日はタマネギ〉は「楽あれば苦あり」の意味だと想像がつくけど、こっちのほうがおいしそうだ。  しかし、意味がまるで想像できないことわざもあるわけで。スウェーデン語の〈エビサンドにのってすべっていく〉が〈働かずに安楽に暮らしている〉の意味だといったい誰が思うだろう。〈ザワークラウトの中で自転車をこぐ〉というフランス語はどうか。〈ガレージにいるタコのような気分〉というスペイン語は? ザワークラウトとタコはじつは同じ意味で、「お手上げ状態」「手も足も出ない」を指すそうだ。  動物と食べ物のことわざが多いのは、生活に密着しているせいか。ちなみに日本語からピックアップされたことわざは〈サルも木から落ちる〉と〈猫をかぶる〉の二つ。〈ロバにスポンジケーキ〉や〈ザワークラウトの中で自転車をこぐ〉に比べると、あんまりおもしろくないな。シュールさで肩を並べるのは「イワシの頭も信心から」とかですかね。ちがうか。
今週の名言奇言
週刊朝日 11/10
天皇と憲法
天皇と憲法
天皇の「生前退位」の是非にからんでにわかに注目を集めることになった皇室典範。島田裕巳『天皇と憲法』は、この皇室典範と憲法の関係を軸に「緊急出版」されたタイムリーな提言の書だ。  憲法改正といえば浮上するのはやはり9条。が、本書は9条の改正には消極的だ。国際情勢が変化しているとはいっても、〈大日本帝国憲法を制定する際には、日本は近代国家の樹立を目標とした。日本国憲法を制定する際には、軍国主義から民主主義への変容を迫られていた〉。ひるがえって〈今、そうしたことに匹敵するような事態に日本が直面しているとは言えない〉というわけだね。  にもかかわらず、私たちはいま憲法を改正する必要に迫られている。なぜか。天皇制が存亡の岐路に立たされているからだ。  現在の皇室典範は、側室も養子も認めず、なおかつ皇位継承者は男系の男子のみと定めている。おかげで皇位継承はきわめて困難な課題になった。仮に天皇の生前退位が実現し、現皇太子が天皇になったら、皇位継承者はいまより減る。さらに秋篠宮や悠仁親王が皇位を継承した後は? 新たな継承者が誕生するといいきれる? 女帝や女系を認めたところで本質的に不安定さは変わらない。  天皇家でなくても家の存続は難しい時代ですからね。〈近代という社会の根本的な変化が、長く続いた天皇という地位が継承されていくことを不可能にしようとしている〉のは事実だろう。  ではどうするか。島田案はこれ。〈できることは、憲法を改正して、日本にも大統領制を導入することである。現在、天皇の国事行為とされていることの大半を大統領の果たすべき役割とするように、新しい憲法で定めるのである〉  ええーっ、マジで!?  憲法1条を改正して共和制にすべきだと主張する人はこれまでもいたけれど、それはイデオロギーに基づく願望に近かった。が、本書の提言は現実論の上に立つ。首相とは別に大統領を選挙で選ぶ。一見爆弾発言。でも、論理的には正しい。いや、目が覚めました。
今週の名言奇言朝日新聞出版の本
週刊朝日 11/2
やってはいけない山歩き
やってはいけない山歩き
登山やハイキングはいまやすっかり中高年の趣味になった感があるけれど、そのせいなのか山の遭難も後を絶たない。『やってはいけない山歩き』の著者・野村仁氏はいう。〈現在、山の遭難は史上最も多い状況が続いています〉。  遭難とは、なんらかの事情で警察や消防に(ときには家族や山岳会を通して)救助要請があった事態のこと。全国で1年間に発生する遭難事故は約2500件。約3千人が遭難し、うち298人が死亡、37人が行方不明(2015年)。とうてい無視できない数字だけれど、半面、死亡事故は史上最低で、90%は救助される。  つまり転落や滑落のような深刻な遭難は減り、〈「転倒」「道迷い」「疲労」のような、いわば“軽い遭難”が中心になっているのが、現代の遭難状況の特徴なのです〉。  そ、そうなのか。「軽い遭難」が増えているのはたとえば近頃人気の高尾山や富士山だ。高尾山で起こっている事例の多くは「疲れて歩けない」「足が痛くて歩けない」「子供がはぐれてしまった」といったトラブルで、救急車を呼ぶのに近い感覚で救助を求める。それでも消防署の山岳救助隊が出動して対応すると「山岳遭難」にカウントされてしまうのだ。 「危なっかしいのは…こういう人です」と題して本書が紹介する例は「それはワタシのこと?」と思わせるような人ばかり。登り始めが遅すぎる人(9時すぎに出発する。登山の開始時間は7時前が理想)、計画を立てず自由に登る人、ネット情報だけで出かける人、地図を持たずに出かける人(2万5千分の1の地形図より登山地図を)、素性のわからない相手と登る人、「遭難なんてしない」と思っている人、遭難しかけているのに認めない人、一見冷静だが安全かキケンかわからない人……。ひえ~!  計画の立て方、歩き方、服装や持ち物。事故を未然に防ぐのはなべて自分の心掛け。〈「スマホやネットがあるから、まぁいいか」は危険すぎます〉〈歩いているときは、絶対に転んではいけない──これは登山の鉄則です〉。ほんとですよね。みなさまもお気をつけて。
今週の名言奇言
dot. 10/27
貧困とセックス
貧困とセックス
AV女優へのインタビュー集『名前のない女たち』で名を馳せた中村淳彦と『最貧困女子』で世に衝撃を与えた鈴木大介。『貧困とセックス』は、風俗業界で働く女性たちを長く取材してきたライター二人の対談集である。  話は20年前の状況からはじまる。〈僕自身が20歳になったころは「援助交際」が世の中に出てきたばかりで、それが評論家のあいだで女の子たちの自己実現やカルチャーとして語られていました〉〈実際に2000年代に取材をしたら「こんなもんカルチャーじゃねえよ」と〉〈「ウソつきやがって」と唖然としました〉(鈴木)。〈地方の女の子や貧困層にとっては孤立する可能性を秘めたネガティブな第一歩だよね。2000年代前半は、まだ一般的に「売春=貧困」という意識はなかった〉(中村)  それがいまではどうか。 〈なぜ、女子大生が風俗嬢になるのかというと、単純な話で、学生生活を送るためのお金が足りないわけ〉(中村)。〈地方の20代の女の子たちの取材では、月15万円前後稼いでいると「アッパークラスですよね」と言われます〉(鈴木)。〈未成年売春や風俗は、女の子が一方的な被害者というわけではなくて、裏社会の人たちが福祉的な意味で手を染めていたりする〉(中村)。〈生きることができる手段とか、事情をわかりながら助けてくれる人がいるのは、セックスワークしかない〉(中村)  行政や支援者にも批判は及ぶ。〈親から殺されたくないから逃げているのに、そこに戻すのはありえない〉(中村)。〈人としてどうこう以前に、壮絶な貧困のバックボーンがあるなら、「説教の前にケアでしょ、あんた」と思うわけです〉(鈴木)  貧困に直面した女性が売春に向かうのは、はるか昔からの傾向とはいえ、平成日本の現実は想像以上に強烈だ。〈結論としては、法人税の累進課税化か、資本家に富が集約しないシステムをつくることと、それを国が再分配することですよね〉(鈴木)。一見ありきたりな結論だけど、現場を知る人の言葉だけに重い。
今週の名言奇言
週刊朝日 10/20
何が戦争を止めるのか
何が戦争を止めるのか
小原凡司『何が戦争を止めるのか』は、いきなりショッキングな言葉からはじまる。〈今、世界は戦争に向かいつつあります〉  著者は防衛大卒、海上自衛隊パイロットや北京の日本大使館で防衛駐在官などを経験した元自衛官。本書はそうした経験も踏まえて語られたリアルな安全保障論である。  世界はいま「理想」と「現実」の間で苦しんでいる。これが本書の基本的な認識だ。  過激な政策を掲げるトランプ氏やサンダース氏が人気を集めるアメリカ。「強いロシア」を掲げるプーチン大統領が支持されているロシア。習近平主席が強権を発動し、権力の集中が進む中国。そして移民の流入問題を契機にイスラム教徒排斥などの過激な政策を掲げる政治家への支持が広がっているヨーロッパ。みんなそう。  もうひとつ、直視すべき現実はアメリカ(既存の大国)と中国(台頭する大国)の間で緊張関係が高まっていること。〈米中が軍事衝突すれば、他国を巻き込んだ大規模な戦争に発展する可能性があります〉。どうやったらそれを避けることができるのか。戦争反対と叫べばすむのか。  オールドリベラリストの中にはこうした議論自体を拒否する向きもあるだろうけど、むしろリベラリストを意識して書かれた本。  リベラリストは理想を求めて努力したが〈理想を掲げるだけでは戦争は止められなかった〉。なぜなら国家には自国の生存を求める欲求があるからで、ことに先に利権を得た覇権国と後からやってきた中進国の間には緊張感が生まれやすい。このへんの「戦争が起こるしくみ」は現在の米中だけでなく、かつての日米を思い出すだけでも納得することしきり。  国家は協力し合えるはずだと考える「リベラリズム」も、国家はパワーと安全を求めるという前提で現実を分析する「リアリズム」も限界を迎えている。それに代わって著者が提唱するのは、世界的な経済格差の解消へ向けての努力を促す「柔らかいリアリズム」である。最初のショックは徐々に得心に変わるはずだ。
今週の名言奇言
週刊朝日 10/13
地域再生の失敗学
地域再生の失敗学
地方再生、地域の活性化。よく聞く言葉だけど、はたしてそれは有効な議論につながっているのか。『地域再生の失敗学』は経済学者の飯田泰之氏が専門の異なる5人の論者を迎え、連続講座風に語り合った本。専門的な議論も多いのだけど、なにせ「失敗学」ですからね。苦笑しちゃう話も多い。  たとえば地域活性化事業の専門家・木下斉氏は昨今の定番アイテムにNOを突きつける。〈財政状況も厳しい中、全国各地の自治体が多額の税金をかけて実施する経済政策の切り札が「ゆるキャラ」だ、とかいわれてしまうと、頭が痛くなるわけです〉〈昨今のB級グルメも同じですね。B級グルメの巨大イベントを開くと、確かに何十万人と来場者があります。しかし、そのためには設営や管理、警備に莫大な運営費用がかかりますが、焼きそばやホルモン関連製品はせいぜい五〇〇~六〇〇円です〉  いわれればたしかにね。〈むしろ投資回収できない事業は、地域にとってはマイナス効果をもたらすだけで、やればやるほど行政の財政支出は増加し、かといって民間部門の経済力は拡大することなく、結局のところは衰退します〉  同様のトンチンカンは少なくないらしく、〈成功している商店街にはアーケードがあるからといって、まず屋根からつくってしまったりします(笑)〉と地域経済学の川崎一泰氏は批判し、〈ほとんどの商店街の活性化は、「まちおこし」になってしまっていて〉〈いわば「商店街の盆踊りで何をやるか」の議論と一緒なんです〉と千葉市長の熊谷俊人氏は指摘する。  それじゃいったいどうするのか。起死回生の切り札があれば誰も苦労はしないわけだが、〈これまで我々が追い求めてきたのは短期的な効率に偏っていたと思います〉(過疎問題を研究する林直樹氏)という指摘は重要だろう。林氏が提唱するのは、山間部の集落がまとまって麓や近隣の小都市へ移転する「自主再建型移転」。  人口減少社会を前提にした、住民主体のこういう地道な議論が大事。〈ゆるキャラは「まちおこし」ではない〉ってことです。
今週の名言奇言
週刊朝日 10/6
もし京都が東京だったらマップ
もし京都が東京だったらマップ
それって東京でいうと、どんなところ? そうだなあ、世田谷の端っこかな。こういう会話、考えてみると私もよくしている。  岸本千佳『もし京都が東京だったらマップ』は、これを京都と東京の比較論から詳細かつ徹底的にやってしまった本である。  たとえば京都の烏丸は東京でいえば丸の内。〈ここは京都随一のオフィス街〉で、どちらも明治以前はお屋敷街だった。〈御池通から四条通にかけて高層ビルが立ち並びます〉。〈やはり目立つのはスーツ姿の人。よく見ていると歩くスピードがすごく速い〉。 〈岡崎といえば、大規模な文化施設群の街です。美術館が2つに動物園やコンサートホール、図書館に催事場〉。東京でいえば、それは上野に該当する。 〈北山は、ひと昔前までは京都随一のお洒落スポットでした〉。洋菓子店やブティックが並ぶファッショナブルなこの町は、東京でいえば〈北山通は青山通り、それより北側は代官山〉だそう。  意外なのは京都駅で〈京都人の心の中心に京都駅は存在していない〉。新幹線か電車の乗り換えにしか使わないので〈品川駅に近いといえるでしょう〉。  こんな調子で、立ち飲み屋の多い四条大宮は赤羽、都市公園に近い御所東は代々木、北大路は二子玉川、四条から五条にかけての河原町通は蔵前、ティーンが集う新京極通は竹下通り。なるほどねえ。北野天満宮周辺は松陰神社周辺、西陣は谷中で紫野は根津とかは「わっ細かい!」だけど。  著者は京都(宇治市)で生まれて滋賀県の大学を卒業し、東京で5年働いた後、京都に帰って現在は不動産プランナーという女性。東京と京都の両方に住んだからこそ書けた本でしょうね。  欠点は街の雰囲気が優先し、都心との位置関係や距離感がつかみにくい点だけど、嵐山は鎌倉、大原は逗子、鞍馬は箱根、という見立てにはちょっと納得。〈山があって市街の人も一目置く存在の街、それが嵐山です〉。そうなんだ。嵐山は相模湖みたいなとこかと思ってた。ちがうのね。
今週の名言奇言
週刊朝日 9/29
「野党」論
「野党」論
野党はだらしない、頼りない、党利党略しか見えない。しっかりしろ、野党! 聞き飽きた(そして言い飽きた)言説である。それじゃ野党はなくてもいい?  吉田徹『「野党」論』は、私たちの野党に対する不信感を「まあまあ」となだめて、野党の機能を一からレクチャーしてくれる。 〈野党とは「存在」というよりも「役割」です〉と著者はいう。  野党の役割は主として三つ。  第一に、与党に対する異議を申し立てる役割。権力の濫用をチェックする機能といってもいい。  第二に、争点を明確化する役割。与党が掲げる政策の目的や方法論が適切かどうかを争点化、可視化し、有権者に向かって問う役割だ。  第三に「民意の残余」を代表する役割。これは選挙結果に反映されなかった少数の民意を代弁する機能といったらいいかな。  民主主義でポイントのひとつは多元性の確保である。〈野党は民主主義の多元的な側面を確保し〉〈野党の機能と役割に正当な地位が与えられてこそ、民主主義は十全に機能するのです〉  なるほど、そうですよね。  55年体制下における与野党の話がおもしろい。かつての自民党は変化をいとわぬフレキシブルな政党だった。党内の派閥が競い合い、疑似政権交代を繰り返すことで、多元的な民主制が確保されていた。一方、ヌエのごとき自民党に対抗しなければならない社会党は、理念的かつ原理主義的にならざるを得なかった。ああ、ねえ。  しかし、今日、求められる野党の役割も変化している。著者が提言するのは「抵抗型野党」から「対決型野党」への脱皮である。必要なのはこちらから打って出る積極性。〈政治的マイノリティを代表するだけではなく、場合によってはそれを多数派へと拡大するような、民意への働きかけを要します。つまり、なるべく不特定多数を動員できる野党でなければならないということです〉  従来とは異なる新たな民意の掘り起こしが必要らしい。嘆いてばかりもいられない。新代表の下で、さて民進党はどうなりますか。
今週の名言奇言
週刊朝日 9/22
小説 君の名は。
小説 君の名は。
新海誠『小説 君の名は。』。往年のラジオドラマではありません。大ヒット中のアニメーション映画を、監督自らが小説化したノベライゼーション。内容はまったくのオリジナルである。  立花瀧(男子)は都心で暮らす高校2年生。イタリアンレストランでバイトをし、バイト先の先輩にひそかに思いを寄せている。  宮水三葉(女子)は山深い田舎町に住む高校2年生。父は町長だが家を出ており、祖母と妹と3人暮らし。東京に憧れている。  ある日、ふたりは夢を見た。瀧は田舎の女子高校生になる夢を、三葉は東京の男子高校生になる夢を。鏡に映った自分の顔に仰天し、見知らぬ友人たちに戸惑い、周囲の環境に目を見張り……。 〈それにしても、我ながらホントに良く出来た夢やなー……〉  が、同じ夢が何度も続いた後、やっとふたりは気がついた。  もしかして「俺/私」は夢の中で〈入れ替わってる!?〉。  男女の心と身体が入れ替わるところは、何度も映画化、ドラマ化された山中恒の児童文学『おれがあいつであいつがおれで』風。ふたりがなかなか出会えないところは、映画もヒットしたくだんのラジオドラマ「君の名は」風。 〈入れ替わりは不定期で、週に二、三度、ふいに訪れる。トリガーは眠ること、原因は不明。/入れ替わっていた時の記憶は、目覚めるとすぐに不鮮明になってしまう〉  スマホに残した日記でふたりは情報交換をはじめるが……。  とはいえ、そこは現代のアニメである。入れ替わりがあっても日常性に密着していた物語は途中から「ディープ・インパクト」みたいなSFに接続されるのだ。〈千二百年周期で太陽を公転するティアマト彗星〉が砕けた隕石が〈破壊的なスピードで地表に落下した。落下地点は日本〉って!  いやー驚きました。純粋な小説だとさすがにここまで荒唐無稽にはしないよな(いや、するか)。タイムスリップまでからんじゃうんだから、もう。ちなみに私、映画は見てません。瀧と三葉がどうなるか。続きは映画館でどうぞ。
今週の名言奇言
週刊朝日 9/15
脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?
脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?
2011年4月の世田谷区長選で初当選した保坂展人氏は、15年4月、2期目の区長選で自公推薦候補に圧勝した。『脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?』はその保坂区長の直近のインタビューをまとめた本。  有権者が政治に期待していることの上位は〈社会保障関係ですよね。介護・福祉や年金、子育て支援。次に来るのは、景気、物価〉。逆にいうと〈憲法改正とか安全保障などについては、政治や国のあり方としては大変重要なテーマではあるけれど、そんなに順位は高くはないわけですね〉。  かくて2期目の区長選のキャッチフレーズは「せたがやYES!」。〈「安倍NO!」をNGワードにしました〉。支持者の中には区長選を与野党対決の場と見る人もいたが、それは万人が共感できる言葉ではない。〈重要なのは、自治体行政は公平でなければならず、「安倍YES!」の人も「安倍NO!」の人も平等に大切にされる現場だということです〉  内申書裁判の原告から、いじめ、教育問題などを扱うジャーナリストへ。1996年、社民党の国会議員に転身した後の舌鋒鋭く与党を質問攻めにする姿を覚えている人には意外かもしれない。が、彼も学んだのである。〈自分が安全地帯にいて、批判だけをくり返していても、子どもの生命は救われない。これまでの考え方、意見の言い方を思いきって、切り換えました〉。国会議員になった際も〈なんとか具体的な姿形をもって解決へ歩んでいく、目に見える成果を作りたいと思っていました〉。  はっきりいって、いま「安倍NO!」をいうのは簡単なのだ。でも、NOでは勝てない。野党が負け続けている過去数回の選挙でもそれは実証済み。89万人という、いくつもの県や政令指定都市より多い人口を抱える世田谷区。  初当選した際、区職員にいった言葉は〈行政は継続です。これまでの仕事の95%は継承して、5%は大胆に変えます〉。  リアルな政治の現場で政策を実現するにはどうするか。市民にも有効なヒントが詰まっている。
今週の名言奇言
週刊朝日 9/8
迷わない力
迷わない力
勝ってではなく負けて感動させる試合があるんですね、五輪には。2014年のソチ五輪で最終的に6位に終わったフィギュアスケートの浅田真央選手がそうだった。4連覇のかかったリオ五輪で決勝戦に敗れたレスリングの吉田沙保里選手もそうかもしれない。 『迷わない力』は、五輪直前に出版された吉田選手の本。これを読むと、彼女がどれほど勝ちにこだわってきたかがわかる。  必要なのは絶対に勝つんだという強い気持ち。〈それ以外の遠慮や優しさは、マットの上では必要ない、というか、はっきり言って邪魔です〉〈よく、試合後に、負けはしたけれど強敵相手に善戦できて満足した、みたいなコメントをする人がいますが、冗談じゃありません。勝負は勝たなければダメ。絶対にダメです〉  ですよね、ごめんなさい。  と、ヘタレな私どもとしては謝るしかない精神力だ。  副題は「霊長類最強女子の考え方」。元全日本チャンピオンの父の下、3歳でレスリングをはじめ、5歳で試合に初出場。そのとき対戦した男の子が金メダルをもらう姿を見て〈私の負けず嫌いが始まった〉。二人の兄ともども〈すべてがまずレスリングありきなんですよ、吉田家は〉という環境で育った彼女にとって、負けはそもそもありえないことなのだ。  とはいえ、最強女子とて人の子である。〈試合に負けるというイメージは、私の頭にはこれっぽっちもありませんでした。もっと言うなら、このまま引退まで無敗のままいけると、当たり前のように思っていたのです〉〈「この私が負けた。それも強豪とはいえない外国人選手に」/予期していなかった結末に、私は頭が真っ白になりました〉。これは08年1月のワールドカップでアメリカの選手と当たり、公式戦119連勝の記録が断たれた際の言葉。  まーでも長い人生、負けを知ることも大事だよね。でないと負けた人、弱い人の気持ちがわからないから。彼女自身もいっている。〈試練は友だち、逆境上等でいきましょう〉。そういうこと。
今週の名言奇言
週刊朝日 9/1
この話題を考える
大谷翔平 その先へ

大谷翔平 その先へ

米プロスポーツ史上最高額での契約でロサンゼルス・ドジャースへ入団。米野球界初となるホームラン50本、50盗塁の「50-50」達成。そしてワールドシリーズ優勝。今季まさに頂点を極めた大谷翔平が次に見据えるものは――。AERAとAERAdot.はAERA増刊「大谷翔平2024完全版 ワールドシリーズ頂点への道」[特別報道記録集](11月7日発売)やAERA 2024年11月18日号(11月11日発売)で大谷翔平を特集しています。

大谷翔平2024
アメリカ大統領選挙2024

アメリカ大統領選挙2024

共和党のトランプ前大統領(78)と民主党のハリス副大統領(60)が激突した米大統領選。現地時間11月5日に投開票が行われ、トランプ氏が勝利宣言した。2024年夏の「確トラ」ムードからハリス氏の登場など、これまでの大統領選の動きを振り返り、今後アメリカはどこへゆくのか、日本、世界はどうなっていくのかを特集します。

米大統領選2024
本にひたる

本にひたる

暑かった夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきました。木々が色づき深まる秋。本を手にしたくなる季節の到来です。AERA11月11日号は、読書好きの著名人がおすすめする「この秋読みたい本」を一挙に紹介するほか、ノーベル文学賞を受賞した韓国のハン・ガンさんら「海を渡る女性作家たち」を追った記事、本のタイトルをめぐる物語まで“読書の秋#にぴったりな企画が盛りだくさんな1冊です。

自分を創る本
異端のススメ
異端のススメ
『異端のススメ』が出版されたのは2013年12月。「いつやるか?今でしょ!」でブレーク中だった予備校講師の林修氏が衆院議員だった小池百合子氏にオファーして実現したという対談本だ。  1965年、愛知県名古屋市生まれ。東大法学部を出て長銀(日本長期信用銀行)に就職するも、わずか5カ月で退社。その後は〈もうめちゃくちゃな生活を3年ほどしていました〉。〈株でも大失敗して〉という林氏。  1952年、兵庫県芦屋市生まれ。英語で身を立てようと思っていたが、アポロ11号の月面着陸中継を見て同時通訳は無理だとあきらめ、〈高校生のときに、アラブに行こう、エジプトに行こう〉と決心。関西学院大学を中退してカイロ大学に進学。テレビ東京の経済番組キャスターから39歳で政治家に転身した小池氏。 「異端」といっても要は勝ち組同士の対談じゃんとはいえるけれども、先の都知事選への小池氏の出馬劇を考えると、なるほどねと思わされる点も多い。 〈勝てると思えば進む、負けると思ったらさっさと撤退する。私も、英語だけではダメだなと思ったので、アラビア語に行ってみたわけです〉。できたばかりの日本新党から初出馬したときの心境は〈誰かがやらなければならないなら、自分がやろう。よし、立ち上がろう、と決意しました。リスクを取ったのです〉。そして、もう一言。〈テレビ局の方には、「小池は飛行機事故で死んだものと思ってください」とお願いしました〉。  女性の活躍についても持論を展開。〈日本は女子大を除くとアカデミズムの世界に女性のトップがいません〉〈女性議員を増やすことは政治の変化を促す最短の方法でもあります〉。しかし〈権利の主張を声高に訴えるのはあまり好きではないですね。「取りに行け」と思っているんですよ〉。 〈今どき、失敗しても命は取られることはありません〉という小池氏。何事にも強気の人生。自己啓発書として読まれたのだと思うけど、こういうリーダーについていくのは大変だなと思ったよ。
今週の名言奇言
週刊朝日 8/25
海の見える理髪店
海の見える理髪店
JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」に、しばらく荻原浩は巻頭エッセイを書いていて、私は愛読者だった。こういう脱力系の文章が彼は本当に上手い。  今期直木賞受賞作『海の見える理髪店』は、思わずウルッとくるような6編を収めた短編集だ。デビューから19年。直木賞を出すのが遅すぎるとは思うけど、直木賞はこういう手練れの短編集を好む傾向があるからな。  表題作は〈ここに店を移して十五年になります。/なぜこんなところに、とみなさんおっしゃいますが、私は気に入っておりまして。一人で切りもりできて、お客さまをお待たせしない店が理想でしたのでね〉という理髪店主の語りからはじまる佳編。「僕」は有名な芸能人や文化人に愛される理髪店をわざわざ訪れたのだった。  髪をいじりつつ店主が語る半生は、まさに昭和の歴史と重なる。戦時中、はじめてバリカン刈りを任されたお客はいつもオールバックにしている履物屋の若旦那だった。〈軍隊に行くために、髪を切りに来たんです。憲兵に殴られてもポマードをやめなかった人が、いきなり丸刈りですからね〉  戦後、お客が戻ってきたのは昭和30年代だった。〈あの頃は、町を歩けば、右を見ても左を見ても慎太郎刈り、でしたから〉。かと思うと〈ビートルズは好きにはなれませんね。古い床屋はみんなそうじゃありませんか〉〈あの連中が日本に来てからです。床屋という仕事が左前になったのは〉。  こんな平和な髪型談議の後、しかし喉に剃刀を当てながら、店主は語り出すのだ。戦時中と刑務所を思いだすから丸刈りは嫌い。〈出所した時には、もう床屋は辞めるつもりだったんです。自分のような人間が人さまの前で刃物なんぞ握っちゃあいけない。そう考えまして〉。おいおい!?  他5編も、時間の経過の中で感じさせる「人生の機微」ってやつが身に染みる作品。〈きっと私はなんでも鏡越しに見ていたんだと思います。真正面から向き合うとつらいから〉。理髪店主でなければ吐けない一言。上手い!
今週の名言奇言
週刊朝日 8/12
THE TRUMP
THE TRUMP
当初は泡沫候補といわれながら、米大統領選の共和党候補に指名されたドナルド・J・トランプ。『THE TRUMP』の副題は「傷ついたアメリカ、最強の切り札」。大統領選に打って出た彼の政策を語った本である。断片的に入ってくる情報から、どんなトンデモ人物かと思いきや、主張の内容は意外と(?)まとも。 〈私は移民を愛している〉が、〈私が許せないのは不法移民という存在だ〉と彼はいう。〈不法移民に対して我々が払っている犠牲は莫大なものだ〉〈まずやらなければならないのは、南の国境の守りを固めることだ〉〈一番効果的な方法は壁を建設することだ〉。が、メディアは伝えた。〈「トランプ、“移民はすべて犯罪者でメキシカンはすべて強姦者”と発言」〉 〈外交政策についての私の姿勢は、まず強力な基盤を作ることだ〉と彼はいう。〈他を圧倒する強力な軍隊を持つことだ。強い経済を利用して、友好的な国には見返りを、そうでない国には罰を与える〉〈我々は平和を買い、国家の安全保障を強化できるのだ〉 〈米国は再び勝利しなければならない〉というビジョンの下に繰り出される政策は、先週取り上げた『バーニー・サンダース自伝』とは逆向きだが、ビジネスで大成功した人の言だけに、〈私の仕事のやり方はこうだ。その仕事に必要な最高の人材を見つけ、彼らを雇い、事に当たらせる〉とか〈私はどうやって交渉をまとめればよいか知っている〉とかいわれると説得力大。マッチョな米国民には賛同する人も多そうである。 〈雇用を創出して経済を立て直すことに関して、私は「理論」を語らない唯一の専門家だ〉と豪語。〈私はどうやって仕事を創ればよいか知っている。今までのキャリアで、私は何万という雇用を生み出してきた〉とかね。  気になる対日関係は〈我々はドイツも日本も韓国も守っている。どれも強く富裕な国々だ。ここでも我々はタダ働きだ〉。なるほど米国の保守派にはこう見えるんだ。つい洗脳されそうになるだけに、言説の危なさが実感できる。
今週の名言奇言
週刊朝日 8/4
バーニー・サンダース自伝
バーニー・サンダース自伝
米大統領選の民主党予備選でヒラリー・クリントンと互角の闘いをくり広げたバーニー・サンダース。『バーニー・サンダース自伝』は彼が下院で唯一の無所属議員だった時代の自伝(『アメリカ下院のはぐれ者』1997年)に新しくまえがきと解説を加えた本である(原題は『ホワイトハウスのはぐれ者』2015年)。  バーニーは41年、ニューヨーク州生まれ。64年にシカゴ大学を卒業し、72年のヴァーモント州の上院の特別選挙に自由連合党というミニ政党から出馬したのが政治家生活のスタートだった。得票率はわずか2パーセント。当時のヴァーモント州は、アメリカでもっとも共和党が強い保守的な州のひとつだったという。それがいまでは、社会主義者を名乗るバーニーが70パーセントの得票率で圧勝する州に変わった。その間に、いったい何があったのか。  そりゃあジョン・レノンと同じ世代だもん、そんな政治家もいるさ、くらいに思っていたら、全然ちがった。急に有名になったみたいに見えるけど、本書からわかるのは、彼がここに至るまでには信じられないほど長く地道な闘いがあったという事実である。  72年に落選した後、同年に州知事選に出馬して落選、74年の上院選でも落選、76年の州知事選でも落選。ここで一旦政治から離れるも、81年、無所属候補としてバーリントンの市長選に当選。 〈そこでの進歩的運動が、いかにこの市を、アメリカで最も刺激的で、民主主義的で、政治的に目覚めた市のひとつにするのに貢献したか〉と彼は書く。〈そうだ! 民主主義はうまくいくのだ〉  とはいえ、8年間の市長職を退いた後、今度は下院と上院での孤軍奮闘の時代が続くわけで。 〈大多数のアメリカ人は今日、はぐれ者なのだ〉。しかし、〈みんなで一緒に取り組む勇気を奮い起こせれば、必要とされていることはできると、私は確信している〉〈その時、私たちはもう、下院のはぐれ者ではない〉。  幾多の挫折にも絶対めげなかった人からのメッセージが熱い。
今週の名言奇言
週刊朝日 7/28
リベラル再起動のために
リベラル再起動のために
1人区で11勝するなど野党共闘は一定の成果を上げるも、改憲勢力が3分の2をしめる結果に終わった参院選。このタイミングで読むと、まことに味わい深い。『リベラル再起動のために』。北田暁大、白井聡、五野井郁夫という当代きっての若手・中堅学者が、今日の政治状況についてざっくばらんに語り合った鼎談集だ。  たとえば野党共闘について。  白井〈共産党と他の政治勢力の関係が背負ってきた不毛な歴史に、われわれの時代は邪魔をされていると思いますね〉。北田〈共産党の負の歴史を、嫌というほど学んできてますからね〉。白井〈そう見えてしまう世代が、もはや間違っているのではないですか?〉〈あちらからすれば、力を結集できない左派なんて、実にチョロいもんだと見えることでしょう〉  あるいは選挙戦術について。  五野井〈与党がやっているようなことを野党も嫌がらずやらないと、当然負ける〉。北田〈やるべきことは、手を握ること〉。五野井〈それが誠実さとされているんだから〉。北田〈だけど、私が怖いのは、白井さん的に話をすると、手を握られて喜んでるおっさん、おばさんとか、単なるバカということになる。でも、彼・彼女たちなりの合理性があると思うんですよ〉。白井〈ないですよ、もう〉。五野井〈握手だって、してもらえれば嬉しい人は嬉しいようですよ〉。白井〈握手してもらって腹は膨れるのかという問題です〉 〈端から見れば、北田さんがリベラル派、私が左翼、白井さんが極左という色分けでしょうかね〉(五野井)というだけに(?)、白井氏の切って捨てるような一言が最高。  民進党の〈覚悟が固まっていない中間派と右派は、しょせん、(米国の)傀儡の二軍ですよ〉。国立大学への「君が代」の強制について〈自民党の人たちはその支持者を含め近代人じゃないですからね〉。自民党の改憲案は〈劣化の極みで、ほとんど狂気です〉。  リベラル左派に期待すればこその辛口談議。巨人をこき下ろし、阪神にダメ出す虎キチの井戸端会議みたいなノリがおもしろい。
今週の名言奇言
週刊朝日 7/21
ギャル男でもわかる政治の話
ギャル男でもわかる政治の話
参院選前に続々と出版された政治入門書の中でも、もっとも軟派な本がこれ。おときた駿×4人のギャル男たち『ギャル男でもわかる政治の話』だ。著者は舛添要一前東京都知事の金銭疑惑を追及して有名になった無所属の都議会議員。レクチャーを受ける4人は、モデルやアーティストをやってる21~26歳のオシャレ男子だ。  政治にも選挙にもまったく興味がないという若者にどの程度の知識があるかがまず興味深い。「現在の総理大臣が所属している政党はなに党ですか」という問題に「自民」と書いたトシキ君。みごと正解するも〈迷ったんですよね、二択で〉。一方「民主」と解答したレン君は〈近所でよく選挙のポスター見るから、民主党であってると思ったんだけどなあ〉。  ここで「君らはアホか」などとドヤさないのがおときた先生の偉いところで、〈惜しかったね。でも選挙のポスターを見たっていうのはいい指摘で、選挙っていうのは、個人を選ぶだけじゃなくて、政党を支持するという側面もあるんだ〉とすかさずフォロー。  政党政治を教えるためにマンガの『ワンピース』を例にとり、〈『ワンピース』には「麦わらの一味」とか「白ひげ海賊団」とか、海賊団がいくつかあるよね?〉と説明するおときた先生。トシキ〈チーム戦なんですね〉。おときた〈まさにそう。有権者にとっては、好きなチーム=政党さえ決めれば、個別に人=政治家を選ばなくていい、というメリットもある〉。レン〈ファンになる、みたいなこと?〉。おときた〈個々のメンバーの考え方を把握していなくても、海賊団自体に投票すればOK、ということだね〉。レン〈おお、それなら投票しやすい!〉。  マンガやアニメや人気アイドルを例にとっているので、中高年にはかえってわかりにくいと思うけど、いやーマジで勉強になりました。このレベルから伝えなくちゃ投票率は上がらないのだ。  名言も多いです。〈資本主義は自由恋愛! モテれば天国、モテなきゃ地獄!?〉。そして〈社会主義はお見合いだね〉。まさに。
今週の名言奇言
週刊朝日 7/14
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