「今週の名言奇言」に関する記事一覧

残念な政治家を選ばない技術
残念な政治家を選ばない技術
〈日本人の大半は、政治家のことが好きではないのだと感じます。付け加えるなら、この空気が、日本の政治をより良い方向に進ませることを困難にしているのではないかとも……〉。いきなり本質を突く発言。松田馨『残念な政治家を選ばない技術』の副題は「『選挙リテラシー』入門」。選挙プランナー歴10年の選挙のプロが語る、いわば投票の極意である。  といっても主張はきわめて真っ当。政治家は〈私たちの代理人であり、いうなればゲームにおける「アバター」のような存在です〉と著者はいう。〈自分に似たキャラを選んだり、なるべく理想に近い造形になるようカスタマイズしたりするように、政治家のことも「自分自身を選ぶように」見るべきだと私は思います〉。  なるほど、それはいい選択基準かもしれない。逆に〈「選挙で勝つこと」だけにとらわれている政治家を、まず私たちの一票で払い落としていく必要があります〉。  選挙は1回だけでは終わらない。何度も続いていくのだ、というのが本書の重要な指摘である。  政策の隅々まで熟知していなくても〈「なんとなくこの人は感じがいい」/「この人のチラシの、この文章にはなんとなく共感できる」/そういった、あなたの勘をまずは大切にしてください〉。で、なぜそう感じたかを探る。〈その過程こそが、あなただけの「わかる」をつくるのです〉。  自分の票はいつも死に票だと嘆く人にも〈「投票が無駄になる」ということはありません〉〈負けた選挙であっても、候補者は皆、投じられた票のことを大切に胸にしまって帰り〉〈「次こそ頑張れ」と声をかけてくれる有権者に対して心から感謝を抱きます。こうしたすべてが、彼もしくは彼女を育てることになります〉。  地方選を含めると年に約900回。毎週どこかで選挙が行われているという日本。生涯に換算すると18~80歳で国政選挙44回、地方選を含めれば104回。今度負けたらもう終わり。そんな思い込みから脱することが、最終的な「勝ち」への道なんですよ。
今週の名言奇言
週刊朝日 7/7
「18歳選挙権」で社会はどう変わるか
「18歳選挙権」で社会はどう変わるか
子どもに政治は判断できない。中高生に政治は早すぎる。〈こうしたおとなの決め付けが、若者の政治離れを促進させているのではないだろうか〉と述べるのは林大介『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』。〈おとなは、子どもを子どものままに扱うのではなく、少なくとも成人するまでに、「子どもを市民にする」「子どもをおとなにする」という意識を持って、子どもと接するべきである〉と説く政治教育論である。  18歳選挙権の意義のひとつは、「生きた政治」にふれる機会が子どものころからもてるようになることだ。海外では子どもたちの主権者意識を育てる「民主主義教育」「シティズンシップ教育」が盛んで、アメリカでは大統領選の際に未来の有権者による模擬選挙が行われる。幼稚園から小学校、中学校、高校まで含め、その規模、700万人以上! 5歳の子まで参加するっていうのがすごい。  ひるがえって日本では、しばしば「政治的中立性」の壁が立ちはだかる。政治や選挙のしくみは教えても、〈各政党の政策の中身や考え方については触れない、あるいは、憲法改正や安保法案といった実際に政治的・社会的に対立する課題については、簡単に説明をすることはあっても踏み込んだ議論は控える〉。だから政治に興味を失っちゃうのよね。  実際の選挙にあわせて模擬投票の準備を進めていた公立中学に教育委員会が中止を命じたり(09年/東京都江戸川区)、実際の政党を題材に模擬選挙を予定していた公立中学に教育委員会から指導が入って架空の政党名にしたり(13年/青森県弘前市)、安保法案についてグループ討論し賛否を投じるという県立高校の授業が県議会で問題となり、教育長が謝罪したり(15年/山口県)。民主主義を学ばなくちゃいけないのは、むしろ大人たちみたい。  18歳選挙権は、こんな風土に風穴を開ける契機になるかもしれない。〈そもそも子どもは、有権者ではなくても主権者であり、市民であり住民である〉っていう原則を忘れちゃいけません。
今週の名言奇言
週刊朝日 6/30
憲法の無意識
憲法の無意識
憲法9条は絶対に破棄されることはない。なぜならそれは、日本人の無意識の超自我に根ざしたものだから……。そういわれても全然ピンとこないけど、読後にはものすごーく納得してしまった。  柄谷行人『憲法の無意識』。ありきたりの憲法論に飽きたあなたは必読。戦後民主主義なんてチンケなレベルの話じゃないからね。  本来、憲法9条は1条をつくるためにあった、マッカーサーは9条より1条に熱心で、戦争放棄は日本の幣原喜重郎首相の「理想」だった、などの話もさることながら、いちばん驚いたのはここ。 〈徳川の体制はまさに秀吉の朝鮮侵略を頂点とする四〇〇年に及ぶ戦乱の時代のあと、つまり「戦後」の体制なのです〉  えーっ、戦後の日本は徳川体制と同じ? じゃあ類似点は? 〈第一に、象徴天皇制です。(略)天皇が政治的に活性化したのは、王政復古が唱えられた建武中興のころで、その時に生じた混乱が、戦国時代から秀吉にまで至ったのですが、徳川はそれに終止符を打った。その基礎にあったのが徳川時代の「尊王」です。それは象徴天皇制のようなものです〉  なるほど、その通りだな。 〈第二に、全般的な非軍事化です。大砲その他の武器の開発が禁止された。武士は帯刀する権利をもつが、刀を抜くことはまずなかったので、刀は「象徴」にすぎなかった。その意味で、武士の非戦士化です。(略)/ある意味で、現在の憲法の下での自衛隊員は、徳川時代の武士に似ています〉  おおっ、たしかに! 〈戦後憲法一条と九条の先行形態として見いだすべきものは、明治憲法ではなく、徳川の国制(憲法)〉という観点に立つとき、憲法1条と9条は日本人の無意識に深く根を下ろしており、だから60年間変えられなかったのだという説がストンと胸に落ちる。  改憲が現実性を帯びはじめたいま、憲法擁護本が急増しているのも「無意識」の産物か。明治の日本は戦争ばかりやっていたが、徳川時代は250年、平和が保たれた。それが先行形態なのである。
今週の名言奇言
週刊朝日 6/23
黄色いマンション 黒い猫
黄色いマンション 黒い猫
渋谷の書店では透明のビニールでパックされていた。さすがアイドル。写真集でもないのに立ち読みできないようになってる! 『黄色いマンション 黒い猫』はキョンキョンこと小泉今日子の最新のエッセイ集だ。  少女の頃から原宿に通い、一時は原宿近くに住んでいたこともあるキョンキョン。〈私のマンションは、明治通りを渋谷から新宿に向かって、左手のラフォーレ原宿を過ぎて、パレフランスも過ぎて、東郷神社も過ぎて、もう少し行くと右手にポツンとあるピテカントロプス・エレクトスっていうクラブの脇を入った突き当たりにある黄色い建物。黄色いマンションなんてちょっと珍しいでしょ〉  えっ、そんなこと明かして大丈夫? 大丈夫、大丈夫。だってそれは20年以上前の話だから。 〈アイドルの住宅事情も大変よ。更新ってしたことないもんね。ファンの人たちにバレて、騒がれて、住民に文句言われて、次のマンションを探す〉。これがタイトルの由来。同じエッセイに出てくる「黒い猫」のことは可哀想すぎて、とてもここでは書けません。 〈私の青春時代の恋はいつも秘密だった。こっそりとひっそりと温めるしかなかった〉とか、〈離婚して再びの一人暮らしが始まったんですよ。裸一貫で出直したい気分だったんで〉とか、たまーにドキッとするフレーズを挟みながらも、いわゆるタレント本とはちがい、過去と現在が気持ちよく混在した短編集のよう。文章はもちろんうまいけど、それよりもこの絶妙な距離感ね。彼女が「ユミさん」と呼ぶ母も、母との離婚後に亡くなった父も、ビルから空に飛んだ2年後輩のアイドルも、なんだか小説の登場人物に思える。  米軍基地のある神奈川県の厚木の町に3姉妹の末っ子として生まれ、16歳でデビューして三十数年。〈若い時には四十代ってもっとくたびれているもんだと思っていた。なってみると意外や意外、身も心も人生の中で一番充実しているような気がする〉と書くキョンキョンは今年で50歳。私たちも歳をとるはずです。
今週の名言奇言
週刊朝日 6/16
日本会議の研究
日本会議の研究
菅野完『日本会議の研究』。当の日本会議が版元の扶桑社に出版の差し止めを要求したとの報道もあり、発売直後に即、売り切れ。もっか話題沸騰の一冊だ。  首相本人も含め第3次安倍晋三政権の閣僚16人が所属する「日本会議」。いったいそれはどんな団体で、どんな主張をし、どれほどの影響力を持つのか。徐々に浮かび上がるのは、私たちの想像をはるかに超えた組織の力だ。  日本会議のルーツでもあり、事務局というべきは右翼団体「日本青年協議会」。それは70年代安保の頃、左翼学生運動に対抗する民族派学生運動として出発し、新宗教「生長の家」の周辺に集う若者たちが牽引し、ついに今日、政治を陰で操るところまで来た。  それって陰謀論じゃないの?という疑念は、じきに吹き飛ぶ。70年代後半に地道な活動を通して元号法制化を成功させた彼らはその後も同様の活動を続け、1995年の「村山談話」が発表される過程で横やりを入れ、2000年代には「保守革命」として「歴史認識」「夫婦別姓反対」「従軍慰安婦」「反ジェンダーフリー」をターゲットに定めた。  当時、保守論壇誌にわりとよく目を通していた私には、思い当たる節がありまくり。当時だけではない。安保法制の審議中、菅官房長官が名前を出した集団的自衛権を合憲とする3名の憲法学者も日本会議の息のかかった団体の役員。「沖縄の二つの新聞社はつぶさなあかん」という発言が出た自民党「文化芸術懇話会」のメンバーも日本会議に近い人物だ。  安倍政権への支援や協力という「上への工作」も、地方議会への請願や言論界での活動など市民社会への浸透を狙う「下への工作」も熱心に続けてきた人々。安倍政権の反動ぶりも、路上のヘイトの嵐も「社会全体の右傾化」ゆえではないと著者はいう。〈実は、ごくごく一握りの一部の人々が長年にわたって続けてきた『市民運動』の結実なのではないか〉と。 〈彼らは、いまだに学生運動を続けている〉の一言に震撼する。安倍政権に疑問を持つ人は必読。
今週の名言奇言
週刊朝日 6/9
貧困世代
貧困世代
『下流老人』で読者をふるえあがらせた(?)藤田孝典氏の新刊は若者世代に焦点を当てた本だった。題して『貧困世代』。「社会の監獄に閉じ込められた若者たち」という副題がコワイ。  いまや社会的弱者である若者世代だが、意外だったのは〈若者たちに対する社会一般的な眼差しが、高度経済成長期のまま、まるで変わっていないのではないだろうか?〉という指摘である。 「若者論」の誤りとして著者は五つの神話をあげる。  (1)働けば収入を得られるという神話(労働万能説)。労働万能説の信奉者は働かない若者を怠け者よばわりし「仕事は選ばなければ何でもある」という。しかし、ではブラック企業で働けと? 労働市場の劣化こそが労働意欲を失わせているのにわかってない。  (2)家族が助けてくれているという神話(家族扶養説)。いまの若者たちはもう家族には頼れない。家族の人数が減っている上、雇用の不安定化が進み、家族も困窮している場合が多いからだ。  (3)元気で健康であるという神話(青年健康説)。若者たちの健康は急速に蝕まれている。精神科や神経科に通う者が年々増加し、若者(15~34歳)の自殺死亡率も主要先進国中、群を抜いて高い。  (4)昔はもっと大変だったという時代錯誤的神話(時代比較説)。  (5)若いうちは努力をするべきで、それは一時的な苦労だという神話(努力至上主義説)。  (4)(5)はまさに高度経済成長期の神話ですよね。今日は貧乏でも頑張れば明日は上に行けるという確信があればこそ、(4)(5)のような発想になるわけで、だけどいまは全然そんな時代じゃないのよね。  若者世代の支援策の前に、オヤジ世代の認識を改めないと、何も先に進まない、この現実!  このままでは〈貧困世代約3600万人がいずれ日本の人口の大きなボリュームゾーンとなり、「一億総貧困社会」となるのは明らかである〉と著者はいう。〈早急に手を打たなければ、日本は滅びると言っても言い過ぎではない〉。これ、脅しじゃないんで。
今週の名言奇言
週刊朝日 6/2
民主主義を直感するために
民主主義を直感するために
民主主義とは何かがあらためて問われる昨今。國分功一郎『民主主義を直感するために』はパリのデモの話からはじまる。 〈最初驚いたのは、ほとんどの人が、ただ歩いているだけだということである〉。横断幕を手にシュプレヒコールをあげる熱心な人は少数で、〈多くはお喋りをしながら歩いているだけ。しかもデモの日には屋台が出るので、ホットドッグやサンドイッチ、焼き鳥みたいなものなどを食べている人も多い。ゴミはそのまま路上にポイ捨て〉。さて、おもしろいのはこの後だ。〈デモの最中、ゴミはポイ捨てなので、デモが行進した後の路上はまさしく革命の後のような趣になる(単にゴミが散らかっているだけだが)。しかし、彼らパリ清掃軍団がやってきて、あっという間に何事もなかったかのように路上はきれいになるのだ〉  ただ歩くだけのデモ。その後からやってくる清掃車。デモが日常に溶け込んでいる国らしい。そして著者はいう。〈デモにおいては、普段、市民とか国民とか呼ばれている人たちが、単なる群衆として現れる〉。そこから発せられるのは〈今は体制に従っているけど、いつどうなるか分からないからな。お前ら調子に乗るなよ〉というメッセージなのだと。  人がただ群れているだけで権力はおびえるのだ。だから高い意識を持つ必要なんかない、デモはお祭り騒ぎでよいのだ!  もうひとつ、感動的だったのが辺野古の訪問記である。  キャンプ・シュワブのゲート前に集まった人々の中には、「研修できました」という地元大手企業の社員がいた。大手スーパーの経営母体「金秀」の社員だった。ホテル大手「かりゆしグループ」、食品大手「沖縄ハム」。沖縄には基地建設反対運動を応援している企業がいくつもあるのだ。  2010年から15年までのエッセイや書評や対談を集めた雑文集。 〈確実に何かが次第におかしくなってきているが、日常は続いている〉という状態にあるいまの日本で役に立つのは「何かがおかしい」と感じる直感だと直感した。
今週の名言奇言
週刊朝日 5/26
カツオが磯野家を片づける日
カツオが磯野家を片づける日
磯野カツオは41歳。電機メーカーの営業職にある。そのカツオが途方に暮れている。84歳だった父の波平が庭の盆栽に頭をぶつけて急死したのだ。動転している母のフネに代わって、保険証や当座の現金をとりに実家に戻ったカツオは呆然とした。〈サザエ姉さんったら、なんでゴミ屋敷になるまでほっといたんだよ!〉  渡部亜矢『カツオが磯野家を片づける日』のサブタイトルは「後悔しない『親の家』片づけ入門」。あの『サザエさん』の磯野家の30年後を例に「実家の片づけ」という難問の解決法を解説したユニークな実用書である。  磯野家の面々の今日の姿が興味深い。独身の転勤族で、本社の係長として久々に東京に戻ったカツオ。念願のマイホームを手に入れるも、マスオの勤める商社が円高不況で減給となり、ローンを払うためパートに出たサザエ。アメリカの大学院に通う息子のタラオの学費もあり、54歳になったいまはコンビニの店長代理として大忙しだ。ワカメは39歳。外資系企業のキャリアウーマンで3歳と5歳の娘がいるが、夫は中国に単身赴任中。一人っ子の夫の両親の世話もあり、綱渡りのような毎日だ。  って、そういうことを楽しむ本ではないのだが、ここには昭和の家族が直面する現実がある。体力や気力の衰えでゴミ屋敷化した実家。ものを捨てない親とのいざこざ。貴重品の捜索。遺品整理。  ちなみに老親にいってはいけないNGフレーズは次の三つだそう。  (1)捨てない価値観を〈「いつか使うって、いつよ」「どうせ使わないんでしょ」〉などと否定しない。(2)親を主体にして話そう。〈「荷物を遺されて困るのは、私なんだよね」「片づけをしてあげてるのに」〉などはダメ。(3)〈「通帳どこ?」「権利証は?」〉など、いきなり財産の話をしない。  ゲッ、全部いいそう! 全住宅の7軒に1軒が空き家といわれる今日。〈実家の片づけは、少子高齢化社会の到来で、日本人が初めてぶつかる最大級の社会問題〉と著者はいう。うちだけじゃないと知るだけでも意味があるかも。
今週の名言奇言
週刊朝日 5/19
永遠とは違う一日
永遠とは違う一日
彼女が読書家だとは聞いていたけど、いまやすっかり書く人なんだね。押切もえ『永遠とは違う一日』は人気モデルとしても活躍する作者らしい、いわゆる「業界」とその周辺の女性たちを描いた6編からなる連作短編集である。  登場するのは恋愛もイマイチ、仕事もイマイチな女たちだ。  パッとしないモデル事務所のマネージャーと彼女が担当するこれまたパッとしないモデル(「ふきげんな女たちと桜色のバッグ」)。独立はしたものの、いまも師匠や元カレの影をひきずるスタイリスト(「しなくなった指輪と七日間」)。離婚した元夫は前衛画家、娘はアイドルとして活躍しているのに、自身は長いスランプから抜けられない絵画教室の講師(「抱擁とハンカチーフ」)。  80~90年代にはこういう感じの小説がよくあったっけ。仕事小説といえば非正規雇用のワーキングプアやブラック企業であえぐ若者たちの物語ばかり、みたいになってしまった昨今、キラキラした世界に憧れる女たちにはもうリアリティがない……かと思いきや意外にそうでもない。  成功のイメージがはっきりしない時代。外国語専門学校を出たが英語を活かせる職に就けなかった25歳の女性は、アナウンサーになった友人に〈将来って、そんなにはっきり決めなくちゃダメかな?〉と言い放つ。やりたいことが何かわからなくても〈決して永遠を望まず、ただ毎日の奇跡を味わって生きればいいのだ〉(「甘くないショコラと有給休暇」)。  だよね。世の中、夢を持て持て、いいすぎなのよ。だから余計生きにくくなるわけで(とはいうものの、この子にも大どんでん返しが待ってるんだけど)。  前の4編で張られた伏線が、後の2編できれいに回収される構成がお見事。特に作品全体の要というべき人気バンド「7BOYS」の男の子を描いた「バラードと月色のネイル」は、セクシュアリティがからんだ切ない佳編だ。  今年の山本周五郎賞にもノミネートされた本。選考会は5月16日だそう。さて結果はいかに。
今週の名言奇言
週刊朝日 5/12
イナカ川柳
イナカ川柳
その昔、ふるさとはウサギを追ったり小ブナを釣ったりする場所だった。いまはそんなんじゃありません。じゃあどうなのかが手に取るようにわかるのが『イナカ川柳』。副題は「農作業 しなくてよいは ウソだった」。テレビ情報誌「TV Bros.」の投稿欄から生まれた単行本だ。 〈漁師町 スナック、鏡月 ハイライト〉な海辺の町や〈道ゆかばネギネギネギネギ たまにイモ〉の農業地帯はまだよいが、それは田舎の一部にすぎない。  田舎といえば、どこへ行っても同じなのがロードサイドの風景である。〈ダイエーが サティになって 今イオン〉〈郊外に 行けば行くほど ブックオフ〉というね。〈チェーン店 どっちを向いても チェーン店〉という投稿には〈右ははるやま、左はアオキ〉という但し書きがつき、すると生活もみんな似てきて〈しまむらの服着て今日も しまむらへ〉。  では商店街はどうなったかというと、〈学校の 利権で生きてる洋服店〉が残る一方、〈店頭の カットモデルが シブガキ隊〉だったり〈勝算の ないタコ焼き屋が またひとつ〉できたり。  村落部では〈廃校を オシャレにしたがる 仕掛け人〉が暗躍するが、結局は〈移住者の オサレなカフェが 廃屋に〉〈山の中 アウトレットが 夢の跡〉という厳しい現実が立ちはだかる。  そして、この少子高齢化である。〈ラブホテル 潰れた後に ケアハウス〉〈いつの間に そこいら中に デイケアが〉な光景は当たり前だし、だんだんそこはあの世化してきて〈パチンコ屋 潰れた後は 葬儀場〉〈霊園と 老人ホームと ガンセンター〉。 〈国滅びてイオンあり──。今、日本の田舎はとんでもなく荒んでいます〉と巻頭言はいう。〈そんなディストピアと化した田舎に向けて、東京のテレビは「恵比寿の美味しいお店」など、今日も能天気な電波を発信しています〉  だよね。「ふるさとを壊したやつは都会人」なのかもな。自虐で笑わせながら時に光る批評性。「あるある」感に笑いがひきつる。
今週の名言奇言
週刊朝日 4/28
安倍政権にひれ伏す日本のメディア
安倍政権にひれ伏す日本のメディア
日本のメディアは〈第二次安倍政権誕生以降、腰砕け状態に陥ってしまっている〉。〈官邸の記者たちは、権力側からの管理によってあまりにも縛られ、またそのことに慣れすぎている〉。著者のマーティン・ファクラーはアメリカを代表する新聞「ニューヨーク・タイムズ」の前東京支局長。『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』は、このごろの報道っておかしくないか?というあなたや私の実感を実証的に裏打ちしてくれる快著である。  いわゆる「ぶら下がり会見」をやめ、メディアを選別して単独インタビューに応じる安倍首相。気に入らない報道があれば、担当者に直接電話することも辞さない官邸。加えて著者は、日本の報道のあり方そのものに疑問と批判を差し向ける。  福島第一原発の事故をめぐる「吉田調書」と慰安婦問題にからむ「吉田証言」問題で朝日新聞が窮地に追い込まれた際(2014年)、他の新聞やテレビは朝日を守るどころか孤立させた。会社もまた個々の記者を守らなかった。「プロメテウスの罠」など、3.11後に立ち上がった特別報道部による調査報道は花をつける前に芽をつみとられた。 〈なぜ会社の垣根を超え、権力と対峙して朝日新聞を擁護しようとしないのか。このジャーナリズム精神の欠落こそが、日本の民主主義に大きな危機を招いている〉〈日本はいつまでも自分の殻に閉じこもったままの「タコツボ型ジャーナリズム」をやっている場合ではない〉  そう。何がヤバイって、メディア同士の分断ほど権力に好都合な事態はないのである。安倍政権批判、メディア批判の本に見えるけど(実際、そういう本だけど)、あるべき民主主義とジャーナリズムの役割を再認識させる教科書みたいな本。〈国内外のジャーナリストから見れば、日本の報道の環境は安全安心な温室空間に見える〉〈誰でも書ける記事には付加価値がない〉とまでいわれちゃってるんですからね。記者のみなさまも、奮起してほしいです。
今週の名言奇言
週刊朝日 4/21
コンビニ店長の残酷日記
コンビニ店長の残酷日記
いまやコンビニは生活に欠かせないインフラである。私もコンビニのヘビーユーザーだ。半面、コンビニが過酷な経営を強いられていることは、よく聞く話でもある。 『コンビニ店長の残酷日記』の著者・三宮貞雄(ペンネーム)は大学の経済学部を出てメーカーに就職するも、一国一城の主になりたいという夢を捨てきれず、6年前、40代半ばにして大手コンビニチェーンのフランチャイズ店の店長になった。しかし、その実態は想像以上だった!  トンデモなお客。深刻なアルバイト不足。コンビニのオーナーは経営者だが、実質的には労働者。家族の協力は欠かせず、〈労働の合間に経営もしている〉状態である。  ことに由々しきは、廃棄食品の問題だ。食品の廃棄量は1店舗あたり1日約15キロ。著者の店では1日10キロ。なぜこれほど多くの廃棄が出るかというと、消費期限や賞味期限より早く棚から撤去するから。弁当などは消費期限の2時間前。加工食品などは賞味期限まで3分の1を切った時点(賞味期限まで30日なら10日前)で廃棄される。スーパーのように値下げをして売り切るやり方には本部が難色を示し、しかも廃棄分は加盟店の負担となる。友人の税理士はいった。〈かなり日商を上げても本部が吸い上げ、店には利益が残らないようになっているんだよ〉  本部は粗利の50~70%を取るが、特殊な会計システムにより、廃棄分が増えれば増えるほど店の経営は逼迫し、本部は儲かるしくみだ。売上金は毎日本部に送金するため、〈加盟店の財布と通帳、帳簿を本部が管理しているようなもの〉。  経営改善をスーパーバイザー(SV)という名の現場監督に相談しても〈いざとなったら、廃棄で生活費を浮かすのはどうですか?〉。これはもう、はっきり「悪徳業者」といっていいんじゃないか。とはいえ、その悪徳ぶりがメディアで報じられることは少ない。コンビニは重要な広告主だし、雑誌を売ってくれるのもコンビニだからね。ひどすぎる!
今週の名言奇言
週刊朝日 4/14
この話題を考える
大谷翔平 その先へ

大谷翔平 その先へ

米プロスポーツ史上最高額での契約でロサンゼルス・ドジャースへ入団。米野球界初となるホームラン50本、50盗塁の「50-50」達成。そしてワールドシリーズ優勝。今季まさに頂点を極めた大谷翔平が次に見据えるものは――。AERAとAERAdot.はAERA増刊「大谷翔平2024完全版 ワールドシリーズ頂点への道」[特別報道記録集](11月7日発売)やAERA 2024年11月18日号(11月11日発売)で大谷翔平を特集しています。

大谷翔平2024
アメリカ大統領選挙2024

アメリカ大統領選挙2024

共和党のトランプ前大統領(78)と民主党のハリス副大統領(60)が激突した米大統領選。現地時間11月5日に投開票が行われ、トランプ氏が勝利宣言した。2024年夏の「確トラ」ムードからハリス氏の登場など、これまでの大統領選の動きを振り返り、今後アメリカはどこへゆくのか、日本、世界はどうなっていくのかを特集します。

米大統領選2024
本にひたる

本にひたる

暑かった夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきました。木々が色づき深まる秋。本を手にしたくなる季節の到来です。AERA11月11日号は、読書好きの著名人がおすすめする「この秋読みたい本」を一挙に紹介するほか、ノーベル文学賞を受賞した韓国のハン・ガンさんら「海を渡る女性作家たち」を追った記事、本のタイトルをめぐる物語まで“読書の秋#にぴったりな企画が盛りだくさんな1冊です。

自分を創る本
個人を幸福にしない日本の組織
個人を幸福にしない日本の組織
日本人は勤勉である。それは組織への帰属意識が強いからだ──と思いこんでいる人はまだ多い。だが、日本人の勤勉さは見せかけだけ。組織にも仕方なく帰属しているだけだとしたら? 太田肇『個人を幸福にしない日本の組織』は、企業、大学、地方自治体、PTA、町内会などを例に、日本の組織に関する神話を暴き、個人を中心にした組織への大胆な改変を提言する書である。  おもしろいのは、人材の選抜法について書かれた章(「厳選された人材は伸びない」)だ。女性タレントを発掘する「全日本国民的美少女コンテスト」では、グランプリ受賞者より審査員特別賞や部門賞などの受賞者のほうが知名度が高い。米倉涼子、上戸彩、福田沙紀、武井咲……。過去の経験やデータから無意識に選ばれた人材は既視感が強く、最初は魅力を感じても、意外性に導かれる発展性がないため飽きられる。〈ドキドキ感やワクワク感は、変化の大きさに比例する〉のだと。  高品質な製品を低コストで迅速に生産することが求められた工業化社会では、知識の量や記憶力がものをいい、〈集団の和を乱さず組織と上司に忠実で、勤勉な人物〉が求められた。しかし、独創性や創造性が求められるポスト工業化社会では、予定調和的な選別・選抜は何も生み出さない。〈「選ぶとよい時代」から「選んでもムダな時代」へ、そして「選んだらダメな時代」へと移り変わってきたのである〉。  日本の組織を覆っているのは「柔らかい全体主義」である、と著者はいう。「組織の論理」に屈服しないために必要なのは〈自分および他人の自由や誇り、権利を尊重し、個人の意欲と能力を最大限に引き出そうとする「健全な個人主義」である〉とも。企業の人事担当者はみんな読んだほうがいいですね。戦前・戦中の政権や軍部がもっとも嫌ったのは個人主義者だった。〈わが国に健全な個人主義が浸透していたら、先の戦争のような悲劇もおそらく防げただろう〉という指摘が重い。
今週の名言奇言
週刊朝日 4/7
シニア左翼とは何か
シニア左翼とは何か
シニア左翼とは聞き慣れない言葉である。だけど、実態としては「はいはい」と思った人が多いのではないか。2015年の反安保法制デモで注目を集めたのはSEALDsなどの学生だったが、数として多かったのは圧倒的に中高年だった!  小林哲夫『シニア左翼とは何か』は3.11後、急に目立つようになったそんな60歳以上の左翼(広い意味での反体制運動の担い手たち)にスポットを当てた本である。  著者はまず、シニア左翼を四つのタイプに分ける。若い頃から活動を続けてきた「一貫組」。就職後は政治から遠ざかっていたが、定年をすぎて活動を再開した「復活組」(学者などに多い)。反体制的な意見を述べる文化人などの「『ご意見番』組」。どちらかといえば保守思想の持ち主だったが、60歳をすぎてはじめて運動に加わった「初参加組」。 〈いやあ、71年の『渋谷暴動』以来かなあ〉〈そうかあ、おれは『連赤』の年まではやっていた〉〈『サンイチイチ』で、おれは長い眠りから覚めた。復活したよ〉なんて同窓会みたいなやりとりに苦笑するけど、本人たちは楽しそう。  75歳以上の60年安保世代と65歳以上の69年全共闘世代が中心のせいか〈すべてのタイプに共通しているのが、「いずれにしても、残りの人生をかけて運動を行いたい」とする熱血派が多いことだ〉。  いってること、間違ってはいませんよ。先の戦争の退役軍人と元学生運動活動家を比べ〈歴戦の数々を語るメンタリティには通底するものがある〉という説にも、シニア左翼の活動は〈「終活」に向けた「リア充」の1つなのかも〉という意見にも笑った。でも、なんだろうね、真正面から批判するでも共感するでもない、採集してきた虫や植物を分類して標本箱に並べるような、この手つきは。  ちなみに著者は1960年生まれ。その昔、しらけ世代と呼ばれた世代だ。どこまでもシニカルな永遠の部外者。熱すぎるのもナンだけど、こっちはこっちでちょっとムカつく。
今週の名言奇言朝日新聞出版の本
週刊朝日 3/31
小説 土佐堀川
小説 土佐堀川
NHK連続テレビ小説「あさが来た」ももうじき終わり。朝ドラは「職業婦人型」と「良妻賢母型」にほぼ二分できるのだけれど、これは「婦唱夫随型」。夫が妻のサポート役に徹している点が新しかった。  古川智映子『小説 土佐堀川』はその「あさが来た」の原案となった歴史小説。いま読むと、原案とドラマの異同が見えておもしろい。  主人公の広岡浅子は三井財閥一門の娘に生まれた。といっても継室の娘。姉の春とは異母姉妹である。  ドラマでも白岡あさは男勝りな女性として描かれているけれど、現実というか原案はもっとシビアだ。  一例が夫・広岡信五郎との関係だ。大阪の両替商・加島屋に嫁いだ浅子の元に九州の炭鉱を買う話が持ち上がる。浅子はおつきの小藤にいった。〈うちは九州へ行く。旦那はんの世話もでけんようになる〉〈旦那はんの身の回りの世話をようして、加島屋を守っておくれやす〉。この言葉の意味は後日わかる。ある日の夜更け、信五郎は小藤にいった。〈戻らずに朝までここで休んでおいき〉〈御寮はんの命令なのや。(略)お前もわても御寮はんの大きさにはかなわんし、逃げることもでけん。あれは日本一の女子や。服従するしかない〉。ふ、服従て……。小藤の妊娠が発覚したときの浅子の言葉も〈加島屋の血筋引いたもんがひとりでもふえるのは、どないに心強いことか。ほんまにめでたいことどす〉。  結局小藤は4人の子どもを産む。これが明治の現実なんだすな。  ドラマでは負傷者1人ですんだ炭鉱の事故でも15人の死者を出してるし、しかも浅子は病気がちで、若い頃には肺結核を、年がいってからは乳がんを患い、しかも二つの大病を克服したという壮絶な人生。  発表されたのは1988年。こういう女性が朝ドラのヒロインになるまでには25年以上が必要だったのだね。タイトルの土佐堀川とは加島屋の前を流れる川の名前。ドラマの上を行く女傑ぶりを堪能されたし。原案の五代様はチョイ役ですけど。
今週の名言奇言
週刊朝日 3/24
ズッコケ熟年三人組
ズッコケ熟年三人組
那須正幹「ズッコケ三人組」を知っているか否かで年がバレる。絶対知っているのは80年代以降に小学生だった人。「何それ?」なのは50歳以上の熟年だ。第1作の『それいけズッコケ三人組』が出版されたのが1978年。以後26年も続き、映画にもテレビドラマにもアニメにもなった、これは児童文学界きっての人気シリーズだ。  舞台は稲穂県ミドリ市(モデルは広島市)。物語は花山町の花山第二小学校6年1組の3人組を中心に展開する。ハチベエこと八谷良平は直情的な行動派。眼鏡をかけたハカセこと山中正太郎は読書好き。身体が大きいモーちゃんこと奥田三吉はおっとり型。このシリーズは登場人物が年を取らない「サザエさん型」で、2004年に50作目の『ズッコケ三人組の卒業式』で完結するまで彼らはずーっと6年生だったのだ。  ところが、完結からそう時間がたたない05年に復活しちゃったんですね3人組が。40歳の『ズッコケ中年三人組』となって。ノリは児童文学なのに、下ネタは出てくるわ浮気はするわ。ビックリしたのでこのときも私は某誌に書評を書いたのだが、1回だけの特別編だったはずの「ズッコケ中年」も毎年1歳ずつ年齢を重ねて10作目まで続き、ハチベエたちが50歳になった11作目の本書『ズッコケ熟年三人組』でやっとほんとの完結編となったのだった。  18年前に実家の八百屋をコンビニに改装したハチベエはいまや孫までいる市会議員だし、地元で社会科教師になったハカセも結婚、10年前にはバイト暮らしだったモーちゃんもいまは内装会社の専務である。  みんなが熟年になったぶん物語に往年のパンチはなく、特に土砂災害を描いた後半はシリアスだ。それでも〈なにしろ熟年だからなあ〉というハカセのつぶやきに〈熟年て、何歳からなの〉と質問するモーちゃん、自分は〈どっちかっていうと、半熟だなあ〉と返すハチベエのやりとりは6年生のときのまま。那須先生、37年間、お疲れさまでした。
今週の名言奇言
週刊朝日 3/17
おやすみ、ロジャー
おやすみ、ロジャー
副題は〈魔法のぐっすり絵本〉。帯には〈たった10分で、寝かしつけ!〉の文字。カール=ヨハン・エリーン『おやすみ、ロジャー』は、寝ない子どもに手を焼く親御さんの救世主みたいな絵本である。 〈ゆっくりと、できるだけおとぎ話にふさわしい声で、他のことにいっさい邪魔されない環境で読みきかせてください〉などの注意書きのほか、太字は〈言葉や文を強調して読む〉、色のついた文字は〈ゆっくり、静かな声で読む〉などの指示つき。【なまえ】とある箇所には子どもの名前を代入し、【あくびする】などの指示があれば実際にあくびもする。 〈さーて、いまからとっても眠くなるお話をしましょうか。すぐ眠っちゃう子もいるし、夢の国につくまでにちょっとだけ時間がかかる子もいます。【あくびする】【なまえ】はどっちかな?〉ってな具合。  お話はうさぎのロジャーと聞き手の子どもが、いますぐ眠らせてくれる「あくびおじさん」に会いに行くという内容だ。ふたりは坂道を下る。〈おりていく、おりていく、もっとおりていく、そう、そう、いいね〉。途中で出会った「おねむのカタツムリ」は〈歩くのもゆっくり、とてもゆっくり。動くのもゆっくり、とてもゆっくり〉。次に会った「ウトウトフクロウ」は体の力の抜き方を教えながら〈ゆっくりと、落ちていく、落ちていく、落ちていく、ゆっくり落ちていく〉。  引用したのはすべて〈ゆっくり、静かな声で読む〉と指示された箇所。のんびりした声と繰り返しの効果で眠くなるという寸法だが、要は「あなたはだんだん眠くなる、眠くなる」という催眠術と同じ?  だまし討ちめいているけど、こういう本が世界中でベストセラーになるのは親が忙しくなった証拠かも。著者はスウェーデンの行動科学者。監訳者の三橋美穂さんは快眠セラピスト。不眠症の大人にも効くかどうかは不明だが、〈車を運転している人のそばで絶対に音読しないこと〉という巻頭の注意書きに笑った。
今週の名言奇言
週刊朝日 3/10
国宝消滅
国宝消滅
2015年の訪日外国人観光客数は1974万人。20年までに2千万人という政府の目標は前倒しで達成されそうな勢いだ。  しかし、浮かれている場合ではない。少子高齢社会で日本が生き残る道は「観光立国」しかないが、日本の文化財行政は全然ダメと警告を発する本が出た。書名はズバリ『国宝消滅』。著者のデービッド・アトキンソン氏は英国生まれで、日本在住25年。ゴールドマン・サックス社の取締役を経て現在は文化財修理会社の社長という異色の経歴の持ち主だ。 〈外国人観光客は、「爆買」のためだけに日本にやってくるわけではありません。みなさんが海外旅行をした際と同様、外国人観光客も「文化財観光」に魅力を感じているのです〉。しかし〈文化財が観光資源として整備されていないのです〉。  まず驚くのは、日本の文化財修理予算の少なさだ。14年は81億5千万円。イギリスの500億円に比べると一ケタちがう。予算の少なさは文化財の崩壊に直結するうえ〈日本の文化財は楽しみが少なく、勉強にもなりません〉。それは日本の文化財展示が建築偏重で、文化を体験させる場になっていないからだと著者は指摘する。調度品を置かないガランとした空間、茶の湯を体験させない茶室、要するに〈日本の文化財は「建っているだけ」〉。勉強してから来いという人もいるけれど〈何十万円もする航空券を買って、大事な有給休暇を使って、10時間以上飛行機に乗ってやって来〉た結果がこれではとても通用しない。「撮影禁止」「入室禁止」「土足禁止」などの対応も、文化財を自分の所有物のように扱っている学芸員らにとって〈仕事はある意味で楽なのです〉。  いちいち納得することしきり。辛口の提言が並んでいるけれど、英国も昔は日本と同じだった、といわれると逆に勇気がわいてくる。説明板を変えるなど、現場の判断で変革できそうなヒントも満載。外国人観光客が殺到する地域にしたいと考える地方行政マンは必読でしょう。
今週の名言奇言
週刊朝日 3/3
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