
右の大砲、大器の片鱗、育成の星…ソフトバンクのネクストブレイク候補が主力離脱をチャンスに変える!
中軸定着を期待したい正木智也(写真提供・日刊スポーツ)
4月4日には実に12年ぶりの単独最下位となるなど苦しいスタートとなったソフトバンク。そこから5連勝で一気に借金を完済するなど地力を見せているが、不安要素は少なくない。まず痛いのが主力の故障による離脱だ。開幕前に栗原陵矢がわき腹を痛めて二軍スタートとなると、開幕3戦目には昨年MVPの活躍を見せた近藤健介が早くも椎間板ヘルニアで長期離脱。さらに柳田悠岐も12日のロッテ戦で自打球を受けた影響で登録抹消となっている。また投手陣もわき腹を痛めていたスチュワートが8日に検査とリハビリのためにアメリカに帰国となり、早期復帰は難しい状況だ。故障者以外にもオフにフリー・エージェント(FA)で甲斐拓也が巨人に移籍した穴は大きく、昨年チームトップの14勝をマークした有原航平と抑えのオスナも不安定な投球が続いている。開幕から躓いたのも当然と言えるだろう。
そうなってくると重要なのが離脱、不調の主力を補う既存戦力の底上げだ。キーマンとなる選手としてはどんな名前が挙がるのだろうか。まず野手でここまで存在感を見せているのが正木智也だ。昨年は夏場以降に外野の一角に定着してキャリアハイとなる71安打、7本塁打をマーク。今年もここまで全試合5番としてスタメンで出場して2本のホームランを放ち、チーム2位となる8打点をあげているのだ。慶応高校、慶応大学時代から長打力には定評があり、課題だった対応力も年々アップしている印象を受ける。主力不在の間にさらに成績を伸ばして一気に中軸に定着したいところだ。
正木の学生時代からの後輩である広瀬隆太も楽しみな存在だ。ルーキーイヤーの昨年は二軍でチーム2位となる打席数を経験すると、一軍でも35試合に出場して24安打、2本塁打とまずまずの成績を残した。今年は開幕二軍スタートとなったが、4月5日に一軍に昇格し、12日のロッテ戦では今季初ホームランを含む3安打の活躍を見せている。守備面はまだ課題が多いものの、正木と並ぶ貴重な右の大砲候補として期待は高い。
今年は二軍暮らしが続いているものの昨シーズン終盤に大器の片鱗を見せたのが笹川吉康だ。昨年6月に初めて一軍昇格を果たすと、セ・パ交流戦の阪神戦でプロ初本塁打を記録。その後は再び二軍でのプレーが続いたが、シーズン終了間際に再び一軍登録されると、日本シリーズでもスタメン起用されてヒットを放った。193cm、95kgという体格を生かした豪快なフルスイングは柳田を彷彿とさせ、とらえた時の打球の勢いと飛距離は圧倒的なものがある。課題の確実性を向上させて一軍定着を目指したい。
そして野手で秘密兵器となりそうなのが4年目の山本恵大だ。国士舘高校時代からその打撃には光るものがあったが、進学した明星大では首都大学野球の二部リーグに所属しており、4年時には怪我もあって育成ドラフト9位という評価でのプロ入りだった。それでもプロ入り後は三軍で力をつけると、今年は二軍で37打数18安打、打率.486という驚異的な成績を残し、4月12日に支配下昇格を果たして見せたのだ。その日のうちに一軍登録され、代走ながら試合にも出場したところにも期待の高さがうかがえる。新たな“育成の星”として今後ぜひ注目してもらいたい選手だ。
一方の投手では前田純、前田悠伍という2人の前田の名前がまず挙がる。前田純は日本文理大時代は130キロ台中盤のスピードながらボールの質の良さが評価されて2022年の育成ドラフト10位で入団。2年目の昨年は二軍で10勝をマークしてウエスタン・リーグの最多勝に輝き、7月には支配下昇格を勝ち取った。今年もここまで勝ち星こそないものの、一軍で2試合に先発登板して防御率は1点台と安定した投球を見せている。貴重な先発左腕として今後も期待だ。一方の前田悠伍は大阪桐蔭時代から注目の投手で、2023年のドラフト1位で入団。昨年は高卒ルーキーながら二軍で12試合に登板して防御率1点台と結果を残し、シーズン終盤には一軍デビューも果たしている。高卒の投手が苦戦している中で希望の星と言える存在だ。
投手でもう1人面白いのが甲斐の人的補償で巨人から加入した伊藤優輔だ。プロ入り1年目のオフにトミー・ジョン手術を受けたこともあって2年目から育成契約となったが、4年目の昨年に支配下復帰を果たすと、一軍でも8試合に登板して防御率1.04と結果を残した。今年は開幕一軍入りは逃したものの、二軍ではここまで2試合に先発して防御率1.50をマークしている。12回を投げて9四球という数字は課題が残るが、元々制球力がある投手だけに、先発ローテーションに入ってくる可能性もあるだろう。
主力が相次いで離脱しているのはチームにとってはピンチだが、これまで出番のなかった選手にとっては逆にチャンスであることは間違いない。今回名前を挙げた選手以外からも、この絶好の機会をモノにしてブレイクする選手が出てくることを期待したい。
(文・西尾典文)
西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。