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「絆」の文字 福島県民にとっては断ち切られてしまった
「絆」の文字 福島県民にとっては断ち切られてしまった  2011年を表す漢字として日本漢字能力検定協会が選んだのは、「絆」だった。しかし、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏は、被災地の福島県民にとっての意味は違ってくると怒りを代弁する。 *  *  *  昨年の一字は「絆」であると、誰もがこの文字をほめちぎっているが、福島県民にとっては違うぞ。「東京電力・福島原発事故」が福島県民の絆を断ち切り、家族の絆を断ち切り、友人・知人との絆を断ち切り、職場との絆を断ち切り、自宅との絆を断ち切り、郷里との絆を断ち切った、まさしく昨年の一字であると怒っているのだ。  わが国最初の宇宙飛行士・秋山豊寛氏は、福島県田村市滝根で有機農業に打ち込み、椎茸を栽培するアキヤマフォームを営んでいたが、原発事故のため群馬県へ逃れ、ついに今年から京都へと移住しなければならなかった。そして著書『原発難民日記~怒りの大地から』(岩波ブックレット)の最後にこう記している。 「内部被曝している可能性のある多くの福島県民は、ゴジラになる可能性を秘めているかもしれない」と。つまり、ビキニなどの核実験で、海底深く生き延びていた古代恐竜が、怪獣となって大都市に反撃するため東京にやって来たのがゴジラだ。農民が大都会に復讐するのだ、という怒りがこの短い一文にこめられている。 ※週刊朝日 2012年2月24日号
激震時期は予測不明 余震や巨大地震の可能性は今後数十年続く
激震時期は予測不明 余震や巨大地震の可能性は今後数十年続く  昨年3月11日の東日本大震災以来、現在まで頻繁に地震が続く日本。今年1月末には東北のみならず、富士山周辺や茨城沖でも不気味な地震が続発。それらの地震は数年どころか長期間続くと原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏が指摘する。 *  *  *  日本列島全体が至る所で激震する時期は、かなりの周期性を持っているように見えるので、地震学者・地質学者はモデル解析によってそれを知ろうとつとめてきたが、その周期の予測は確実ではない。地震の源となる岩板の破壊場所が、日本列島の周辺そちこちに存在しており、さまざまな地震源の周期が重なり合っているから、それぞれを分類しても結局、正確には断定できないのである。  では今はどうなのか。その危険性を最も強く論理づけているのが、昨年の太平洋沖地震によって、日本列島が大きくひずんでしまった巨大な地殻変動である。大津波の被災地の三陸海岸では、陸地面積が大きく減少した。これは、津波の一時的な浸水によって起こったのではなく、地盤そのものが海底に引きずり込まれたことによって起こった土台の変化だ。  この巨大な地殻変動こそ、次の大地震の引き金である。ある硬いものを強引にねじれば、元に戻ろうとして、そのひずみは反動力を生み出す。それと同じ自然界の調整(反動)運動が、今も引き続いている余震のエネルギー源なのだ。加えて、昨年の地殻変動のひずみがあまりに大きかったため、長期間、おそらく数十年間も、余震や、新たな大地震の影響が続くと予想されているのだ。 ※週刊朝日 2012年2月17日号
桜島 爆発的噴火100回目の最速記録は次なる大地震の警鐘
桜島 爆発的噴火100回目の最速記録は次なる大地震の警鐘  1月14日、鹿児島県にある桜島が、史上最も早い100回目の爆発的噴火を記録した。昨年まで3年連続で過去半世紀最大の爆発的噴火回数を更新してきた。さらに桜島とマグマが連なる霧島連山の新燃岳も再噴火が間近だとされている。日本の地底で起きている異変に、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏が巨大地震への警鐘を鳴らす。 *  *  *  火山の噴火は、地底から生み出されるマグマが噴出することによって起こる現象である。このように桜島の噴火回数が急増しているということは、地底が活発に動いているということにほかならない。  多くの日本人は、昨年の大地震のあと、これで大地震はしばらく来ないと勘違いしたり、もう来ないようにと胸中で祈ったりしているが、自然界の冷酷な掟はちょうどその逆で、間違いなく次の大地震が目前に迫っていると警告している。  私が一昨年に『原子炉時限爆弾~大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)を書いて、大地震による原発事故の発生を警告したのも、3年前に桜島の大噴火が始まって、大地震が切迫していると確信したからである。これは、直感に基づく危機感ではない。それは、大正桜島大噴火のあとに、関東大震災が起こった歴史に学んだ危機感であった。  一体、「どこで」、「いつ」それが起こるか、誰にも分からない。そのため最近は、しばしば「どこそこ」の地震発生確率が高まっている、といった新しい評価に関する記事が出て、いわゆる学術的な論法で警告が出されているが、確率論の数字は、一部地域の目安になるだけである。それ以上に危機意識を持っておかなければならないことは、日本全体、どこでも危ない、ということである。 ※週刊朝日 2012年2月17日号
広瀬隆「再稼働を阻止するために」
広瀬隆「再稼働を阻止するために」  1月6日に細野豪志原発大臣が、原発の運転期間を原則40年にする方針を発表して、これで原発廃絶に向かうかのような論調がマスコミに流布しているが、トンデモナイ解説だ。これは原発の全基"即時"廃止論が高まったために、原発を40年も運転してもよいという延命を目論む謀略なのだよ。現在電力会社と官僚は、ヨーロッパ式のストレステストなるものをすべての原発に適用して、机上の計算で、「運転しても安全である」という結論を出し、原子炉を再稼働するべく着々とそのデタラメ審査を進めている。ストレステストとは、そも一体何であるのか。  昨年10~12月末に安全評価の1次評価(ストレステスト)を原子力安全・保安院に提出した原子炉11基は、報告順に次の通りで、そこに秘密が隠されている。  大飯3号機(福井県)・伊方3号機(愛媛県)・大飯4号機(福井県)・泊1号機(北海道)・玄海2号機(佐賀県)・川内1・2号機(鹿児島県)・美浜3号機(福井県)・敦賀2号機(福井県)・泊2号機(北海道)・東通1号機(青森県)  保安院の審査には数ヶ月かかる見通しで、そのあと原子力安全委員会があらためて審査し、さらに地元住民の同意が不可欠だというので、そうやすやすと再稼働はできまいと国民がタカをくくっていると、トンデモナイことになる。これを食い止めるには、国民が圧倒的な反対の声をあげることが必要になる。  このストレステストを実施する保安院が、悪の巣窟(そうくつ)で、精神が悪いだけではなく、原子力発電所のメカニズムについてまったく無知な集団である。だからこそ、福島原発事故を起こしてしまったのである。さらにこれをダブルチェックする安全委員会とくれば、フクシマ事故前には、「すべての危険性を考えていたら原発なんか運転できない」とまで暴言していた班目(まだらめ)春樹委員長を筆頭に、何も事故解析ができない集団なのだ。加えて委員たちは、原子力業界から多額の寄付を受けていたことが、今年の年頭から各紙で報道された腐敗集団である。班目春樹が、フクシマ事故のあともなぜ平然と委員長をつとめているのか、こんな馬鹿げた原発の管理体制を理解できる日本人は一人もいるまい。  それは、現在の野田クズ内閣が、そのように仕組んでいるからである。つまり日本の悪事のすべては、人事によって、勝手に都合よくレールを敷くことが可能なのである。  ストレステストを終えた原子炉のリストは、見た通り福井県を除くと、予想された通り、日本列島南北の両端に集中している。予想されたというのは、いずれも原発の危険性について子供でも分ることについて、判断する能力のない腐敗した知事や首長のいる地方だからである。北海道の高橋はるみ知事、青森県の三村申吾知事、佐賀県の古川康知事、鹿児島県の伊藤祐一郎知事、この4人が、経済産業省の原発官僚の言いなりになる飼い犬の代表者であることは有名である。政界と官僚によって切り崩されるこれらの道と県が危ないのである。また愛媛県の中村時広知事は、表向きは「伊方原発の再稼働は白紙」と言いながら、最終的に国がお墨付きを与えればそれでゴーサインに踏み切る、という危険な態度だと、県民から批判を浴びている。  これらに対して、そのほかの原発立地県では、新潟県の泉田裕彦知事と静岡県の川勝平太知事が、再稼働に強く反対して、住民の生命と財産を守ろうとしている。茨城県の橋本昌知事はまったくあてにならないが、東海第二原発をかかえる東海村の村上達也村長が廃炉を請願したので、周辺の自治体も次々に呼応して、強力な廃炉包囲網を形成しつつある。さらに福島県の佐藤雄平知事までもが、福島県内の原発の全基廃炉を明言するところまできた。したがって日本の中心部の原発銀座では、圧倒的に廃炉への動きが明確になってきた。これらの県では、ストレステストの評価報告書が出されていない。  残る島根県と石川県と宮城県は、首長の態度が曖昧なままはっきりしないが、宮城県の村井嘉浩(よしひろ)知事は、フクシマ事故による県内の放射線測定をやめさせ、住民の大量被曝と、食品の高濃度放射能汚染を隠し続けている人物なので、まったく信用できないが、女川原発は東日本大震災で致命的なダメージを受けたので、運転再開は不可能であろう。 ◆「正しい知識」が状況変える力◆  例外的にストレステストが進んでいる福井県の場合は、西川一誠知事とそのブレーンが新たな安全基準がない段階での運転再開を認めていないにもかかわらず、敦賀市の河瀬一治市長が、玄海町長と並ぶ金権亡者として悪名高い。そして西川知事に対しても、関西電力と、敦賀原発を操業する日本原子力発電が「再稼働を求めて」、年明けから猛烈な働きかけを強めてきた。こうして見ると、そもそも、ストレステストをすれば原発の安全性が保証されるかどうか以前の問題として、官僚と電力会社は、動かしやすい地元の首長を選んだ上で、順次このような安全評価をスタートした感触が強い。つまり経産省が高橋はるみ知事を抱き込んで、昨年8月17日に、北海道泊原発が狂気の営業運転に入ったパターンの再現を狙っているのである。  昨年末に畑村洋太郎率いる政府の事故調査・検証委員会が出した「福島原発事故に関する中間報告」は、まったく地震の揺れの問題にふれず、事故原因はすべて津波によるものとしてしまい、どうしようもない無内容の報告だ。それは、この委員会の人選もまた、官僚差配の人事によって決められてきたからである。さらにその無能委員たちを取り巻く顧問役が、関村直人をはじめ、みなフクシマ事故後にテレビでデタラメ解説をし続けた原子力工学の専門家と称する集団で、彼らもまた、原子力産業からの寄付金にたかってきた。  危険性をマスコミが報道しなくなったために、国民が事故の恐怖を忘れつつあるが、こうした絶望的な状況を変える唯一の力は、われわれ国民が「正しい知識」を持って、強烈な再稼働反対の声をあげることにある。そもそも昨年まで稼働中とされた54基のうち、太平洋岸にあった東通原発、女川原発、福島第一・第二原発、東海第二原発の15基が東日本大震災で一挙に全滅し、その前に新潟県の柏崎刈羽原発の3基が2007年の中越沖地震で運転不能になっていた。ちょうど3分の1の18基が、地震の直撃で運転不能になったのである。要するに原発は、強い地震の直撃を受ければすべてだめになることが実証されたのだ。そうした原発のトテツモナイ危険性を、再稼働を迫られている地域から順に、次号からくわしく解説しよう。  (構成 堀井正明)    * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾――大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)など著書多数 週刊朝日
広瀬隆 「原発全廃へ決戦、2012運命の年」
広瀬隆 「原発全廃へ決戦、2012運命の年」  福島原発事故で、悲惨な大被曝・汚染国家となった日本で、電力会社が正気を失って暴走しようとするのを、全国の住民運動・市民運動が食い止めた2011年が過ぎ去り、いよいよ最後の決戦の幕が開いた。  今年2012年の正月を迎えた時点で、運転中の原発は、54基中のわずか6基となっている。出力で見れば、およそ5000万キロワットのうち、たった562万キロワットしか発電せず、実際の能力は11・5%にまで落ち込んだ。さらに残る6基が定期検査によって運転を停止する予定は、左ページのグラフのように、1月に四国電力・伊方2号、中国電力・島根2号、東京電力・柏崎刈羽5号、2月に関西電力・高浜3号、3月に柏崎刈羽6号、4月に北海道電力・泊3号とされている。  原発をすべて今年限りで廃炉にできるか、それとも日本という国家が滅亡への道に再び突進するか、日本人はその分かれ道に立っているのである。この全基廃止の運命の年は、この機を失えば今後二度と訪れないほどの重大な節目である。  本誌で連載してきた通り、昨年3月の福島原発事故発生以来、その最大の意味は、次の原発事故「第二のフクシマ」が、目前に迫っていることにある。なぜなら、第一に、東日本大震災の津波大災害をもたらした昨年3月11日のプレート境界型の大地震によって、東北地方が太平洋側・海底側に引っ張られ、日本列島が大きくひん曲がってしまったからである。この巨大な歪みは、自然界の地殻が元に戻ろうとする調整運動を続けているため、昨年末までずっと余震を引き起こしてきたが、これから大型の余震がまだまだ起こり得る。それが証拠に、東日本大震災後の日本全土で、東日本だけに限らず、西日本でも広島や熊本に至るまで、断層運動の活発化が著しくなって、人びとを震えあがらせている。余震といっても、阪神・淡路大震災クラスの大地震になる可能性が高いのだ。  さらに、ここ数年、地球規模でますます活発になっている太平洋プレートの運動が引き続いたままで、それがまったくおさまっていないので、余震とは別に、新たな大地震がどこで、いつ起こるか分らない。この余震と、新たな大地震の脅威は、今後少なくとも30年は続くのだ。  そして、昨年の恐怖のフクシマからようやく真剣にスタートを切った過去の歴史的な津波の調査がおこなわれるにつれて、日本中に大型津波の記録のあったことが報告されるようになってきた。四国電力の愛媛県・伊方原発では、豊後水道周辺で2009年~2010年にかけてスロースリップ現象による地殻変動が顕著となって、かなり危険な兆候だと見られているが、四国電力は「瀬戸内海には津波が来ない」とタカをくくっているのだ。1596年(慶長元年)9月1日(一説には4日)、大分県別府湾でマグニチュード7級の海底地震が発生し、津波が押し寄せ、瓜生(うりゅう)島が一夜で水没したことが判明した。その4日後の9月5日には京都の伏見でマグニチュード8近い大地震が起こり、伏見城の天守閣が崩落した。その結果、愛媛県西条市の幸の木遺跡では、12世紀以降の液状化跡が発見されており、別府湾と、四国の中央構造線と、伏見の断層が400キロにわたってほぼ同時に動いた可能性が出てきたのである。瀬戸内海には津波が来ないなどと、誰が言えるのか! 内海の津波来襲は、最もおそろしい結果を招く。もし中央構造線が動けば、瀬戸内海に巨大津波が発生することは間違いない。日本中の電力会社が、実はみな、ほぼ同じレベルの無策状態にあることが、フクシマ後に明らかになっている。  そして第二の問題は、もし西日本の原発が、たとえば佐賀県の玄海原発、鹿児島県の川内(せんだい)原発、愛媛県の伊方原発、いずれかが「第二のフクシマ」となれば、台風の通過コースによって日本人の誰もが知る通り、放射能の雲は、一気に東上して日本列島をなめつくすことにある。すでに深刻化している食品の放射能汚染が、救いようのない地獄に突き落とされることは見えている。  あるいはまた、日本海側の原発が、たとえば島根原発か、能登半島の志賀原発か、福井県若狭の14基の原発群か、新潟県の柏崎刈羽原発7基、いずれか1基が「第二のフクシマ」となれば、日本海が一挙に汚染し、その放射能は永久に滞留して、魚介類は全滅するのだ。柏崎刈羽原発の場合は、コシヒカリの米どころ、酒どころだから、食料問題は一層深刻になる。 ◆浜岡原発事故で7千万人が避難◆  言うまでもなく、静岡県の浜岡原発が「第二のフクシマ」となれば、一夜にして名古屋の中部経済圏ばかりか、首都圏と関西経済圏が、同時に全滅する。それは7000万人の民族大移動というあり得ない地獄図になる。路頭に迷う大都会人たちの阿鼻叫喚を想像すれば、凄惨きわまりない人類史上最悪の原発震災になることが分っている。  北海道の泊原発が「第二のフクシマ」となれば、日本中に食べ物を供給している食料自給率210%を誇る広大な土地で起こる大悲劇だ。酪農王国、魚介類の宝庫、昆布の95%を生産する海藻類の宝庫、それらすべてが崩壊して、日本全土が食料難に襲われるのだ。  さらに第三の問題は、原子力発電所が、「地震の揺れ」にまったく無防備な機械装置であることが、フクシマ事故によって実証されたことにある。東日本大震災では、津波が到来する前に、すでに配管破損が起こって、原子炉内の熱水が噴出し、それが大事故を招いた第一歩だった可能性が濃厚である。その事実をサイエンスライターの田中三彦氏、もと格納容器の設計者だった渡辺敦雄氏、後藤政志氏に指摘され、ついにあの原子力安全・保安院が認めたのが、昨年末であった。これは、まさに、日本中の原発すべてに共通する最大の恐怖である。その対策など、100%あり得ない。  加えてフクシマでは、人間の本質的欠陥が明確になった。原発のコントロール・ルームに働く運転員たちは、結局は大事故が発生してみれば何もできなかったのである。運転員たちは、大事故を想定して訓練を受けていたが、実際にそれが起こってみれば、気が動転して思考力を失い、何をしてよいかまったく分らなくなった。こんなことは、運転員が人間であれば当り前のことだ。複雑怪奇なメカニズムを内包した原子炉の安全装置は、決して自動的にあらゆる問題を解決するようには設計されていない。つまり、ある一定の事故を想定しているだけで、それは、現実に起こり得る出来事の100分の1もカバーしていないのだ。大地震の揺れに襲われたパニック状態のオペレーターたちに、その想定もされていないすべての緊急事態に、万全に対処せよというのは、不可能な要求である。  こうなったら原発の全基廃止という条件は、日本人の生き残りにとって、絶対に引けない国民の要求である。冥土の土産に、電力会社を血祭りにあげてくれよう。      * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』)(朝日新聞出版など著書多数   【動画配信】公式サイト「週刊朝日・談」で、2011年12月23日にインターネットで生中継した広瀬隆氏のインタビュー「福島原発事故『収束宣言』大嘘の皮を剥ぐ」の動画が、無料でご覧になれます。 週刊朝日
広瀬隆「東電が責任放棄、追認する国の狂気」
広瀬隆「東電が責任放棄、追認する国の狂気」  前号で、福島県内のゴルフ場が放射能汚染されたので、東京電力に除染を求めた裁判で、ゴルフ場側の訴えが却下されたことについて述べたが、東電によれば、原発事故を起こして大気中と海水中に放出された放射性物質は、所有者が存在しない「無主物」という定義だ。これほど不条理な理屈を、なぜ東電は持ち出したのか? ならば、松本サリン事件、地下鉄サリン事件で、オウム真理教がばらまいたサリンも、無主物ではないか。なぜ、オウム真理教の実行犯たちは、死刑判決を受けたのか? 同じように放射性物質を日本全土にばらまいた東電は、業務上の過失ではなく、事故が起こり得る可能性を充分に知りながら大事故を起こし、司法界で「未必の故意」と定義される重大犯罪者なのである。正気とは思えない東電と、彼らの除染の責任を認めない裁判官の頭の中を、理解できる人がいるだろうか。ゴルフ場側は、決定を不服として東京高裁に即時抗告したが、ここまで日本という国家全体が狂ってしまった。  このように、被害を起こして平然としていられる社員が集まった企業が、東電という会社だったのである。そのような人非人の集団が、この世で最も危険な原子力発電所を運転しているのだ。会長・社長ばかりか、全社員に人間の血が通っていないからこそ、このような事件があっても、社内で誰も異論を唱えない。原発事故を起こせば、電力会社は今後考えを改めるだろうと読んできたわれわれは、甘かった。どうやら東電は、水俣病を引き起こしたチッソをはるかにしのぐ、度を越した極悪人の巣窟であることがはっきりしてきた。  放射能の汚泥・汚染土壌・汚染瓦礫(がれき)・焼却灰は、人体にきわめて有害なのである。日本全土に降り積もった放射能の汚染物を、すべて東電本社の社屋に投げこむぐらいの行動を起こす必要があるのではないか。そして、投げこんだあと、「それは無主物だ」と、怒鳴りつけてやらなければ気がすまない。  そもそも、事は、こうして始まったのだ。6月16日、全国各地の上下水処理施設で汚泥から放射性物質が検出されて深刻になってきたため、政府の原子力災害対策本部は、放射性セシウムの濃度が1キログラムあたり(以下すべて同じ単位で示す)8000ベクレル以下であれば、跡地を住宅に利用しない場合に限って汚泥を埋め立てることができるなどの方針を公表し、福島など13都県と8政令市に通知した。また、8000ベクレルを超え、10万ベクレル以下は濃度に応じて住宅地から距離を取れば、通常の汚泥を埋め立て処分する管理型処分場の敷地に仮置きができるとした。  さらに6月23日の環境省の決定により、放射性セシウム濃度(セシウム134と137の合計値)が8000ベクレル以下の焼却灰は、「一般廃棄物」扱いで管理型処分場での埋め立て処分をしてよいことになった。さらに環境省は、低レベル放射性廃棄物の埋設処分基準を緩和して、8000ベクレル以下を10万ベクレル以下に引き上げてしまい、放射線を遮蔽できる施設での保管を認めてしまった。  おいおい待てよ。原子力プラントから発生する廃棄物の場合は、放射性セシウムについては100ベクレルを超えれば、厳重な管理をするべき「放射性廃棄物」になるのだぞ。環境省は、なぜその80倍もの超危険物を、一般ゴミと同じように埋め立て可能とするのか。なぜ汚染した汚泥を低レベル放射性廃棄物扱いとして、ドラム缶に入れて保管しないのか。この発生地は、無主物どころか、福島第一原発なのだから、その敷地に戻すほかに、方法はないだろう。これが「廃棄物の発生者責任」という産業界の常識だ。  さらに環境省は、放射性物質の濃度が適切に管理されていれば、再生利用が可能であるとして、一般の市場に放射性廃棄物を放出するというトンデモナイおそろしい道を拓(ひら)いた。環境省のガイドラインに従えば、リサイクル製品にはフライパンも入ってくる。えっ、放射性廃棄物が、いよいよフライパンに化けるのか。  6月半ば、汚泥は関東地方全域で深刻な量に達し、数万ベクレルの汚泥があと数日で置き場がなくなるという危機になった。すると6月24日、農林水産省は「放射性セシウムが200ベクレル以下ならば、この汚泥を乾燥汚泥や汚泥発酵肥料等の原料として販売してよい」というトンデモナイ決定を下した。対象となる地域は、汚泥から放射性セシウムが検出された以下16の都県――岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、長野県、山梨県、静岡県、新潟県――であった。えっ、放射性廃棄物が、いよいよ発酵肥料に化けるのか。 ◆レンガに化ける放射性廃棄物◆  11月2日には、千葉県市原市にある廃棄物処理業者「市原エコセメント」が、9月15日と10月11日に排水を測定した結果、1000ベクレル以上の放射性セシウムを検出していたことを千葉県が発表した。原子力安全委員会が6月に示した基準値の14~15倍に相当するこの高濃度放射性排水が基準値を超えていると知りながら、同社は、1ヶ月以上にわたって計1万3200トンを東京湾に排水してきたが、この日、県の要請を受けて操業を停止した。市原エコセメントは、県内34市町村から受け入れたゴミの焼却灰などを原材料にセメントを製造してきた。えっ、放射性廃棄物が、新築マンションやビル建設用のセメントに化けてきたのか。  さらに東電子会社の東京臨海リサイクルパワーが、3年間で52万トンの瓦礫を宮城県と岩手県から受け入れる計画だが、可燃ゴミを600℃で焼却し、焼却灰を1450℃で再溶融して固化する。不燃ゴミは破砕処理して、いずれも中央防波堤内に埋め立てる。残留スラグは、8000ベクレル以下であれば、レンガの下地材として転用される。えっ、放射性廃棄物が、レンガに化けるのか。  問題は、こうした焼却によって、放射能が大気中に振りまかれることにある。一般ゴミの焼却は、低温で焼却するとダイオキシンが出るので、800℃以上の高温で燃焼するように義務付けられているが、震災瓦礫を焼却すると、そこに含まれている放射性セシウムは、沸点が800℃よりずっと低い671℃なので、ガスとなって大気中に拡散するからである。さらに焼却灰では、放射能が高濃度に濃縮されるから、到底、一般廃棄物として扱うことなどできない。  こんなおそろしいことを、いつから日本の国民は認めるようになったのか。環境省、厚生労働省、文部科学省、農林水産省の大臣と官僚たちがやっていることは、もう、メチャクチャである。国民がこのような不始末を認めれば、日本列島には放射性廃棄物と呼ばれない放射性物質が散乱して、その自然界で採取される食品の放射能汚染はますます長期化して、深刻になる。      * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾――大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)など著書多数      ◇ 【動画配信】週刊朝日・談で、2011年12月23日にインターネットで生中継した広瀬隆氏のインタビュー「福島原発事故『収束宣言』大嘘の皮を剥ぐ」の動画が、無料でご覧になれます。 週刊朝日
広瀬隆「除染後も続く汚染、今からでも避難を」
広瀬隆「除染後も続く汚染、今からでも避難を」  前号に続いて、福島県の危険な状態について、述べることにする。さまざまな報道が伝えるように、福島県内で放射能の除染をおこなって、やがて県民が自宅に戻れるかのようなトーンでニュースが日々流れている。しかし、除染すると言っても、福島県内で超危険な汚染地帯2000平方キロメートルのうち、森林面積が6~7割を占めている。こうした森林の事情をくわしく知る福島県内の人は、「森林での放射能除染なんか、絶対にできない。除染すればいつかは帰宅できるかのような幻想を、福島県民に与えるべきではない」と、私に断言している。  つまり森林では、秋からの落ち葉のセシウム汚染が深刻になり始めており、これが今後ますます深刻な問題となる。この問題は、雪解けが始まる来春に、さらに新たな水質汚染となって再発すると考えられているからである。  福島第一原発(フクイチ)から放出され、内陸に流れた放射能の多くは、風に乗って山にぶつかり、太平洋側に落下した。そこが分水嶺である。山岳地帯に始まる水源地の水がやられれば、河川によって上流から下流にセシウムが流れるので、救いようがない。人体が、ほとんど水でできていることを考えれば、上水道の汚染が決定的な意味を持っている。福島県民がカウンターを使って、土壌から出る放射線の空間線量を測っただけで、生活できるかどうかの可否を判断することは、危険である。除染しても、すぐに汚染が再発する。  福島県内の都市部の場合は、人間が日々生活する住宅地の除染となれば、屋根、壁、雨樋(あまどい)から庭まで、相当な神経を使って、細部まで放射能をはぎ取らなければならないが、コンクリート面にはセシウムが強くこびりついているので、さらに困難をきわめる。現在もフクイチの事故現場からは大量の放射能が大気中に放出されているが、東北地方特有の風は太平洋側から吹くヤマセである。これが吹き出すと、内陸に向かってさらに広大な範囲に汚染が広がるおそれがある。除染しても除染しても、山からも、海側からも、また放射能が襲ってくるのでは、果てしない戦いになり、問題は、そのあいだ住民がずっと被曝し続けることにある。  こうして、除染不可能な広大な面積、除染不可能な森林と住宅地、表土栄養分の除去による耕作地の死、背後から迫る水質汚染の深刻さ、さらにそこから発生する膨大な量の汚染物の処分場がないことを知れば、除染とは、まさしく幻想そのものである。  加えて、福島の幼い子供たちや青少年たちが、そこで生活する日々があってこその、"郷里・福島"であろう。行政が、体内被曝の危険性を踏みにじるおそるべき"放射線専門家"を雇って「健康調査」を続け、県民をモルモット状態にしばりつけて被曝疫学統計をとる。そうした人間とも呼べない人間のもとで、その若い世代がまともに生きられるかどうかを真剣に考えるなら、福島県民の命を守るためには、除染より先に、一日も早く避難する方策を計画し、将来の家庭生活を、急いで、具体的に考えてほしいと願う。  それは、決してあり得ないことではない。日本における農耕地の減少面積は、過去40年間で、ちょうど福島県の面積に匹敵するほどであった。日本列島が山また山の地形であることを考えれば、農耕可能なこの失われた土地の面積は、農業にとって、とてつもなく大きい。そして今も、耕作放棄地がさらに増え続けている。言い換えれば、全国には、福島の農民を受け入れる休耕田と耕作放棄地が広がっている。福島県の労働力が巨大な農地に投入されれば、農業後継者不足と食料自給率の低下に悩む日本で、一挙に両者の問題が解決に向かうはずである。北海道に行った時には、農業関係者から、「放射能で苦しんでいる福島県の農家がこちらに来てくれれば、お互いに助かるのに」という言葉を聞かされた。そして私が、「そうだ、あなたたち北海道民は、明治時代に入って屯田兵などで、みな本土から移住した人の子孫でしたね。今から、福島県民が新天地をめざすことを希望的に考えることはできますね」という会話を交した。 ◆日本海側にも放射能汚染拡大◆  勿論(もちろん)これは県外から考える理想論であり、福島県民がかなりの決断を下して、動かなければ事は一歩も進まない。ひと言、福島に対する思いを述べさせていただきたい。私は、個人的な好みで言えば、かねてから会津地方は特に好きで、鶴ケ城を訪ね、磐梯山に登り、五色沼を歩き、猪苗代湖畔の郷土史料館を訪ね、ここから越後や庄内への鉄路・山道を何度も往還した。一方、原発の建ち並ぶ浜通りには、どうも好感が持てなかった。しかしある日、県内での選挙運動の応援に駆り出され、福島県全域を自動車で回るうち、自分の目を疑った。山奥にたたずむ家並みを見て、福島県は何と豊かな土地だろうと初めて思ったのが、その時であった。明治時代、原野に農業用水や飲用水を供給するため、安積疏水(あさかそすい)を拓(ひら)いた人たちの苦難の歴史を想って、その史跡を求め、郡山駅前から歩いて調査をしたのは、数年前であった。また、福島で有機農法・自然農法に命を捧げてきた人たちと共に活動してきた。原発の学習会のあとは、桜を見るために三春までそっと足を伸ばした。  思い返すだに、その郷里を汚された福島県民は、一体、どれほど秋風落寞(しゅうふうらくばく)、無念切歯の境地にあるだろうと想像すると、いたたまれない心境になる。私としては、医学的な見地から、あの人たちの体を守りたいだけである。願うことなら、自我に目覚めて新天地をめざしてほしい、と。  一方、日本全土に降り積もった放射能の汚泥・汚染土壌・汚染瓦礫(がれき)・焼却灰は、さらにまた広大な範囲に、深刻な問題を広げている。この汚染物の拡大は、太平洋側だけの問題ではなくなっている。山形市では、6月下旬になって、ついに汚泥から高い数値の放射性物質が検出され、処理不能に追いこまれた。放射能の雲が山を越えたのか、分水嶺を抜けて河川から汚染が広がったのか。多くの福島県民が避難し、比較的安全だと思われた日本海側にも汚染が広がっているのである。  これら汚染物のすべての責任は、これを放出した東電にある。ところが、耳を疑う怪事件が起こった。8月に、フクイチからほぼ45キロ離れた福島県二本松市のサンフィールド二本松ゴルフ倶楽部など2社が、東電に除染を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。福島原発事故によって、ゴルフコースで高い放射線量を検出するようになり、商売にならなくなったのだから、当然の除染請求であった。ところが東電は、「原発から飛び散った放射性物質は、東電の所有物ではない。したがって、東電は除染に責任を持たない」と主張し、放射性物質の所有権は、それが降り積もったゴルフ場にあると反論したのだ。そしてこの東電のトンデモナイ要求通り、10月31日に、福島政幸裁判長のもとでゴルフ場側の訴えが却下されるという、あってはならない前代未聞の裁判結果となった。(次号に続く)    * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾――大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)、本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)など著書多数 週刊朝日
広瀬隆「六ヶ所再処理工場、即時閉鎖を急げ」
広瀬隆「六ヶ所再処理工場、即時閉鎖を急げ」  日本人が生き残るために、何を第一になすべきか。  われわれが、すぐに手をつけて解決しなければならないことは、何よりも、次の放射能事故による日本の絶望的な破滅を食い止めるための、「六ヶ所再処理工場の即時閉鎖」である。そして、高速増殖炉もんじゅの後始末を含めた「全土の原発の廃炉断行」である。  これまで、再処理工場に対する批判の中心は、再処理によってプルトニウムを抽出する「核燃料サイクル」が意味もない、という資源論や経済論などにあったが、そのように悠長な話ではない。この再処理工場で大事故が起これば、日本が終るという話なのだ。  青森県下北半島のつけ根にある六ヶ所再処理工場は、原爆材料となるプルトニウムを生産する化学工場である。原子力プラントの一つではあっても、爆発しやすい液体を大量に使って、きわめてデリケートな化学処理をしながら、溶解した成分を、「高レベル放射性廃液」と「プルトニウム」と「ウラン」に分離する化学プラントである。ちょっとしたミスによって、たとえ地震が襲わなくとも、大爆発するおそろしい工場なのだ。  この再処理工場には、日本全土の原子力発電所から、最も危険な使用済み核燃料と呼ばれる放射能のかたまり、「高レベル放射性廃棄物(死の灰)」が集められてきた。この放射性廃棄物こそ、現在、日本全土に飛び散って、食品に侵入し、汚泥や瓦礫(がれき)となって、われわれの生活を脅かしている放射性物質のかたまりである。  その再処理工場が、つい3年ほど前、2008年末に再処理が不能になるという異常事態になって、工場内の巨大な3000トンプールが、死の灰でほぼ満杯、2827トンに達している。ここで、われわれに恐怖を与えるのは、運転を停止していた福島第一原発4号機で3月15日に、使用済み核燃料1331体と、新燃料204体、合計1535体が貯蔵されていた燃料プールが、電源喪失のため過熱して水素爆発を起こしたことである。それに対して、六ヶ所再処理工場にある使用済み核燃料は、1998年以来、2011年まで13年間にわたって全国の54基の原発から集めたとてつもない量の放射能である。4号機のほぼ10倍なのだ。  ところが東京電力は、11月10日になって、この4号機の爆発を招いた原因は、排気筒を共有する3号機から流れこんだ水素によるものだと断定し、「4号機のプールから発生した水素による爆発説」を否定する見解を打ち出した。だがその根拠は、床の変形と排気筒配管の残骸だけであり、相変らず東電らしい、まったくいい加減な珍説だ。  むしろその結論は、理論的にまったく信じがたい。というのは、4号機爆発の翌日、3月16日に撮影された3号機の写真によれば、4号機との共通排気筒につながる巨大な配管は宙ぶらりんとなって、3月14日に3号機が爆発したあとに爆風で吹き飛んで完全に外れているのだ。3号機が「先に」爆発したのだから、共通排気筒につながる配管は、外気に対して抜けている。したがってそのあとに4号機にどんどん高濃度の水素が滞留する可能性はきわめて低い。秘密主義の東京電力が図面を公開しないので、地下にも、われわれには知り得ない共通排気筒につながる配管がある可能性はあるが、3号機が爆発して全体が外気に通じて抜けたあとに、軽いガスの水素が、地下に向かって流れる可能性もまたきわめて小さいので、そのような水素の流入や、とりわけ滞留はほとんど起こり得ない。  実は、プール起源水素の爆発説を否定した11月10日は、東京電力が福島第一原発の敷地内に報道陣を入れて、初めて公開する2日前である。その見学コースには、この重要な配管破損部分が含まれていない。この問題を真剣に追及してきた記者であれば要求したはずの写真撮影自体も規制されていた。これこそ、マスメディアを欺くための公開だったのだと見てよい。  東京電力が隠そうとし、絶対に知られたくないのは、六ヶ所再処理工場の危険性である。この使用済み核燃料とは別に、240立方メートルという大量の高レベル放射性廃液が、六ヶ所タンクに貯蔵されている。この廃液は、全国に降り積もった放射性物質とは、危険性のレベルがまったく違う。液体であるため、絶えず冷却し続けなければならない超危険な物体であるため、もし冷却用のパイプが地震で破断したり、津波による停電が起こったりすれば、たちまち沸騰して爆発する大事故となる。そのほんの一部が漏れただけで、北海道から東北地方の全域が廃墟になるほどの大惨事になることが分っている。なぜこのように不安定で危険な液体がタンクに保管されているかといえば、再処理工場を運転する日本原燃が、この液体をガラスと混ぜて固体にし、安全に保管する計画だったが、そのガラス固化に完全に失敗したため、再処理が行き詰まってまったく操業不能に陥り、仕方なくそうなっているのである。 ◆本震と余震で危機一髪の事態◆  こうした大事故の可能性については、すでに1957年にソ連で高レベル放射性廃液の入った液体廃棄物貯蔵タンクが爆発を起こした「ウラルの核惨事」と呼ばれる大事故、1980年にフランスのラ・アーグ再処理工場で起こった電源喪失事故(この時は、緊急発電装置をトラックで運び込んで、ぎりぎりのところで廃液の爆発を食い止めた)など枚挙に遑(いとま)がない。原子力安全基盤機構(JNES)の報告書によれば、海外で発生したこのような恐怖の再処理工場重大事故は、2007年までに「臨界事故(核暴走)」が18件(ロシア11、アメリカ6、イギリス1)、「火災事故」が45件(アメリカ15、フランス14、イギリス8、ドイツ6、ロシア1、ベルギー1)、「爆発事故」が32件(アメリカ20、フランス4、イギリス2、ロシア6)にも達しているのだ。  3月11日の東日本大震災では、東北地方全域が津波と地震の脅威にさらされたが、六ヶ所再処理工場でも、当日、外部電源が失われていたのである。この時は、非常用電源を立ち上げて、かろうじて大事故を免れた。さらに当日21時12分、再処理工場の予備用ディーゼル発電機への重油供給配管から、重油が約10リットル漏洩した。これに引火していれば救いようのない大惨事となっていたであろう。外部電源の供給が再開されたのは、地震発生から2日以上もあと、ようやく3月13日22時22分であった。  さらに本震からほぼ1ヶ月後の4月7日には、現在までで東日本大震災最大の余震が起こり、岩手、青森、山形、秋田の4県が全域停電になった。実はこの時、六ヶ所再処理工場でも、再び外部電源が遮断されて停電となり、非常用電源でかろうじて核燃料貯蔵プールや高レベル放射性廃液の冷却を続けることができた。まさに危機一髪の恐怖の事態が、立て続けに起こってきたのである。  日本人は、ノンビリしすぎていないか。報道界は、日本人生き残りの可能性について、急いで国民規模の議論を始めなければならない。何をしているんだ! (構成 本誌・堀井正明)    * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)など著書多数。本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)が8月30日に緊急出版された 週刊朝日
広瀬隆×田中三彦「東電はごまかしている!」
広瀬隆×田中三彦「東電はごまかしている!」 広瀬 今回のように長時間、地震の揺れに襲われて起こった原発事故では、配管破断をまず疑うべきなのに、東京電力は津波による電源喪失が原因と結論づけた。そんな中で田中さんは事故直後から、津波の前に地震で配管が壊れた可能性を指摘していました。 田中 東電のデータを解析すると、配管破断の可能性が排除できない。最初に水素爆発を起こした1号機の圧力容器は、水位が急激に低下し、圧力も落ちた(運転時は70気圧が約8気圧に)。また、圧力容器の外側にある格納容器の圧力は設計上の限界値の2倍近くまで上がった。いずれも地震で圧力容器につながる配管のどこかが破損して、そのために起こった現象と考えられる。いや、配管だけでなく、いわゆるマーク1型格納容器のドーナツの形をした「圧力抑制室」もやられていると見ています。 広瀬 福島第一原発4号機の圧力容器を設計した田中さんは、内部を知り尽くしているわけですからね。 田中 圧力容器につながっている「再循環系配管」は何十トンという重いポンプを抱え込んでいるため、激しい地震に持ちこたえられるかどうか、裁判などでいつも問題になっています。原発メーカーの技術者ならだれでも、たとえばそういう部分の配管破断を疑うはずですが、政府が6月にIAEA(国際原子力機関)に出した報告書ではそういう議論は一切されていない。そこがおかしいと思う。 ◆なぜICを手動で止めた?◆ 広瀬 そう。報告書で地震の影響は、外部電源喪失、つまり送電線の鉄塔が地震で倒れて外部から電気がこなくなったことだけに限定している。あとはもう、津波、津波、津波と、津波で内部電源が失われたことだけを挙げて、対策も外部電源の確保と津波のみに言及している。これは地震で原発が壊れたことを隠す、デタラメな報告書ですよ。 田中 今回の事故原因は当面、白黒決着がつけられません。なぜかというと、格納容器内部の配管を直接調べることができないからです。放射能レベルが高いので内部に入れるようになるまでに、十数年はかかるでしょう。ロボットを入れても、巨大な格納容器内には配管が何本も通っていて、しかも保温材や金属カバーで覆われているので、直接配管は見えない。事故を分析するときは、起こりうることを、すべて考える必要があります。当然、地震の影響を算定して、正しく評価しなければいけない。 広瀬 だからこそ、田中さんの検証には意味がある。 田中 とくに1号機は地震で配管が破壊されたと考える方が合理的です。1号機は、非常用復水器(IC)と接続している再循環系配管が破断した可能性がある。ICは電源が失われたとき、原子炉(圧力容器)で発生する蒸気を冷やして水に変えて原子炉の圧力を下げ、つぎにその水を再循環系配管経由で炉心に戻して、原子炉を冷却する装置です。 広瀬 1号機では地震直後にICが自動起動した。 田中 ええ、地震発生直後に制御棒が入って原子炉が自動停止。その6分後にICが動き始めています。3月11日午後2時52分です。ところが午後3時3分、わずか11分動かしただけで運転員がICを手動で止めてしまった。最悪の事態に最も頼りになるシステムを止めるとは、命綱を自ら切るようなもの。 広瀬 止めた理由は? 田中 東電は「原子炉の温度低下が1時間当たり55度を超えない」という手順書に従った、と説明している。マニュアル通りだった、と。しかし、それは通常運転時の手順で、急激な温度変化で圧力容器に負担を与えないようにしたもの。こんな非常事態、原子炉の温度を下げることが最も優先される場面で、あまりにも不自然です。実際、ICを止めた1分後には、別の緊急冷却システムである「格納容器スプレー系」を起動し、1秒間に200トンの水を格納容器内に噴霧している。 広瀬 嘘(うそ)の説明をしているとしか思えない。 田中 ICを止めたのは別の理由でしょう。圧力容器内の圧力があまりにも急激に下がったので、IC系配管のどこかが破断したと運転員が判断して、手動で止めたのでは、と考えています。その裏付けとして、東電に手順書の公開を求めていたんですが、出てきたのが例のほとんど黒塗りの手順書です。 広瀬 衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会が、東電から提出を受けたと公表した、問題の報告書ですね。あれは、腹が立ってしょうがなかった。放射能汚染を起こした東電がバカなことを言うな、国民を愚弄(ぐろう)するにもほどがある。 田中 枝野幸男経済産業大臣もさすがに問題視して、公開される見込みです。 広瀬 10月21日になって東電はICを目視して、配管などに損傷はなかったと発表しました。これは明らかに「田中説」を牽制(けんせい)するものですね。 田中 あることを隠すために特定のデータを出さない、打ち消す発表をするといったことが、間違いなくある。 広瀬 7月27日に国会の非公開のヒアリングが行われて、田中さんも出席していましたね。議事録を手に入れたのですが、地震で破壊された可能性を指摘する田中さんの質問に、東電も原子力安全・保安院も、まったく答えられない。やり取りの中で、肝心なところはぜんぶ隠して、僕から見れば明らかに嘘と分かることも言っている。彼らが嘘をつかなければならない理由は、はっきりしている。田中さんの説を認めると、すべての原発が危ないことの実証になるから。それが明らかになれば、阪神大震災を受けて06年に改められた耐震設計審査指針を、根本から見直さなければならない。事実上、原発は再稼働できなくなる。 田中 07年の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が大きな被害を受けた時点で、新しい指針では十分ではないことは明らかだった。 広瀬 3月11日の地震で福島第一原発の揺れは、500ガル(ガルは加速度の単位)前後。ところがここ数年、2千ガルを超える地震が相次いでいる。03年宮城県北部地震、04年新潟県中越地震、07年新潟県中越沖地震はいずれも2千ガルを超えた。08年の岩手・宮城内陸地震では4千ガルを超えて、山が一つなくなってしまった。 田中 あの地震は4千ガルもあったんですか。 広瀬 重力加速度の980ガルを超える上下動を長時間受けると、モノは浮いてしまう。それが軒並み2千ガルですから、そんな地震の直撃を受けたら原発は耐えられるはずがない。 田中 僕が原発の設計にかかわっていた1970年代のはじめは、今から考えると地震対策はいい加減なものでした。記録が残っている二つの海外の地震を参考にして、たしか250ガルぐらいで耐震設計をしていた。それが1978年に耐震設計審査指針ができて、見直していくわけです。 広瀬 指針の見直しのたびに耐震補強をして原発を動かしてきた。「ハリボテ人形を鉄枠で囲ったから壊れない」と言っているのと同じことです。阪神大震災以降、日本は明らかに地震の活動期に入り、2~3年おきに2千ガルを超える地震が起きている。 田中 原発は非常に精密に設計をしているような誤解を与えているけれど、複雑な形の構造物なので、地震の揺れから配管の強度まで、それぞれの専門家が様々な仮定を重ねて、このくらいならという線で造るから、いろんな誤差が入り込む可能性がある。僕が福島原発事故の原因として考えているのは、地震の揺れの回数の多さです。 広瀬 回数ですか? ◆バカげているストレステスト◆ 田中 針金を何度も折り曲げると、そのうち切れてしまいますね。地震の揺れが10秒とか20秒、回数にして数十回ほどの繰り返しだったら、配管破断は起こらなかったかもしれない。だけど今回は3分近く大きく揺れて、激しい余震も続いた。こういう揺れは設計時に考えていない。特に1960年代半ばに建築された1号機。当時の品質管理レベルは低くて溶接技術も良くない。そういう悪条件が重なって、配管などが壊れた可能性がある。 広瀬 だから、国としては地震で配管がこんなに簡単にやられてしまうことがはっきりしたら、今までの耐震設計審査指針は何なのか、という問題に戻ってくる。ところが地震で壊れたことを隠し続ける国は、ストレステストなるものを行って、原発の再稼働にお墨付きを与えようとしている。 田中 ストレステストに実効性があるはずがない。日本にある54基の原発は合法的に「安全」ということで建てられているのに、ストレステストは「これで大丈夫か?」というチェックをするという。それは「法律に穴があるから、欠陥を探せ」というのと同じ。しかも、これをみんなメーカーに頼む。問題あり、という結果が出るわけがない。ストレステストは地震破壊に目隠しをして、「安全だから大丈夫」という結論を与えるセレモニーになる。 広瀬 バカげている。 田中 ストレステストなどと言う前に、福島第一原発の事故原因を、地震による配管破断も含めて検証するべきです。その一助となるべく、10月26日に衆議院第2議員会館で、東芝で格納容器を設計していた渡辺敦雄さん、後藤政志さんとともに、議員に対する勉強会を開きます。圧力抑制室の水が地震時にどう揺れるか、詳細なシミュレーションを公開します。記者も参加できるので、地震によって破壊された可能性があることを、報道で多くの人に伝えてもらいたい。 広瀬 10月26日に田中さんたちが、福島第一原発が地震でぶっ壊れた可能性を指摘して、電力会社が論理的に否定できなかったら、すべての原発は絶対運転するべきではない。これは天下分け目の決戦です。全国民は国会に設置する事故調査委員会のメンバーに、田中さんに入ってもらいたいと思っています。  (構成 本誌・堀井正明)      * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)など著書多数。本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)が8月30日に緊急出版された      * たなか・みつひこ サイエンスライター 1943年生まれ。東京工業大学生産機械工学科卒。68年に日立製作所の関連会社「バブコック日立」入社、原発の圧力容器などの設計に関わった。77年に退社後、サイエンスライターとして活躍。著書に『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、訳書に『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』など多数 週刊朝日
広瀬隆「東電の傲慢さを集団訴訟で裁く時」
広瀬隆「東電の傲慢さを集団訴訟で裁く時」  今月、弁護士の保田行雄(やすだゆくお)氏とお会いして、フクシマ事故を起こした東京電力が今日までまったく果たしていない賠償問題について、意見を交す機会があった。そして私が、「東電に対する日本人の怒りをどこかで集約して、巨大な集団訴訟を起こす必要がある。しかし誰もが日々忙しく、裁判にほとんど時間を割けないので、被害者が名前を伝えるだけで、それを受けて被害の補償を受けられるような一大裁判を起こしていただけないか」という難題をお願いした。  すると、多くの公害事件の被害者救済に尽力してきた保田弁護士は、東電の賠償に対する態度には、許せないものがあると、次のように説明してくれた。  フクシマ事故後の4月に、文部科学省研究開発局の原子力損害賠償対策室に、原子力損害賠償紛争審査会なるものが設置されて、賠償問題の解決に取り組み始めた。放射能の危険性を過小評価すると批判されている放射線医学総合研究所理事長の米倉義晴らが名を連ねる、この審査会が8月5日に賠償の中間指針報告書を出した。  そこに驚くべき文言が書かれていたのだ。 「本件事故に起因して実際に生じた被害の全てが、原子力損害として賠償の対象となるものではない」。えっ、一体なぜ被害すべてを賠償しないのだ! 「被害者の側においても、本件事故による損害を可能な限り回避し又は減少させる措置を執ることが期待されている。したがって、これが可能であったにもかかわらず、合理的な理由なく当該措置を怠った場合には、損害賠償が制限される場合があり得る点にも留意する必要がある」。なにい、被害者は、国からも東電からも、爆発事故発生以来ほとんど何も真相を知らされずに被曝し、逃げまどってきたのだぞ。被害者が損害を回避しなかった場合は自己責任だとは、一体どういうことだ。  このようにいい加減な審査会が、被害者の身を切るような苦しみを考えずにトンデモナイ中間指針を出したおかげで、東電はそれを受けて、賠償をいかに免れるかという悪知恵を働かせ、補償金の請求手順を書き記した分厚い書類を被害者に送りつけ、読者ご承知の通り、被害者の怒りが爆発する結果になっているのである。  保田弁護士が言うには、そもそも、自宅や農地を失い、友人・知人を失い、郷里を失い、職を失い、日々かろうじて生活を保ち、これからの生涯にわたる甚大な被害を受けた地元民をはじめとする被害者に対して、「加害者である東京電力」が、補償金の請求書類を送りつけ、「この書式に従って請求しろ」などと、請求の手順や項目を勝手に決めつけることが、法律的にはあり得ない非常識なことである。それをマスメディアが一度も批判していない。メディアが批判してきたのは、書類の分厚さや煩雑さだけで、そんなことは枝葉末節のことだ。  たとえば泥棒であれ殺人犯であれ、加害者側の責任者が、苦しむ被害者側に、自分の罪状に関する書類を送りつけ、それに従って被害請求をしろと求めることが世の中にあるか、と考えてみれば誰にも分るだろう。前代未聞の不条理が目の前で起こっているのだ。補償金の請求は、被害を受けた人間が怒りを持って、東電に対して、「これこれを補償しろ!」と求める筋合いのものである。その方法や項目を、東電が決定して被害者に通告するとは何ごとだ。そんな権利が、事故を起こした加害者の一体どこにあるのだ。図に乗るにもほどがある。  そしてもう一点、保田弁護士が指摘した重大事は、この東電の補償金の請求書類には、フクシマ事故で最大の問題である、「放射能によって被曝した被害」の項目がないことだ。いいか、東電、よく聞け。フクシマ事故の最大の加害行為は、金額に換算できないほどの深刻なその肉体的な被曝にあるのだ。その項目が入っていない請求書には、一片の意味もない。  とりあえず、汚染が深刻なフクシマ現地の難民たちは、当面必要な生活資金を得るために、東電に対してこの書類を使って被害請求を送りつけても結構だが、この東電の書類で請求する内容は、見舞金程度の「仮払い」にすぎないことは法律的に常識である。ところが東電の書類には、「請求は一回限り」であるとか、「これ以降、申し立てることはありません」といった文言が並べられていて、そこにハンをつけ、と威丈高な態度をとっているのである。何という人非人たちであるのか。ここまで加害者を増長させてきた人間たちは、誰なのか。 ◆汚染処理費用は東電資産を使え◆  先週号に書いた通り、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が、10月3日に、東電の賠償と経営維持の方針に関する報告書を野田佳彦首相に提出した。これが東電の今後の10年間の経営の道筋を示す既定事実であるかのように報道され、「東電の合理化案を委員会が厳しく査定した」という論調だが、報告書をまとめた下河辺和彦委員長の口調を聞いていると、「......と東電にお願いします」と、加害者の東電に対して、まるで態度がなっていない。カツカツの生活を送っている被害者の福島県民と比して、最高責任者である東電役員たちが報酬を現在も受け取っていること自体が、非常識のきわみである。一流企業の平均収入よりはるかに高い東電社員の給料を、わずか5%削減してすむ問題なのかと、みなが怒っているのだ。社員の給与を3分の1に減らし、一軒一軒の被害者の自宅を訪れてその生活の困苦を知るという人間らしい努力を一度でもしたことがあるのか。おい、デタラメ発表を続ける東電原子力・立地本部長代理の松本純一よ、聞いているのか。首相就任以来、原発に関して自分の意見を何も言えないデクノボウの野田佳彦よ、こんな電力会社を放置して、それでも政治家として恥ずかしくないのか。  このままでは、棄民とされ、生涯にわたる大被害を受けた地元民の怒りがおさまるはずがない。  福島県民だけではない。全国の自治体が頭を抱えている放射能汚染された汚泥の処理はどうなんだ。除染した土などを、どうするのだ。これを、各地の自治体が、「困った、困った」と悩む必要などは一切ない。この放射能を放出したのは、東京電力福島第一原子力発電所なのだから、そこの敷地へ戻せばいいのだ。全国の自治体には、何らその処理責任はない。また、この処理費用を、「国に対して」補償しろと求めてはならない。国が支払うとは、原子力損害賠償支援機構担当の細野豪志のごとき国会議員が払うわけではない。国民の税金なのだ。細野大臣が、われわれ被害者の金で充当するのは、まったくの筋違いだから許されることではない。すべて、東電の資産を使って処理しなければならない。  こうした正当な請求をするために、巨大な集団訴訟を起こし、国民あげて、傲慢な東電を裁く日が来た。怒りをもって。 (構成 本誌・堀井正明)      * ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)など著書多数。本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)が8月30日に緊急出版された 週刊朝日
広瀬隆「首都圏の放射能と汚染食品の恐怖」
広瀬隆「首都圏の放射能と汚染食品の恐怖」  いよいよお米の収穫時期に入って、主食の放射能汚染問題が深刻になってきた。 すでに放射能汚染は、福島県から北へ宮城県、南へ栃木県、群馬県、山梨県、長野県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県にまで拡大し、ヨーロッパのEUを含む43ヶ国と地域がこれら12都県などからの農産物輸入を禁止または規制している。ドイツ放射線防護協会は、乳児、子供、青少年は1キロあたり4ベクレル以上、大人は8ベクレル以上のセシウム137を含む飲食をしないよう提言しているが、当事国の日本では1キロあたり500ベクレルというとてつもなく高い基準を設定してしまい、499ベクレル以下はすべて安全として、超危険な食品が流通しているのだから、このままでは大変なことが起こる。 これまで多くの人は、カウンターで放射能の高さを測って自衛してきたが、これらの数値は、空間線量である。それはヨウ素やセシウムのような放射性物質が出す、遠方まで到達するガンマ線を測定した値である。しかし、お待ちなさい。汚染食品の問題は、体内被曝によって起こるのだ。 茨城県つくば市の気象研究所では、物質が気体になる温度(沸点)4265℃のテクネチウムと、沸点4639℃のモリブデンが検出されているのである。 したがって3月に福島の原子炉でメルトダウンした核燃料の温度は、2000℃をはるかに超えて、3000℃から4000℃にもなっていたと考えられる。沸点は、ヨウ素が184℃、セシウムが671℃、ストロンチウムが1382℃なので、これらの危険な放射性物質は、ほとんどすべてが気化する温度をはるかに超えていたのだ。プルトニウムでさえ、沸点はモリブデンより1400℃以上も低い3228℃である。そうなると、当然、内部被曝で特に重大な影響をおよぼすストロンチウムとプルトニウムが、ガス化して大量に放出されたと、私は考えている。 これらストロンチウムが出すベータ線と、プルトニウムが出すアルファ線は、ガイガーカウンターでは、まったく検出できない。日本の各地の、土壌および食品の汚染を知る場合に最も重要な指標は、したがって空間線量より、どれほどの放射性物質が福島原発から放出され、それがどこに、どれほど降り積もったかという沈着量なのである。 市民グループの「放射能防御プロジェクト」が首都圏の土壌汚染を実際に調査した結果をインターネット上で公開してくれたので、首都圏の人間はこれを誰もが見なければならない。ほぼ6月時点での、植え込みや庭、公園などにおける土壌の放射性セシウムの沈着量が出ている。測定した都県によってサンプリングの数は異なっているので、平均値だけが危険度を正確に示すのではないが、東京の測定地点は56ヶ所と多いので、かなり正確な指標と見てよい。 この数値を見ると、東京の平均でさえ、チェルノブイリ原発事故の後にソ連政府(当時)が汚染区域の第4区として指定した危険地帯とほとんど変らないのである。 第4区とは住民を強制避難はさせないが、厳重に健康管理をおこないながら危険地域に放置してきた場所にあたり、放射性セシウムが1平方メートルあたり3万7000~18万5000ベクレルである。放射能の単位1キュリーは370億ベクレルなので、1平方キロメートルあたり1~5キュリーに相当する。東京の平均はこの1キュリーとほぼ同じなのだ。◆事故再発なら食料自給の危機◆「1平方キロメートルあたり1キュリー」とは、どのような危険度の場所か? 大病院では、1キュリーの放射性物質を扱うことはない。人間の体内で問題になるのは、ピコキュリー、つまり1兆分の1(1/1,000,000,000,000)キュリーである。チェルノブイリ原発事故後、日本が定めた食品輸入禁止基準は、放射性セシウムについて「食品1キロあたり370ベクレル以下(1億分の1キュリー以下)」であった。これが、横浜税関などの検査官が飛び上がって驚いた危険物である。この1キロあたり370ベクレルという危険なセシウム汚染食品の比重を水と同じ1と仮定した場合、これを1平方キロメートルの面積に10センチの厚さで敷きつめた状態が、「1平方キロメートルあたり1キュリーの汚染地帯」ということになる。 絶対に食べてはいけない汚染食品をぎっしり埋めつくしたと同じ土地、それがチェルノブイリ第4区である。このような上で、あなたは生活したいだろうか。その土地で食べ物を栽培したり、幼い子供が生きられると思うだろうか。 ところがそれが東京の平均的な土なのである。しかし東京都の食料自給率は1%なので、1300万都民はすべての食料をほかの土地に頼っている。都道府県別の食料自給率は、図2の通りで、主に北海道・東北地方・北陸地方が大生産地にあたる。この三つの地方が全国に占める農地の割合は51%にも達する。主にこの広大な範囲が、福島原発事故によって汚染されたのだ。 ここに厳格な規制を適用すれば、食べ物がなくなるために、致し方なくドイツの子供の基準の100倍超というとてつもなく高い基準を定めて、日本人みながパクパク食べている。 幸いにも日本列島の背骨には山があり、そこが分水嶺となって、現在までの日本海側の汚染度は、太平洋側に比べてかなり低い。だが野田佳彦内閣が発足し、この総理大臣は、原発の再稼働に熱心な男で、加えて、原子力安全・保安院と原子力安全委員会というまったく信用できない腐敗した「原発マフィア」どもが、首相命令に従ってこれからその再稼働にお墨付きを与える作業に入っている。 日本人よ、よく聞け! これから次の大地震と大事故が迫っているのだ。原発すべての廃炉を実現するのに一刻の猶予も許されない日本で、原発再稼働に踏み切って、今度、新潟の柏崎刈羽か、静岡の浜岡か、北海道の泊か、日本海側あるいは西日本の原発で事故があれば、もう日本人には食べるものがなくなる!! よりによって、九州では食料自給率上位の佐賀県と鹿児島県だけに原発がある。先月末に連続講演会で南九州を回る途次、鹿児島湾をフェリーで横断した時、桜島がドーンと噴火する姿を目にして、私は言葉を失った。原発再稼働を目指す政治家に命を預ける愚かな国民であれば、もう日本は、そう長くないだろう。 (構成 本誌・堀井正明)     *ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)など著書多数。本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)が8月30日に緊急出版された週刊朝日
藤田祐幸×広瀬隆 「原発は現地で止めるしかない」
藤田祐幸×広瀬隆 「原発は現地で止めるしかない」 広瀬 事故直後に藤田さんと電話で話をしましたが、半年たっても収束のめどはたっていません。藤田 1号機から4号機まで溶け落ちた核燃料が、どんな状態になっているか、わからないわけですよね。いつ何時原子炉の爆発が起こっても不思議ではない。どこかが爆発して核燃料が大量に放出されることになれば、その周辺は人が近寄れなくなりますから、チェルノブイリをはるかに上回る大惨事になりかねない。広瀬 原子炉に穴が開いて核燃料が溶け落ちていることは間違いないと思いますが、その状態はだれにもわからない。私は表面に分厚い酸化膜ができて、かさぶたのようになっているケースを考えています。金属が露出されていないから水をかけても冷えない。中では猛烈な熱が出ている。まるで安定とはほど遠い状態のまま、報道が少なくなって国民は目隠しされている。藤田 発熱体の核燃料がコンクリートを溶かして、じりじりとめり込んでいるのか、どこかに引っかかっているのか......。判断材料がないので、考えるのをやめちゃっているんですよ。広瀬 原子炉内部は、だれも見られないわけですからね。それでも公表されているデータをサイエンスライターの田中三彦さんらが解析して、地震の揺れによる配管破断によって事故が起きたことが明らかになってきました(「エコノミスト」7月11日臨時増刊号など)。政府の公式見解のように津波がすべての原因ではないのです。地震の直撃を受ければ、全国どの原発でも福島第一原発と同様の重大事故が必ず起こります。事故が起きていないのは、たまたま地震に襲われていないだけです。藤田 チェルノブイリ原発の事故の6年後だったと思いますが、汚染地域のある村に行ったら、ちょうど夏休みで子供たちは汚染のないところに行っていて、一人もいない。おばあちゃんと話をしていて、「もうすぐ夏休みが終わって子供たちが帰ってくるから、楽しみだね」って言った瞬間に、そのおばあちゃんに胸ぐらをつかまれた。「あんたらは日本から来た科学者だろ。人の住めるところではないってことは知っているはずだ。そこに子供が帰ってくるんだよ!」って、ワーッと怒りだしたわけね。みんな汚染地帯と知りながら暮らしている。そこに子供がいて、怒りやかなしみや絶望、あらゆる感情を押しつぶして、みんな生きている。で、僕が能天気に「楽しみだね」なんて言ったもんだから、おばあちゃんは激怒して、バーッと感情が爆発した。被曝のことは忘れたい。考えたくない。言いたくない。そういう思いを抱いて人々が暮らしていくということは、なんと残酷なことかと、そのとき思いましたね。広瀬 ヨーロッパのメディアの取材を受けて事故について話をすると、「福島に人が住んでいることが信じられない。ヨーロッパなら移住している」と言われますね。福島の子供たちは疎開すべきだと言い続けているのですが、そもそも事故で放出された放射性物質は、原子力安全・保安院が6月に発表した77万テラベクレル(テラは1兆倍)より、けた違いに多いとみています。骨に定着するストロンチウムもほとんど報道されませんが、出ていないはずがない。藤田 ええ、ストロンチウムはセシウムと同様に出ていますね。化学分離して測る操作が必要なので、測定していないだけでしょう。ストロンチウムの汚染状況を調べるために、抜けた乳歯を全国的に集めて、測定を始めるべきです。広瀬 1950~60年代の大気中の核実験の影響を調べるために、杉並区の人たちが測定したグラフを見せてもらったことがあります。大気中核実験でも乳歯のストロンチウムの検出は、ガッと上がっていましたね。●敗戦を上回る国家破綻が進む藤田 今、やる必要があるんです。全国で継続的に測ると、日本全体の被曝量というものが推定できる。非常に重要なデータです。しかし、先日も医師の集まりで訴えたけれども、反応がないんですよ。大学も機能していない。物理学者も動かない。これだけの放射能汚染に対して、学問の世界が非常に立ち遅れている。広瀬 まったく動こうとしない文化人、著名人にも、いったい何してるんだって、怒鳴りつけたい。藤田 今の日本は、チェルノブイリのときのような情報発信が、政府内部からありません。チェルノブイリでも、ペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を推し進めたゴルバチョフ(当時ソ連書記長)がいなければ、今の日本と同じように、何も起こってない、だいじょうぶだと言って、みんなそこに暮らしていたと思うんですね。 僕らは1990年から現場に入っていきましたが、そこにはソ連(当時)の巨大な官僚システムに風穴を開けようとする動きがあった。研究所や病院も旧体制の保守派と改革派に、はっきり色分けができた。保守派は紋切り型の回答しかないのに、改革派はデータを積極的に出してくれる。ニュースソースが二つあったわけです。だから旧体制を情報源にした、日本政府のように「何も起こっていない」という発表もあるし、一方で深刻な事態が伝えられる報道もあるのです。汚染地図にしても、おびただしい数の科学者や医者たちが、民衆を、人民を守るという意識に目覚めて、あの広大な、半径500キロ、600キロという地域にあるすべての集落の土壌を、一つの集落につき3検体から5検体集めて、それをぜんぶ測って作っていた。広瀬 あの地図は本当にすごい。藤田 それを測ってる現場を見せてもらったけれど、何万という土壌検体をひたすら調べていた。それをやっているのは、改革派の科学者たちなわけです。広瀬 1989年にベルリンの壁が崩壊して、ヨーロッパから民主化を進める外圧もあったんですね。日本は今、外圧ないですから。藤田 まったくないね。広瀬 チェルノブイリのときは、ドイツなどで食品の汚染度を調べて、測定したベクレルを商品ごとに表示していましたね。あれを日本でも、今やらなければいけないのですよ。藤田 政府が定めた1キロあたり500ベクレルという食品の基準値は、非常に高い値だと思っています。チェルノブイリ事故で深刻な汚染にさらされたヨーロッパで定められた暫定基準値は、1キロあたり370ベクレルでした。当時の日本政府も導入した値ですが、私たちはこれに抗議して、市民の手で放射線測定器を購入し、自主的に測定し、値を公表しました。そのときに定めた自主的な基準値は、国の値の10分の1にあたる37ベクレルです。広瀬 放射能の影響が大きい子供には、ヨーロッパでも大人の10分の1以下に設定したんですよ。どう考えても、500ベクレルなんていう数字は、とんでもない。このままでは、子供たちに大変なことが起こる。藤田 ただ難しいのは、チェルノブイリのときに問題とされたのは輸入食品だったんですよ。だから、騒げたんです。今は国内の生産者に対して刃が向いてしまうというのがあるでしょ。広瀬 そうですね。町の八百屋さんや魚屋さんの顔を見ながら、言わなきゃいけないわけですよね。できないんですよ、つらくて。言ったら、あの人たち、どうなるんだろうと思って。藤田 生産者と消費者が共存できない状況が生まれてしまった。これは日本の歴史のなかで、最大級の問題です。消費者を守ろうとすれば生産者は排除しなければならないし、生産者を守ろうとすれば消費者が犠牲になってしまう。そういう構造のなかで、いったいこの国の食品の流通というものを、どうすればいいのか。そう考えると、僕はやっぱり福島を中心とした汚染地帯は、ソ連のように封鎖すべきだと思います。今の汚染レベルを考えると、新幹線や高速道路も通してはいけないと思う。そこの人びとは手厚く保護しながら、九州や北海道などの耕作放棄地や限界集落などに移住させるべきです。国の存立がかかる食料自給を支える東北が、深刻な放射能汚染にさらされた現実を直視して、北海道や九州がどれだけ補えるかを考えなければいけない。広瀬 それは国を根本から変えるような大事業なわけです。まずは取りかえしのつかない、大規模で深刻な放射能汚染が起こったことを認めてから、話をはじめないといけない。認めろって、僕は叫んでまわってるわけだけど、認めないんですよ、国民が。藤田 敗戦と同じ規模、あるいはそれを上回る国家的な破綻が起こりつつあるのだけれど、その現実を受け入れたくないんだね。それに明治維新や敗戦でも、国家的な破綻の先に、なんらかの希望があった。今はその先の希望が見えない。 戦後は至るところ焼け跡で、崩壊というのがだれにも見えたんだけども、放射能っていうのはまったく見えないから。チェルノブイリでは、まさに何も変わっていなかった。「緑したたる廃虚」という言葉でそれを表現したことがある。ほんとに豊かなウクライナの穀倉地帯がそのまま残っている。でも、放射能を測ればとてつもなく高い。日本で実感が湧かないというのは、まさにそういう状況ですね。やらなくちゃいけないことはわかっているけれど、やれるはずがない。だから、広瀬さんもがんばって走り回ったり、書いたりしているけれど、どうせだめだろうなって。ちょっと今、あきらめかけている。広瀬 その気持は同じだけれど、われわれ老人が死んでも、子供たちは見捨てられない。あとは現地のゲリラ戦しかない。第二のフクシマがあれば食料は日本から消えるのだから、すべての原発を止める。国に対しては期待しない。だけど、福井県の西川一誠知事が原発の再稼働に疑問を投げかけているように、原発がある現地は事態を深刻に受け止めている。現地を変えて、止める。それしかない。藤田 そう、地域の戦いですね。僕は今、九州で、農業者、漁業者、林業者、畜産業者に、働きかけを始めています。事故が起こったら、地場の産業は崩壊することがわかったはずだ。一人一人が声を上げなければ何も変わらない。地域から日本が変わっていくことに、希望を見いだすしかないですね。 (構成 本誌・堀井正明)     *ふじた・ゆうこう 1942年生まれ。東京都立大大学院修了。2007年に慶大教員(物理学)を退職、長崎県西海市に移住。全国の反原発市民運動を支援する。87年には放射能汚染食品測定室設立。『もう原発にはだまされない』(青志社)などの著書がある     *ひろせ・たかし 1943年生まれ。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾──大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)、『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)など著書多数。本連載をまとめた『原発破局を阻止せよ!』(朝日新聞出版)が8月30日に緊急出版された週刊朝日
広瀬隆「リニア中央新幹線、無用の浪費計画」
広瀬隆「リニア中央新幹線、無用の浪費計画」  3号機では臨界暴走したとも言われるあの大爆発の実写映像から判断して、使用済み核燃料プールが破壊されているか、燃料が粉々になっていることが想像されるのだ。ところが東京電力は、その使用済み核燃料も取り出すと謳っている。  どこまで国民を馬鹿にするのか。あとは1~4号機を巨大なカバーで覆って、上空から見えないようにしてしまい、「事故を収束した」と言い張るのだろう。東京電力のおそるべき嘘は、事故を起こしてもなお、反省がまったくなく、今後何十年も果てしなく続く。それだけの歳月、放射能漏洩を隠し続ける気なのか。  さて、この原発にからむ大問題として見過ごしてならないのが、リニア中央新幹線プロジェクトである。  東日本大震災からほんの1カ月ばかりあとの4月21日、リニア中央新幹線計画を審議する国土交通省交通政策審議会の中央新幹線小委員会(委員長、家田仁・東京大学大学院教授)が最終答申案をまとめ、「南アルプスルート」「超電導リニア方式」での建設を明記する文書を提出したので、この非常識さに日本中があきれている。    東京-名古屋間を結ぶリニア中央新幹線プロジェクトは、JR東海が2027年開業を目標として、実験を進めてきた。JR東海は、「東海道新幹線の輸送能力が限界に近い。したがってバイパスとしてリニア中央新幹線を敷設する必要がある」と主張してきたが、ちょっと待ちなさい。東海道新幹線の最近の年間平均座席利用率は、08年度61・2%、09年度55・6%と、ほぼ半分近くに落ち込んで、席がガラガラになっているのである。乗客が急減している時代に、さらに人口の減少が止まらない日本で、まったく無用の長物だということは、子供でもわかるのに、なぜこのような計画が進められるのか、その神経がわからない。  この大学教授たちは、東日本大震災によって東北新幹線が破壊されなかったことをもって、安全だと判断しているが、まったく地震の揺れについて、基礎さえ理解していない人間であることに驚く。東北地方太平洋沖地震では、津波の災害は言語を絶するほど大きかったが、地震の揺れは、3年前(08年)の岩手・宮城内陸地震より小さかったのである。リニア中央新幹線は、おそらく南アルプスを貫通すると予想され、なんと80%以上の路線が、地下40メートルより深い大深度トンネル内となる。構造物には、とてつもなく高い耐震性が求められるのだ。   南アルプスを貫通するルートは、日本最大の活断層である中央構造線と、糸魚川-静岡構造線が交錯する土地を横断する。この一帯における過去の地震の傷跡は、路線ルートのありとあらゆる地域に刻まれている。とりわけ日本の記録上、最大の内陸地震は、1891(明治24)年10月28日に発生したマグニチュード8・0の濃尾地震で、今から100年以上前に死者7273人、負傷者1万7175人の大惨事となった。 震源域は福井県から岐阜、愛知県にまたがり、根尾谷(ねおだに)では80キロにわたる大断層が出現して、上下方向に最大6メートル、水平方向に最大8メートルのずれが起こっているのだ。このような大地震では、長大な活断層の激動によって巨大な岩盤に亀裂が生じるので、いかなる耐震性をもってしても、トンネルも線路も一撃で吹っ飛び、破壊されてしまう。この大地震帯に、コントロールのきわめて困難な超電導方式で高速鉄道ルートを選ぶこと自体が、常軌を逸している。東海地震の震源域に建設された浜岡原発とまったく同じである。まして東海・東南海・南海の三連動地震が近づいているこの時期に、それに沿ってトンネル工事をしようというのだから、その人間たちの神経が理解できない。 ◆巨大な電力消費、原発増設が前提◆  さらにこの大学教授たちは、リニア中央新幹線プロジェクトを、日本が元気になるための計画だと位置づけている。この動機そのものが、見当違いであり、トンデモナイ人間たちではないか。日本で最大の自然を誇る南アルプスの山を破壊するのが、この土建プロジェクトである。駅の設置場所も未定で、環境アセスメントもできていない。用地買収も決まっていない。地元には停車もせず、住民は被害を受けるだけだ。  リニア中央新幹線は東海道新幹線の3倍といわれるエネルギーを必要とする。電力消費を抑制しようと、必死に節電に努めているこの日本で、時速500キロで走行時の超電導リニアの想定消費電力は、1列車で約3・5万キロワットにもなるという。この新幹線が必要とするのは、原発数基分に匹敵するエネルギー量になる。JR東海は自前の発電施設を持たないので、当然のことながらこの電力は、新潟県の柏崎刈羽原発や、静岡県の浜岡原発から送ることを目論んで進められてきたのである。今や廃炉が決定的となった浜岡原発の復活論をバックアップするために、福島第一原発メルトダウン事故の直後にリニアのプロジェクトをぶちあげたのであれば、いっそう許し難いことである。  原発の新設・増設を前提に進められてきたという意味で、リニア中央新幹線は、深夜の原発電力で充電する電気自動車と同じ失敗の証明である。こんな巨大な電力を浪費するプロジェクトを立ち上げるその無神経さにあきれる。  この答申案に対して、国交省鉄道局が「パブリックコメント」、つまり意見を公募した結果が5月12日に報告されたが、リニア賛成16に対して、反対648となり、こんなものはまったく不要であると、97%の圧倒的な国民がその建設に反対している。  リニア関連予算があるというなら、それを今年度より即刻凍結し、その大金を東日本大震災の復興資金にあてるべきだ。福島第一原発の不幸な事故によって、電気自動車とリニア中央新幹線の未来が閉じられたことを、メーカーと関係者は早く認識する必要がある。(構成 本誌・堀井正明) *ひろせ・たかし 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。今回の連載に大幅加筆した『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)が5月に緊急出版された。最新刊は明石昇二郎氏との共著『原発の闇を暴く』(集英社新書) 週刊朝日
広瀬隆「事故の責任者を刑事告発した理由」
広瀬隆「事故の責任者を刑事告発した理由」  福島第一原発メルトダウン事故が起こってからの私たちは、日本全土に放射能被曝をもたらした許されざる事故責任者たちが、毎日毎日テレビに登場して、平然と事故の解説をする姿を見せつけられてきた。また福島県に雇われた学者たちは、福島県内のすさまじい被曝状態の中に児童を放置しながら、それを安全だと触れ回ってきた。彼らには、まったくと言っていいほど、この大事故を起こしたことに対して、また被曝の深刻さに対して、反省の色が見られない。 そこでルポライターの明石昇二郎氏と私・広瀬隆は、このままでは次の大事故が誘発されることをおそれ、それを食い止めるため、7月8日に、東京地方検察庁特捜部に対して、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一・長崎大大学院教授、神谷研二・広島大原爆放射線医科学研究所長、高村昇・長崎大大学院教授および高木義明・文部科学相らが、福島県内の児童の被曝安全説を触れ回ってきたことに関して、それを重大なる人道的犯罪と断定し、業務上過失致傷罪にあたるものとして刑事告発した。 また、原子力安全委員会委員長・班目春樹、東京電力会長・勝俣恒久、東京電力前社長・清水正孝、前原子力安全委員会委員長・鈴木篤之(現・日本原子力研究開発機構理事長)、原子力安全・保安院長・寺坂信昭ら多数も、未必の故意によって大事故を起こした責任者として、やはり重大なる人道的犯罪と断定し、業務上過失致死傷罪にあたるものとして刑事告発した。 特捜部に提出した証拠書類としては、7月15日に発刊した明石昇二郎氏との共著『原発の闇を暴く』(集英社新書)、拙著『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)といった2人の過去の著書などがある。これらは、大地震に原発は耐えられず、津波に対しても十分な対策がなされていなかったことなど、起こり得るとわかっていた「原発震災」の危険性を証拠づけ、この福島第一原発メルトダウン事故が「想定外」ではなく、「未必の故意」に該当する重罪であることを論証したものである。 福島県内の保護者らでつくる「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」主催の放射能の危険性についての学習会で、私は、7月2日にいわき市、3日には福島市と郡山市で、多くの不安を抱えた父母を前に、福島県内の放射能汚染の実態を話さなければならなかった。会場では、事実を知って涙ぐむ人がいた。私自身も涙をこらえることができなかった。 告発した内容は、それらの会場で語ったことと同じである。事故責任者に罪の意識がなく、福島県民の一生を台なしにし、大きな被害を日本社会に与え、とりわけ福島県内の児童の生命を危険な状態に放置している、その罪状を急いで明らかにするため、被害者に代わって特捜部による司法の捜査と裁きを求めるものである。国民の多くが裁きを求めているにもかかわらず、彼らの犯罪が放置されていることは、にわかに信じ難いことである。国民に代わって、急ぎ被告発人たちの罪と悪事を白日の下に晒(さら)し、法に基づく正義が実行されることを求める。 非常に多くの日本人は、いま、放射能の言葉におびえなければならない状況にある。大変な被害を受けていて、内心では原因も責任者も知って腹立ちを覚えながら、それを口にすると自分にはねかえってくる被害が大きくなるので、口をにごさなければならない。 福島県の学習会に向かう途次に見た光景は、水田の稲が青々と育つ姿であった。いったい、秋になってこれが収穫されたときに、どこへ流通するのだろうか。福島県内で聞いたのは、「収穫して、それをほかの産地のものに混入する」という言葉であった。「すでに原乳は混入されているし、福島県産の野菜は値崩れして安いので、そちこちで外食産業などに流れている」という話まで聞いた。頼むから、学校給食にだけは混入しないでほしいと願うが、給食を担当する人たちの意識がどこまで高まっているか、はなはだ疑問である。◆認められた権利、災害の罪を問う◆ 福島では、そうした危険性に気づいた父母が自衛しようと、自分の子供に「給食に筍(たけのこ)とシイタケが出たら、残すように」と言っている。そして子供が給食の筍とシイタケを取り分けて残したところ、先生が「食え!」と言って食べさせたという。このおそろしい話を聞いて、いったい日本はどうなるのだろうかと暗然とした気持ちにとらわれた。 そうした学校関係者の背後に、文部科学省がいることは間違いない。大事故を起こしただけでも取り返しがつかないというのに、子供たちに放射能汚染食品を「安全だ」と叫んで食わせる人間たちとは、どのような悪魔なのだろうか。 東京地方検察庁特捜部は、傲慢な東京電力の本社ビルに入って家宅捜索し、山のような段ボールに内部資料を詰めて、トラック数十台にそれを積み込んで、すぐに捜査にかからなければならない。特捜部は、名誉回復のためにも、これをしなければなるまい。 この刑事告発は、告発人が裁判を必要としないことに、すぐれた特長がある。捜査して裁くのは、告発状を受理した司直の人たちの職務である。前出『原発の闇を暴く』のあとがきで、明石氏がこう書いている。--広瀬さんと私はさらに「闇」の部分を暴くべく、東京電力の幹部や御用学者たちを刑事告発し、司直の手に委ねることを決意した。刑事告発は何も特別なことではなく、広く国民に認められた権利であり、制度だからだ。手間と時間がかかる民事裁判とは異なり、刑事告発で必要なのは「告発状」と新聞記事などの「証拠」、そして告発する本人の「陳述書」のみ。これらを最寄りの地方検察庁か警察に提出するだけでいい。警察署で尋ねれば、やり方を教えてくれる。また、自分は事故の被害者だと思っている方なら、第三者の立場でおこなう刑事告発よりも「刑事告訴」のほうをお勧めしたい。-- つまりすべての日本人が、私たち2人と同じように告発状を書いて、配達証明で司直に郵送し、これらの告発状が何万通も届くことを願っている。「別冊宝島」1796号・特集「原発の深い闇」2011年8月14日号(7月14日発売)に、明石氏が告発状のひな型を紹介したので、参考にしていただきたい。 日本が法治国家であると言うなら、被害者自身が、あるいはもの言えぬ被害者に代わって多くの日本人が、原子力災害・放射能災害の罪を問わなければなるまい。 (構成 本誌・堀井正明)     *ひろせ・たかし 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。今回の連載に大幅加筆した新刊『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)が5月13日に緊急出版された週刊朝日
広瀬隆「放射能汚染の学校、学童疎開を急げ」
広瀬隆「放射能汚染の学校、学童疎開を急げ」  菅直人首相は5月6日、東海地震の震源域にある浜岡原発について、すべての原子炉停止を要請したと発表した。新たな防波壁を造るまでの延命措置では困る。この決断が全国の原発を恒久的に止める最初の一歩になることを願う。 国が決断を迫られているのはこれだけではない。子どもたちを放射能から守るために一刻の猶予も許されない問題を書きたい。 文部科学省が4月19日に公表した「年間20ミリシーベルト」という学校の放射線基準値に憤激して、福島県の親たちが立ち上がりました。5月1日に父母を中心に「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」を結成して、2日には文科省の担当者らに要請書を提出しました。 国は、子どもを持つ親の切実な声に耳を傾けて、ただちに、この危険きわまりない「安全基準」を即時撤回せよ! 校庭の土を入れ替えるなど除染作業が済むまで福島県内の小中学校は授業を中止して、汚染の少ない地域に学童疎開させなければ危ない。 危険な原発労働者でさえ「年間20ミリシーベルト」を浴びる人はゼロですよ。ほとんどが年間5ミリ以下だというのに、その4倍を児童に浴びさせるのは、殺人に等しい。大人に対する規制値1ミリシーベルトの20倍もの値を、どうして学校に適用できるのか。放射能の影響が大人の10倍とされる子どもたちを、きわめて危険な状態に放置する信じがたい国だ。 文科省は屋内16時間、屋外8時間の生活パターンを想定して、屋外では毎時3・8マイクロシーベルト(マイクロはミリの千分の1)を下回れば、年間20ミリシーベルトを超えることはない、としている。 毎時3・8マイクロシーベルトとは、労働基準法で18歳未満の作業を禁止している「放射線管理区域」(3カ月で1・3ミリシーベルト、毎時0・6マイクロシーベルト相当)の6倍以上の線量に当たるのだ。政府は一体、何を考えているのか。それを批判しないテレビと新聞は、子どもたちを殺そうというのか。 子どもを見殺しにして平気な政府に、福島県や県内の市町村は抗議すべきです。ところが福島県が放射線健康リスク管理アドバイザーとして雇った長崎大学の山下俊一教授は、県内各地で講演して、「年間100ミリシーベルト以下なら心配ない数値」と話している。年間20ミリシーベルトの基準に対して抗議する親たちを前に、どうしてそんなことが言えるのか。私はこの男に激しい憤りを覚える。 4月5~7日に行われた福島県内の小中学校や幼稚園などでの放射線調査によれば、調査対象の75・9%で毎時0・6マイクロシーベルトを超えている。しかも、この放射線測定には「内部被曝」は含まれていない。元気よく校庭で遊ぶ子どもたちが、風で舞い上がったり、食べ物についたりした放射性物質を、体に取り込むことがこわいのだ。 昨年、原発事故の危険性を『原子炉時限爆弾』に書いたとき、原発の大事故でどれくらいの被害が出るか、想定される被害を本に書こうと思っても、書けなかった。がんや白血病といった被曝による放射能災害は、事故の後、長い時間をかけて、病院の中で静かに進行していくからです。 原発の取材を続けてきたジャーナリストの明石昇二郎氏は「福島県民一人ひとりに積算線量計を持たせた上で、長期にわたる健康調査を行うべきだ」と叫んでいます。24日発売の「朝日ジャーナル」で緊急提言として発表してくれます。今後発生する健康被害の因果関係と責任を明らかにするための、重要な提言だ。 私が原発反対運動を始めたころ、放射能の危険性について著作を通して教えてくれたヘレン・カルディコット医師が、4月30日付のニューヨーク・タイムズ(電子版)で、「Unsafe at Any Dose」と題する論文を書きました。「いかなる被曝量でも安全ではない」という意味です。 ◆10年で20万人、がん罹患の予測◆ 彼女は、チェルノブイリ原発事故の死者について激しい議論が交わされてきたとして、がん死者はほぼ4千人という国際原子力機関(IAEA)の予測と、がんなどの疾患で100万人近くが死亡したとする2009年の別のリポートを紹介して、こう書きます。「原発事故は、決して終わらない。チェルノブイリ原発から放出された放射能の影響は、何十年も続く。チェルノブイリと福島で、放射性物質によって、どれくらいのがんやほかの病気が起きるか、予測もできない」 放射線に安全な照射量はない、被曝量は累積される、がんは15年から60年もかけて発症する、体内被曝こそが危険--医師の視点から福島事故を分析して、論文をこう結びました。「物理学者たちは、核原子力時代を始める知識を持っていた。医師たちは、それを終わらせるための知識と信頼性と合法性を、いま持っている」と。 3月30日には欧州議会に設置されている調査グループ「欧州放射線リスク委員会」(ECRR)が、IAEAと日本の公式情報から得たデータを使用して、今回の福島事故で予想されるがん患者の増加数を発表しました。調査の中心人物であるクリス・バスビー教授によると、事態はきわめて深刻で、原発から200キロ圏内の1110万人がその場所に住み続けた場合、今後10年で20万人ぐらいが放射能によってがんになると予測しています。 原発の放射能を封じ込めるめどが立たず、汚染は広がっています。福島県郡山市の下水処理施設では汚泥から高濃度の放射性セシウムが検出されました。地表から雨などで下水に流れ込んだようです。この汚泥を使ったセメント材からも放射能が検出されました。5月3日には東京電力が、海底の土から高濃度の放射性セシウムを検出したことを初めて発表しました。 福島の子どもたちの学童疎開を急いで実施すべきだ。岩手県釜石市では終戦の年、4月から8月まで一斉に学童疎開を行い、その間にあった2度の艦砲戦災で小学生の犠牲者はほとんどいなかったという。敵の攻撃を予想した大人たちの決断が子どもの命を救いました。 いま猛烈な攻撃が始まっている放射能から子どもたちを守るのは、大人の責任です。疎開先として西日本の人にも助けてもらいたい。戦時中の学童疎開が平時の今、できないはずはない。政府の即断を望む! (構成 本誌・堀井正明)     *ひろせ・たかし 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。インターネット放送局のビデオニュース・ドットコムで広瀬さんのインタビューがアップされている。追記:5月13日には「FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン」(朝日新聞出版)が発売されました。発売日に生放送されたインターネット動画番組「週刊朝日UST劇場」でのインタビューもまもなくアップされる予定です。週刊朝日
広瀬隆「科学的な説明と汚染観測が必要だ」
広瀬隆「科学的な説明と汚染観測が必要だ」 原発破局を阻止せよ! 緊急連載第4弾  4月7日深夜、宮城県沖のマグニチュード(M)7・1という最大級の余震で、大停電が起きました。青森県の六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場と、東通原発で外部電源が遮断され、非常用発電機が稼働したと報じられました。  現在断末魔で全面停止している六ケ所村の再処理工場は、全国の原発から運ばれてきた使用済み核燃料で容量3千トンの貯蔵用プールがほぼ満杯です。電源喪失やプールの破損で冷却できなくなれば、水素爆発が起きる危険性があります。もし、厳重に管理されている強い放射能を出す高レベル放射性廃液の一部でも漏れ出せば、東北北部と北海道南部の住民が避難するほどの大惨事になるでしょう。  M8クラスの余震もあり得ると言われています。その中で福島第一原発は事故から1カ月たっても、悪化の連鎖が止まりません。  炉心で起きていることや汚染の広がりについて、科学的なデータに基づく説明をまったくしない国に、みな激怒しています。推測の根拠が、いずれも外国からの警告による状態で、これが近代技術国家なのか、と。  東京電力は6日、格納容器内の放射線測定をもとに1号機の炉内の燃料棒は7割が損傷していると発表しました。しかし、溶けた燃料の状態の説明も、根拠もありません。圧力容器の底にたまっているのか。底の一部が抜けて格納容器に出ているのか。それによって、対策はまるで違います。  翌7日未明、格納容器内の水素爆発を防ぐために窒素充填を始めましたが、この危険性に気づくのが遅すぎます。放射線で水が分解されて水素が発生するのは化学の初歩の知識であり、報道されているように米国に言われるまで対応策を講じなかったとすれば、信じられない「専門家」です。  2号機の取水口付近の亀裂から流れ出していた汚染水の測定では、基準の750万倍のヨウ素131と、130万倍のセシウム137が検出されました。  2日に流出が見つかってから、コンクリートを流して止めようとしたのも信じられなかった。海水がじゃぶじゃぶ混ざって固まるわけがない。おがくずや新聞紙を投げ込んで、6日には砂利をガラス状に固める薬剤で流出が止まったと発表されましたが、元を断たなければ、現在もどこかから漏れているはずです。  破損した燃料から出た高濃度の放射性物質を含んだ水が、タービン建屋や坑道を伝って漏れ出したのは明らかでしょう。ボロボロの建屋が砕石でできた土台の上に立っているのですから、大量の水を圧力容器や使用済み燃料プールの冷却のために流すことは、汚染水を砂の上に流しているようなもので、海に流れ出ていくのは当たり前です。私は最初から、建屋内の多数の流路を推測して「じゃじゃ漏れ」になっていると言ってきましたが、実際に、そのとおりだったわけです。  高濃度の汚染水をためる場所を確保するために、比較的汚染度の低い水の大量放出も始めました。流出ではなく、今度は「故意に放出」という国際的な犯罪行為です。たとえば全国の原子力プラントにあるタンクを持ってくれば、海に流さずに管理できるのに、それすらしていない。全国漁業協同組合連合会の会長らが東京電力本店を訪れて、「人為的に汚染水を海に放出した暴挙は許されない」と憤ったのは当然です。  この状況は、1980年代まで大量の放射性物質を海に放出した、英国のセラフィールド(旧ウィンズケール)の核燃料再処理工場による海洋汚染と似ています。世界中に非難され、放出量は1千分の1に減少しましたが、魚介類に含まれる放射性物質の量は、30年後でもほとんど減っていません。東京電力や原子力安全・保安院は「希釈される」と言いますが、放射性物質そのものは減らない。多くが海底にたまり、それが再び海水に溶け出す循環状態になってしまうのです。 ◆猛毒物を平然と海に流す大罪◆  東京電力は「低レベルの汚染水」と言いますが、含まれている放射性物質は高レベル汚染水と同じで、単に濃度が低いだけです。たとえば、青酸カリを薄めたものを飲めと言われて、みなさんは飲みますか。彼らはそういう猛毒物を平然と海に流しているわけです。動物性たんぱく質の4割を魚介類から摂取する日本人にとっては、欧米と比べてきわめて深刻な話です。  3月31日には東京湾のアサリからごく微量の放射性セシウムが検出されました。空から落ちたと言われますが、ウィンズケールの汚染の広がりを考えると、海流に乗ってきた可能性が高いと私は見ています。  今、一番にやるべきことは測定です。海や土壌の汚染状況を詳しく調べて、すべて公表しなければ許されません。避難指示が出ている20キロ圏内の人たちが一時帰宅をするという話も出ています。その前提として、詳細な測定で危険性を明らかにすべきです。  連載第1回の冒頭にも書いた電力問題に再び触れます。エネルギー業界の人たちが、ポスト原発について具体的に語り始めました。  エネルギー・環境問題研究所代表の石井彰さんは、4月6日付のガスエネルギー新聞で、天然ガスの火力発電所は敷地さえあれば、最短数カ月で設置可能だと書いています。停電を論ずるより、電力需要の大きい夏に向けて設置作業に取りかかるべきです。  今回は巨大発電所のもろさが表れました。今後は発電所はできるだけ小さく、分散して設置することが至上命令です。発電にはタービンを回す「湯沸かし器」があればいい。構造が複雑で、壊れたときの対処が極めて困難な原発を使う必要はない。日本人が求めているのは原子力でも放射能でもなく、電気なんです。  石井さんは、「原発による深夜余剰電力を前提としたオール電化住宅や電気自動車のビジネスモデルが、一夜にして事実上消えた」として、こう書きます。 「政治レベルでは、日本でも欧米でも、天然ガスシフトというのが明確に示されていないが、世界のエネルギー専門家の間では、もはや議論の余地はなくなった。問題は、原発代替の天然ガスシフトが起きるか否かではなく、そのスピードと程度になってきている」  原発を廃止する時代に向けて、希望の火がともり始めています。 (構成 本誌・堀井正明、岡野彩子)     *  ひろせ・たかし 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)、『原子炉時限爆弾--大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。インターネット放送局のビデオニュース・ドットコム(http://www/videonews.com/)で広瀬さんのインタビューがアップされている 週刊朝日
広瀬隆が改めて警告「東海地震の危機」
広瀬隆が改めて警告「東海地震の危機」 --『原子炉時限爆弾』では、地球の内部構造から地震の起こるメカニズムを説き起こして、「原発震災」の危険性を訴えています。今なぜ、この本を書こうと思ったのですか。  ここ数年、浜岡原発に近い御前崎が年々沈み込んでいるデータや、プレートのひずみの蓄積がわかる海底音波探査の結果などを見て、東海地震が近いのではと心配して調べていました。  静岡の人たちに呼ばれた講演でそんな話をしようと思っていた矢先の昨年8月、駿河湾地震(M6・5)が起きたんです。とにかく浜岡原発のやられ方がひどかった。「これは心配だ」と思っていたら、太平洋を中心に地震が相次ぎました。  昨年9月にはスマトラ沖(M7・6)、サモア(M8・0)、10月にはバヌアツ近海(M7・8)、今年2月のチリ沖はM8・8ですからね。これだけ地震が続いても、報道では「地震があった」としか言わないけれど、どう見ても太平洋プレートの動きが関連しているとしか思えない。「天災は忘れたころにやってくる」の「忘れたころ」とは、今ではないのか。そんな思いがありました。 --昨年8月11日の駿河湾地震は、浜岡原発がある静岡県御前崎市などで震度6弱。東名高速の路肩が崩れて、お盆の帰省客が足止めをくらいました。浜岡原発では4号機と5号機が緊急自動停止しました。  浜岡原発の被害は、予想を超えるものでした。中でも耐震性がいちばん高いと言われていた5号機の揺れが最も激しくて、被害が集中しました。10センチから15センチの地盤沈下が起きて、原子炉で発生した蒸気を配管で引き込んで発電するタービンがある建屋は、コンクリートの壁にひびが入った。原子炉の核反応を止めるための制御棒を動かす駆動装置の一部も故障しました。今も点検が続いていて、5号機は止まったままです。  あのときは長野にいたのですが、ドーンと大きな揺れが来て、テレビをつけたら震源地が駿河湾だというから、ぞっとしました。  07年7月にはM6・8の新潟県中越沖地震が起きて、柏崎市で震度6強を記録し、想定を超える揺れに襲われた柏崎刈羽原発で変圧器が火災を起こすなど大被害が出ました。それでも、地震学的には小地震です。悲しいかな、あんなに怖い地震でも。  M8・0から8・5と予想される東海地震は、立っていられないような激しい揺れが1分から2分続くといわれます。地震のエネルギーでいうと、昨年の駿河湾地震の178倍から1千倍もの大きさがある。安政東海地震(1854年、M8・4)では御前崎の周辺が1~2メートル隆起したことがわかっています。昨年の小地震でもあれだけひどくやられたのですから、1メートルも隆起したら原発の配管が持つわけがない。建物が傾いて、蒸気と高温の水が循環する配管はめちゃくちゃになってしまうでしょう。 ◆大事故の放射能、3日で東京覆う◆ --配管が弱点だと?  配管が破断して、原子炉を冷やす水の供給が止まれば、ウラン燃料が灼熱状態になって溶け落ちるメルトダウンを引き起こして、大事故につながります。非常時に水を炉心に送り込む緊急炉心冷却装置も金属パイプでつながっています。  原発は、核分裂で発生する熱で蒸気を発生させてタービンを回して発電する。発生した蒸気は、復水器という熱交換機で海水を使って冷やされて水に戻し、原子炉を循環している。水蒸気と水が流れるパイプは、すべて一本の回路でつながっているので、どこが切れても熱を奪えなくなる。世界的な原発論争で最大の論点になってきたのも、この配管破壊による「冷却材喪失事故」だったのです。 --昨年の駿河湾地震では制御棒の駆動装置の故障も報告されています。  原子炉を止めるには、中性子を吸収する制御棒を使います。浜岡原発のような沸騰水型の制御棒は四つのブレードを持つ十字型で、燃料体のすき間に下から挿入する。縦揺れと横揺れが同時に襲ってくると、周囲にぶつかって正常に挿入できなくなる可能性がある。  電気系統が破壊されることも考えられます。浜岡原発では、チェルノブイリの原発事故が起きた2年後の88年、1号機で無停電電源という絶対に停電してはいけない電源がストップした事故が起きています。水を循環させる再循環ポンプや制御棒の駆動装置が止まった。記録計も止まってしまい、何が起きているのかわからなくなった。最後は手動で原子炉を止めたのですが、大惨事につながる恐れのある事故でした。  沸騰水型の原子炉では、配管などが壊れなくても地震で核暴走が起きる可能性があります。93年の宮城県北部地震では、わずか震度4の揺れだったにもかかわらず、近くの女川原発で核分裂を起こす中性子の数がガッと上がって、原子炉が止まってしまった。  核暴走の瞬間的な反応を計器がとらえ、自動的に制御棒が挿入されたのです。83年と87年に同じ沸騰水型の福島第一原発でも、小さな地震で同様に中性子数が異常上昇しました。  沸騰水型では燃料棒の周りにあぶくがたくさん出ていて、その効果でウラン燃料の核分裂が一定の割合で継続している「臨界状態」になっています。ここに地震がドーンと来ると、沸騰したやかんをドンと置いたときのように、あぶくが消滅する。すると瞬間的に核分裂の連鎖反応を促進する中性子が増えるのです。  中性子数の異常上昇は別の原因を挙げる報告書もありますが、いずれにしても沸騰水型の弱点として、小さな地震でも核暴走が起きる危険性に変わりはない。浜岡原発も沸騰水型なので、一瞬のうちに核暴走が起きる可能性があります。 --本の中では、原発の大事故が起きると「日本は『放射能汚染地帯』の烙印を押されて世界貿易から取り残され、経済的にも激甚損害を受けて廃虚になると考えるのが、最も妥当な推測だろう」と書かれています。  浜岡原発が大事故を起こしたらどうなるかというと、風速2メートルほどのそよ風でも、3日くらいで首都圏、中部経済圏、関西経済圏が大量の放射能で覆われてしまう。ここの人口を合わせると7千万人以上です。本の中の事故のシミュレーションでは、この時点で「100万人をはるかに超える人たちが肉体的な被害を受け始めた」と書きました。  87年に『危険な話』を書いたときは、チェルノブイリの事故が起こった直後だったので、原発事故は本当に起こることだと、みんなが理解していました。今は忘れてしまっています。危険は何も変わっていないし、老朽化が進んで、地震が来なくても原発事故はいつでも起こりうるのです。  若い世代が心配です。かわいい孫を見ていると、「この子たち大丈夫なのかな」と思いますよ。これから生きていく人たちが、このままいったら非常にまずい状態にあるのに、ボーッとしている。やっぱり僕はメディアの責任が大きいと思います。記者の人が自分の頭で考えて、原発事故の危険性について、しっかり伝えてほしいと思います。 --本の中では地球の成り立ちから説き起こして、地震発生のメカニズムをわかりやすく解説しています。  伊豆半島が太平洋から動いてきて、本州にぶつかってくっついたなんて知ってました? 「この本を読んで初めて知った」と言う人が多いですね。あまり細かい議論をするよりも、もっと大局的に、日本の成り立ちそのものが、地震が必ず起きる、とんでもなく危ない国だと知ってほしい。 ◆巨大地震が続く活動期に突入か◆  江戸時代の地震活動を調べると、どれもみんなすさまじい。1703年の元禄大地震(M8・1)、1707年の東海・南海地震(M8・4)。2カ月後の富士山の宝永大噴火では江戸まで全部灰に埋もれている。  今の日本が、このような活動期に入っているかどうかはわかりませんが、起こっていることがあまりにも似ているので、当時と同じ力が作用している、と思います。  76年に浜岡原発が営業運転を始めた5カ月後、当時東京大学理学部助手だった石橋克彦先生(神戸大名誉教授)が古文書で過去の地震を調べて、東海地震の周期説を打ち出しました。  このような地震発生のしくみや地球物理学の知見をまとめるかたちで、『原子炉時限爆弾』の中では「地震と地球の基礎知識」も書きました。大陸移動説から日本の成り立ちを説明し、地球の原理をまとめました。ここは、楽しみながら読んでほしい。東海地震の起きるしくみを理解すれば、浜岡原発の危険性がだれにでもわかるはずです。  今回、放射能の危険性についても、あえて基礎的なことから書いたのは、知らない人が多いからです。原発を取材している記者からも「『死の灰』って何ですか?」と聞かれました。記者の人たちに、私たちが原点を説明してこなかったこともいけない。もう一度、きちっと伝え直さなければ、多くの人が原発に反対している理由も、わからないでしょう。 --政府の地震調査研究推進本部によれば、東海地震は30年以内に起こる確率が87%とされています。  いつ起こるかはわからないけれど、近い将来に東海地震は必ず起こる。起きてしまえば壊滅的な被害を受けるという意味で、原子炉はまさに時限爆弾です。まずは東海地震の震源域に建っている浜岡原発を止めなければいけない。逆に言えば止められるんですよ。  クリーンで原発よりもはるかに熱効率がいい最新鋭の火力発電所を、中部電力も建設すると発表しています。電力供給の点からいえば、浜岡原発が止まっても問題はありません。大事なのは世論です。みんなが危険性に気づけば、浜岡原発は止められるはずです。 (構成 本誌・堀井正明) *ひろせ・たかし 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。原子力の危険性を訴えてベストセラーになった87年の『危険な話 チェルノブイリと日本の運命』(八月書館)、近刊『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社新書)など著書多数 ◆◆◆◆◆浜岡原発4号機で進むプルサーマル発電計画◆◆◆◆◆  浜岡原発4号機は10月14日から約4カ月の定期検査に入り、プルサーマル発電の営業運転に向けて、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を初めて装填する。764体ある燃料の184体を取り換える予定だが、そのうち28体がMOX燃料という。  中部電力によると、年末にもMOX燃料を取り付ける。来年1月下旬にもプルサーマル発電の試運転を開始、2月下旬には営業運転を始めたいとしている。  プルサーマルとは、長崎原爆に用いられた放射性物質の「プルトニウム」を原子炉(軽水炉=サーマルリアクター)で使うことから日本で作られた造語。09年11月の九州電力玄海原発(佐賀県)から始まり、四国電力、東京電力が開始。関西電力も来月下旬にも始める見通しで、浜岡原発は国内5例目となりそう。  浜岡原発では、耐震補強に費用がかかりすぎるという理由で1、2号機の廃炉を決定。かわりに6号機を新設するリプレース(置き換え)計画に着手したばかり。使用済み核燃料保管所も併設する6号機の着工は15年、廃炉完了は36年度を目標にしている。  プルサーマル発電については、プルトニウムの毒性の高さに加え、通常の原子力発電に比べて中性子の量が増えるため制御が難しいなどのリスクがあり、導入に反対する声も根強い。  広瀬さんはこう憤る。  「浜岡原発3、4号機は原子力安全・保安院などの耐震安全性審査(バックチェック)が続いていて、結果は来年3月まで出ない。原子炉の安全を確認している段階で、危険なプルサーマルを実施することは、ブレーキが利くかどうかわからない車で高速道路へ飛び出していくのと同じで、はっきり言って論外です」 週刊朝日

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