
広瀬隆「南北朝鮮が平和になれば問題は解決する」
広瀬隆(ひろせ・たかし)/1943年、東京生まれ。作家。早稲田大学理工学部卒。大手メーカーの技術者を経て執筆活動に入る。『東京に原発を!』『危険な話』『原子炉時限爆弾』『FUKUSHIMA 福島原発メルトダウン』『第二のフクシマ、日本滅亡』などで一貫して原子力発電の危険性を訴え続けている。『赤い楯―ロスチャイルドの謎』『二酸化炭素温暖化説の崩壊』『文明開化は長崎から』『カストロとゲバラ』など多分野にわたる著書多数。
2018年2月の平昌冬季五輪開会式では「統一旗」を掲げて韓国と北朝鮮の選手たちが合同入場した=(C)朝日新聞社
2019年、日本は報道の自由度「世界67位」=「国境なき記者団」のホームページから(撮影・堀井正明)
前回で、北朝鮮のミサイルをおそれる必要がないことを述べた。私は北朝鮮に住んだことがないので、北朝鮮の民衆の感情は知らないが、日本国内にいる北朝鮮系の人とも付き合ってきたので、われわれ日本人と同じ人間であることを知っている。北朝鮮政府がどうであろうと、北朝鮮に対して国連が経済制裁を加えて民衆を苦しめることは、人間としてまったく知恵の足りない、非道で野蛮な行為だと憤りを覚える。在日朝鮮人/コリアンに対する日本人の偏見といやがらせも、恥ずかしくてならない。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は非常に知性レベルが高いので、北朝鮮は自分たちと同じ民族だから、一刻も早く国連制裁を解除して、南北朝鮮の統一に向けて確かな一歩を踏み出したいと願っているのだが、どこの国にも紛争と戦争を求める危険分子がいて、朝鮮半島の和平に待ったをかけている。その正体は軍需産業である。
アメリカでは、巨大軍需産業がホワイトハウスの大統領を操るほど肥大化しているので、ドナルド・トランプも自在には動けない。今年2月27~28日のベトナムのハノイにおける第2回・米朝首脳会談を前にしてトランプ大統領が「非核化を急がない」と声明を出したのは、アメリカと北朝鮮が友好・和平関係を結ぶ方向に進めば、核兵器は意味もない道具になるからであった。ところが首脳会談の蓋をあけてみると、そうはならなかった。
首脳会談に急遽割りこんで参加した大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のジョン・ボルトンが「核兵器・ウラン濃縮プラント・ICBMの全面廃棄要求」を突きつけて金正恩(キム・ジョンウン)を怒らせ、会談をめちゃくちゃにしたからである。ボルトンは、1964年の大統領選で「ベトナム戦争で核兵器を使え」と狂気の核攻撃論を展開した共和党大統領候補のユダヤ人バリー・ゴールドウォーターの支援活動に従事した根っからの悪人で、2003年にイラク攻撃を主導し、数十万のイラク人を殺戮した極悪ユダヤ集団「ネオコン(新保守主義者)」の頭目であった。
日本のテレビ報道界は、2003年3月20日に米軍が狂気のイラク攻撃を開始した発端が、その半年前の2002年9月8日にニューヨーク・タイムズのピューリッツァー賞受賞者、ユダヤ人女性記者ジュディス・ミラーが、根拠もない「イラクの核兵器開発」をあたかも事実であるかのように大報道した記事(フェイクニュース)であったことを知らないであろう。
2006年のジョンズ・ホプキンズ大学などによる調査では、このイラク攻撃開始から3年後の2006年6月までの「イラク人の死者数は60万人以上」とされている。被害者はその10倍の数百万人に達するであろう。イスラム教徒に対するこの米軍の大量虐殺に怒って決起したイスラム教徒がテロリストに変貌し、テロ集団“イスラム国(IS)”が生み出され、難民・移民が大量発生して、全世界の混乱が続いているのである。
ジュディス・ミラーが書いた当時の記事をいま読むと、ボルトンが北朝鮮の核兵器を非難している言葉とそっくり同じである。
このように危険な戦争屋ボルトンが、北朝鮮に喧嘩を売って憎悪を煽(あお)っているというのに、日本のテレビ報道に出てきたコメンテイターは全員が、「北朝鮮非難」に終始し、ボルトンのオウムであった。
こういう世界情勢も読めない人間たちが日本のテレビ報道に従事して、アジアに平和が訪れるはずがない。
安倍晋三ときたら、トランプとゴルフをしてはしゃぎ回り、日本の海上自衛隊の艦艇にトランプを乗せて喜び、莫大な金をアメリカ軍需産業にみつぐ約束に明け暮れ、沖縄の軍事基地建設に熱中しているというのに、テレビ報道が一喝もしない。
日本では、現在のマスメディアに対する信頼性が示すように、世界的にきわめて低い水準にランクづけされるほど、報道内容が落ちているのはなぜだろうか。2016年4月20日に国際ジャーナリスト組織である“国境なき記者団”(RSF─Reporters Sans Frontières)が発表した各国の報道機関のランクづけによると、この時に韓国は、朴槿恵(パク・クネ)政権がテレビ報道界を大弾圧していた最悪の時期だったので報道の自由度が「世界70位」というひどい評価を受けたが、その後は、報道界が決起して報道改革がスタートした。ところが日本は、韓国よりさらに低い「世界72位」という自由度であり、2019年になっても「世界67位」であった。これが、日本のテレビ報道に対する国際的な評価だという事実は、すべての日本人が認識しておかなければならないことである。
つまり「日本のテレビ視聴者は、日本のテレビ報道は信用できないほどレベルが低いということを知ってからテレビに向かい合う必要がある」と“国境なき記者団”は言っているのである。
私が韓国の民主化運動の人たちと共に行動した時代に、1980年の光州虐殺事件について現地の光州で韓国の市民からくわしく話を聞いた時には、夜に、車座になって十数人の韓国の知識人と、朝鮮の酒マッコリを飲み交わしながら、どのようにすれば韓国と日本が、「米軍の軛(くびき)」から解放されるかを語り合った。その時、私がふと「この中で牢獄に入れられた人がいますか?」と尋ねると、まるで当然のように、全員が笑顔で手を挙げたのである。活動する知識人であれば、ほとんどの人が牢獄生活を体験していた。それが1988年のソウル・オリンピック後、盧泰愚(ノ・テウ)大統領~金泳三(キム・ヨンサム)大統領時代の韓国であった。この人たちが現在までの韓国の民主化を引っ張ってきた主役であり、当時彼らは「まだたくさんの知識人が投獄されている」として、救出活動を続けていた。ところが日本に帰国すると、「韓国では民主化が進んでいる」と、大新聞がまったくの大嘘を書き立てていた。
現地に飛びこんで多少の危険を冒さなければ、現実問題を体得し得ないというのが真のジャーナリストの直感である。現在で言うなら、シリアしかり、パレスチナしかり、北朝鮮しかり、である。
(広瀬隆)
※週刊朝日オンライン限定記事