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再稼働 川内原発の“大事故”が危ぶまれる本当の理由
再稼働 川内原発の“大事故”が危ぶまれる本当の理由 再稼働直後、事故を起こした川内原発 (c)朝日新聞社 @@写禁  発端は、2012年1月。カリフォルニア州サンオノフレ原発3号機で、交換後の蒸気発生器の配管から放射性物質を含む水漏れ事故が起きたことだった。  蒸気発生器とは加圧水型原子炉に備わる装置で、タービンを回して発電するための蒸気を作り出す重要なもの。それが新品に交換した後に故障したのだ。  同原発を運営する南カリフォルニア・エジソン社は、装置内に張り巡らされた伝熱細管と呼ばれる管が異常摩耗していたことが原因だったと断定。定期点検中の2号機にも同様の摩耗が見つかった。米国でこの問題を取材していたジャーナリストの堀潤氏が解説する。 「米原子力規制委員会(NRC)の調査では、問題となった三菱重工業製の蒸気発生器の1万5千カ所以上に異常な摩耗が見つかったと報告されました。しかもNRCによると、三菱重工は製造した蒸気発生器に欠陥部分があることを設置前に認知していて、それを認めた報告書を12年9月にNRC側に提出していたと言います」  そのとおりなら、三菱重工は欠陥品を売ったことになる。事態を重く見たNRCは、原因究明と安全確保がなされるまで再稼働を禁止。12年10月には、神戸にある三菱重工の事業所に抜き打ち検査を行った。 「そのときNRCは、蒸気発生器の欠陥部品を改良した配管に対する安全検査の方法が、連邦法などが定める基準に沿っていないことを見つけたのです。具体的な問題点は、[1]住友金属工業(現・新日鉄住金)から購入したモックアップ用配管が検査要求を満たす仕様になっていたか確認しなかった[2]東京測器研究所による市販の測定サービスの精度が基準を満たすか確認していなかったことなどです」(堀氏)  つまり、三菱重工側の品質保証が、NRCや顧客の求める基準を満たしていなかったということになる。  トラブルを起こした蒸気発生器は「経済性重視」のため、設計上の無理があったとの指摘もある。  原子炉停止に追い込まれたエジソン社は早期再稼働を目指すが、周辺住民が反発。NRCも安全性が確保できないとして再稼働許可を与えず、13年6月にサンオノフレ原発は廃炉の選択を余儀なくされる。  その後、責任を巡ってエジソン社と三菱重工の泥仕合が始まる。エジソン社は検査や補修にかかった費用1億ドル(約97億円)を三菱側に請求したが、折り合いがつかず13年に国際仲裁裁判所(国際商業会議所)へ仲裁を申請。そして今年7月、「欠陥のある蒸気発生器を設計、製造した三菱重工には甚大な被害の責任がある」として75.7億ドル(約9300億円)を請求したのだ。  問題は三菱重工製の蒸気発生器が、再稼働した川内原発の加圧水型の原子炉(同社製)にも採用されていることだ。  三菱重工によると、同社がいままで納めた蒸気発生器は122基。「サンオノフレ原発と同一仕様の蒸気発生器は他の原発に納入されていない」という。  だが、トラブルを起こすリスクはあると指摘するのは、川内原発再稼働の異議申し立てを原子力規制委員会に行った山崎久隆氏だ。 「九州電力が公表した資料によると、7年前に交換した川内原発1号機の蒸気発生器にはすでに35本の配管(伝熱細管)に穴が開きかけて施栓をしています。これが30年間使い続けている2号機の装置になると、栓をした本数は400カ所を超える。加えて古いタイプの装置は改良型に比べて配管に応力が集中しやすく、大きな地震が来たら耐えられない危険さえあるのです」  蒸気発生器は、熱交換効率を上げるために配管の厚みがわずか1.1ミリから1.3ミリほどしかない。常に加圧された熱水が管の中を流れているため、時間の経過によって摩耗し、穴が開くリスクも高まる。「常時どこかに穴が開いていて、定期点検で塞ぐ」(原発エンジニア)といわれるほどだ。  摩耗した配管が裂けて高圧水が漏れだすと、重大事故につながりかねない。  原発の危険性を訴え続ける作家の広瀬隆氏も「加圧水型の原子炉は高い気圧をかけた水を蒸気発生器に送るため、配管破断のリスクがある」と話す。 「摩耗したどこかの配管が破れて水が噴き出すと鉄砲玉のように隣の配管を壊し、連鎖反応で一気に破壊される。1987年にイギリスの高速増殖炉で起きた事故では、10秒未満で40本の配管が連鎖破断しました。91年に起きた美浜原発2号機の事故は、蒸気発生器から噴き出した高圧水で配管がスパッと切れたギロチン破断だったのです」  蒸気発生器の配管が破損すると、1次冷却水が圧力の低い2次側へ急速に漏出する。つまり原子炉の冷却水が失われ、メルトダウンにつながる危険性をはらんでいる。事実、美浜原発の事故では20トン以上の冷却水が漏れ、炉が空焚き状態になりかけたと言われた。  このように蒸気発生器のトラブルは深刻な事故につながるため、慎重な安全対策が必要。だが高価で大がかりな装置の上、取り換えにも時間を要するため、補修費用がかさむか、施栓が増えて定格出力ダウンにでもならない限り交換はしない。全部で1万本程度ある配管の18%程度が施栓で使えなくなると交換時期ともいわれる。  その一方、再稼働を急ぐあまりか、耳を疑うような出来事もある。  九電は400カ所以上に栓をした川内原発2号機の古い蒸気発生器を交換するため、新品を準備済み。だが、変えずに再稼働するという。九電はこう主張する。 「信頼性向上の観点から14年度の取り換えを計画していたが、新規制基準適合への作業などがあり、ひとまず交換せずに再稼働を目指すことにした。現行の蒸気発生器は非破壊検査をして健全性を確認している」  だが、前出の山崎氏は「新しいものを発注したのは、九電が交換する必要があると判断したから。これでは安全軽視以外の何物でもありません」と批判する。  川内原発1号機では再稼働直後の8月下旬、蒸気を海水で冷やして水に戻す復水器が海水混入事故を起こした。九電は混入の原因となった管など69本に施栓したが、同様の事故は今回が初めてではない。97年と99年にも玄海原発で同じ事故が起きていたのだ。  広瀬氏が言う。 「日本の原発は海岸線にあり、ただでさえ塩分で腐食しやすい。それが再稼働で高温環境になれば、ますます進む。4年以上動かしていない原子炉はすぐにトラブルを起こすのが当たり前で、いま現場の技術者は戦々恐々としているはず」  国民は大事故が起きないことを、祈るしかない。 (ジャーナリスト・桐島 瞬) ※週刊朝日 2015年9月18日号
なぜ、メルトダウン事故は、半世紀以上「マル秘」にされたか?――広瀬隆×堀潤対談
なぜ、メルトダウン事故は、半世紀以上「マル秘」にされたか?――広瀬隆×堀潤対談 広瀬隆(Takashi Hirose)1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数 堀潤(Jun Hori)元NHKアナウンサー、1977年生まれ。 2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーターとして、おもに事件・事故・災害現場を取材し独自取材で他局を圧倒。2010年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。2012年、米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、「anan」などで連載中。2014年4月より淑徳大学客員教授 『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。  壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第4刷となった。本連載シリーズ記事も累計145万ページビューを突破し、大きな話題となっている。  このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、「8bitNews」主宰者で元NHKアナウンサーの堀潤氏と初対談。  なぜ、アメリカのメルトダウン事故は、半世紀以上「マル秘」にされたか?知られざる報道の真実に耳を傾けてみたい。(構成:橋本淳司) ●じつに事故50年後に明らかになった高濃度放射能とは? 広瀬:堀さんは2012年にアメリカで原子力の取材をされていたそうですね。 堀:2012~2013年までの1年間、ぼくはNHKに籍を置きながらUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に留学していました。ソーシャルメディアと放送の融合を研究しながら、原子力について取材していました。 広瀬:そうでしたか。知りませんでした。 堀:ロサンゼルスの北、車で50分くらい走ったところにあるシミバレーという山あいの町に、1959年にメルトダウン事故を起こした実験用原子炉がありました。その実験用原子炉の影響については、半世紀に渡って公開されてきませんでした。 広瀬:2012年に公聴会が開かれたサンタスザーナの野外実験用原子炉の事故ですね。 堀:そうです。地下に設置された原子炉が事故で空焚きになり、燃料棒十数本がメルトダウンし、そのまま放射性物質が拡散されました。 1980年代に入って、ガン患者や体調不良の人が多いので、「ここで何かあったんじゃないか」と疑念を抱いた女性たちが運動を始め、いろいろな妨害を受けながらロビー活動を続けた結果、2009年、カリフォルニア州議会で問題の原因解明を図ることが決議されました。 そして、EPA(米国環境保護局)が3年間調査を行い、その結果が、2012年に住民向けに公表されました。 広瀬:事故から50年以上経過してようやく、というニュースに私は驚きました。 ●自由に事実を伝えたい!それでNHKを退職した 堀:米国環境保護局によると、サンタスザーナ野外原子炉実験所跡地では、最大でバックグラウンドレベルの1000倍を超えるセシウム137が検出されました。セシウム137は、291ヵ所から検出されており、影響は広範囲にわたりました。 さらにストロンチウム90が1グラム当たり最大788ベクレルで通常の284倍。プルトニウム239/240は約7ベクレルで、通常の10倍という値が検出されました。 50年以上たっての数値ですから、非常に深刻な事故だったとわかります。 広瀬:一帯の住民にどのような影響があったか、教えてください。 堀:シミバレーは周辺域の水源にもなっていました。住民は、放射能の汚染が河川や地下水にどの程度影響を与えるのか、飲み水や農業用水への汚染がどの程度高まっているのかなど説明を求めていましたが、米国環境保護局は「汚染実態の調査の説明会なので健康へのリスクに関して応えるデータを持っていない」と繰り返していました。 広瀬:私は日本でも水への影響がいちばん心配です。80万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破した本連載第4回でも触れましたが、フクシマ原発から出たトリチウムの放出総量はまったく明らかにされていません。でも、これから多くの人の健康に影響を与えるはずです。 堀:ぼくはサンタスザーナのことを、日本の50年後を考えるうえで重要なモデルケースになるし、大事なテーマだと思って企画しました。 しかし日本では、因果関係をアメリカ政府が認めないと、なかなかむずかしいことです。 広瀬:そんな因果関係をアメリカ政府が認めるわけがない。それでも警告を出すのがジャーナリストの責任ですよね。 堀:50年後の日本で健康被害が出ないことを願ってやみませんが、もし仮に何かあったときに「補償してほしい」と言っても、「原発事故が原因とは判断できない」と断られるのが関の山でしょう。だからサンタスザーナの教訓を学ぶべきと取材を重ねたのですが、結局、無理でした。 ●上映会を自由にやってみたい 広瀬:取材した映像はお蔵入りになったのですか? 堀:いえ、そうするわけにはいかないと映画にしました。 1959年のサンタスザーナ、1979年のスリーマイル、2011年の福島、3つのメルトダウン事故をテーマにドキュメンタリー映画をつくりUCLAの専用シアターで発表しました。 広瀬:反響はどうでしたか? 堀:2回上映しても入りきれないくらい満杯になりました。そのとき週刊誌の『フライデー』(講談社)の記者も取材してくれまして、その記事に「市民上映会の企画」も紹介されたのですが、映像は私がNHK職員として撮ったものだから、自主的な上映会はできなかったです。 広瀬:えっ! 堀:民主主義を標榜する日本にあって、しかも民主主義の発展のためにジャーナリストになった自分ですから、どのような問題でも自由に伝えられるようにならなければならないと思って、ぼくはNHKを辞めることにしました。そして、自分でドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作したのです。 広瀬:そうでしたか。私も30年以上、一貫して原発問題に取り組んできましたが、1980年代までは、どこのテレビ局も原発問題を深く掘り下げてくれました。ディレクターの人たちも私に好意的で、内部の資料を「広瀬さんには見ておいてもらいたい」といって見せてくれたほどです。 一方、私はアメリカなど海外から直接得た情報や、被害者の証言を伝え、お互いに事実を知るためには協力関係にありました。 それが15年くらい前から、本当の問題を伝えなくなった。これは新聞、テレビ、雑誌はじめすべてのメディアに言えることです。 もちろん広瀬隆なんて危険物扱いで、一切意見を言わせない。そういう中で起きたのがフクシマの事故です。異論を唱える人間の言葉を聞かないようにメディアが変わってしまった原因がなぜかわからないけれど、そういう中で堀さんのように、当たり前のことを言えるスターが出てきてくれたのはすごくうれしい。 堀:そう言っていただくとありがたいです。でも問題があるなら、そこに突っ込んで取材をし、課題を洗い出して解決するための知見を集める。ファクト(事実)の追及は当たり前のことなのに、原発の話になると途端に口を聞いてもらえなくなったり、思想が偏っていると思われたり、大変です。だからぼくも自由に活動して、ドキュメントを制作したくなったのです。 広瀬:堀さんが主宰している「8bitNews」という市民参加型メディアについてくわしく教えてください。 堀:市民参加型のメディアが必要だなと思ったのは、大手のマスメディアが取り扱えなくても、現場の市民がそれぞれ情報を打ち上げてくれればいい、と思ってのことです。 広瀬:堀さんはいま日本全国の方から情報を集めて、発信しているのですね。 堀:そうです。8bitNewsに、YouTubeにアップロードしたニュース映像を送ってもらいます。それをネットの中だけで終わらせるのではなく、ぼくがやりたいのは「パブリック・アクセス」つまり市民が公共の資源・財産にアクセスする権利、市民が自主的に番組づくりに参加する市民メディアなので、テレビやラジオ、ウェブニュースに配信するという環境をつくります。それがだんだん軌道に乗ってきたところです。 広瀬:その市民の動きは、明日への大きな希望ですよ。 ●なぜ、『東京が壊滅する日』を緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ  このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。  現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超。  2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。  東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。  映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。  1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。  核実験と原発事故は違うのでは?と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い。  3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。  不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。  子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない。  最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?  同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。  51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。 「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!  よろしければご一読いただけると幸いです。
「事故は電力会社の責任」という政府の再稼働計画にノー
「事故は電力会社の責任」という政府の再稼働計画にノー 全国各地から集まった参加者たちが、川内原発の再稼働反対を訴えた=3月16日午後、鹿児島市 (c)朝日新聞社 @@写禁  もう黙っていられない――。原発のある13道県の現職地方議員147人が、再稼働計画を進める安倍政権に公開質問状を突きつけた。地方議員たちの訴えをジャーナリストの桐島瞬が取材をした。  政府に公開質問状を提出したのは「原発立地自治体住民連合」。北海道から鹿児島まで原発を所有する13道県の、無所属系などの地方議員が名を連ねている。  作家で反原発運動家の広瀬隆氏が今年はじめ、知り合いの議員たちに声をかけたところ、2カ月足らずでこれだけ集まった。広瀬氏が言う。 「原発立地地区に住む人たちは、再稼働したら自分たちの生活がなくなり、命を奪われるかもしれない恐怖と向かい合わせでいる。東京の人たちとは深刻さが違うのです」  原発立地住民の気持ちを裏付けるデータがある。共同通信の調査によると、全国の原発30キロ圏の自治体で再稼働を容認するのはわずか2割。また、再稼働候補に挙げられている伊方原発(愛媛)のある四国住民の86.9%が不安に思い、66.3%が即時廃止か段階的廃止を求めている。 「そんな状況なのに、政府は原発をベースロード電源にするという。こんなことを許していいのか。それが、公開質問状を出す目的です」(広瀬氏)  住民連合は3月24日に参議院議員会館で共同代表ら9人が一般参加者を交えて集会を開いた後、内閣府大臣官房総務課に質問状を手渡した。  質問は全部で七つあり、いずれも政府の再稼働に向けた原発政策の矛盾点を突いている。この日、行われた議員の説明から、国や電力会社のおかしな点を引用しよう。  泊原発のある北海道の岩内町議会議員・佐藤英行氏(市民自治を考える会)は、国との交渉で思いがけない言葉を聞いたという。 「今年1月、原子力規制庁と交渉したときのことです。新基準を満たした原発でも事故は起きますか?と尋ねると、相手は『基準は最低のもので、事故は起きます。あとは事業者の責任です』と言うのです。つまり、国は原発事故が起きるのに再稼働にゴーサインを出そうとしていることになる。私の地元の泊原発で事故が起きたときの想定も甘い。一例を挙げると、3本の主要道路のうち1本しか止まらない不完全なシミュレーションしかしていません」  安倍晋三首相は、原発の新基準を「世界最高水準の安全基準」と言った。だが実際には「最低」レベルの基準だったのだ。  原発耐震指針への不信感を強く抱く議員もいる。新潟県柏崎市議の矢部忠夫氏(社会クラブ)だ。 「2006年に原発耐震指針が改定されましたが、翌年の新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原発の基盤が傾くなど、大きな被害が出ました。これでは指針自体が信頼できません」  矢部氏によると、日本には06年の原発耐震指針に適合する原子炉は一基もない。それに、柏崎刈羽原発事故が起きたときの首相は、再稼働に躍起になっている安倍晋三現首相だ。 「本人が地震直後に現地入りしていました。このときにしっかりと事故を総括していれば、福島原発事故は防げたのではないでしょうか」(矢部氏) ※週刊朝日  2014年4月11日号
分裂!脱原発派の憂鬱 「脱原発」争点に賛同は半数
分裂!脱原発派の憂鬱 「脱原発」争点に賛同は半数 元首相そろい踏みの細川陣営は街頭演説も「脱原発」に集中。舛添氏の第一声は、厚生労働相時代の実績を強調し、原発問題には触れなかった(撮影/写真部・関口達朗) 「ご乱心」の殿と市民派弁護士の都知事候補一本化はならず、「脱原発」票はさまよう。 かつてのやんちゃな論客も不協和音は絶えないようで。(編集部 本田修一、鈴木 毅) * * *  脱原発派の一本化は東京都知事選(2月9日投開票)でも実現しなかった。 「まさに苦渋の選択ではございますが、脱原発候補を当選させるためにはこれしか方法はないと考えている」  小泉純一郎元首相(72)の後押しを受けた細川護熙元首相(76)が正式な出馬会見をする2日前の1月20日、脱原発の市民団体「脱原発都知事を実現する会」共同世話人の河合弘之弁護士は、国会内で開いた記者会見で細川氏支持の考えを、さばさばとした表情で語った。細川氏の「脱原発」の意思は電話で確認したという。  昨年末に弁護士の宇都宮健児氏(67)が脱原発などを掲げて立候補表明した際は、脱原発団体の多くが宇都宮氏を支持する方針だった。ところが今月に入って、細川氏が立候補を決断。このグループも「票が割れては原発推進派を利する」と一本化を模索していたが、両陣営に断られ、細川氏を個別に支持することに決めた。ルポライターの鎌田慧氏、作家の瀬戸内寂聴氏、広瀬隆氏、音楽評論家の湯川れい子氏、社会学者の宮台真司氏らが、こうした「苦渋の決断」に同調した。 ●苛烈さ増す非難合戦  だが当然同調しない向きもある。共産党は「悪政を強いてきた元首相コンビ」(「しんぶん赤旗」)と、細川=小泉連合を批判。昨夏の参院選比例区で落選者中最多の17万票余を集めたミュージシャン三宅洋平氏も、 「(細川氏には)宇都宮さんと比べて100倍くらいの距離を感じてしまう」  と表明した。  つまり、河合氏らの決断で「脱原発派」の分裂は決定的になった。細川氏がインターネットテレビ「デモクラTV」のインタビューで、 「一緒になることはできない。野合と言われたらかなわない」  と言えば、宇都宮氏も、 「原発だけで一本化というのはあり得ない」  と態度を硬化し、23日の告示後は、両陣営の非難合戦は苛烈さを増している。  細川氏を勝手連的に支援する民主党の中堅国会議員は、こうため息をついた。 「『脱原発』のワンイシューで戦うのに、脱原発候補が複数いるのは痛い。しかも、連合東京が舛添要一元厚生労働相(65)に付いてしまった。このままなら『宇都宮氏と一本化してたら舛添氏に勝てたのにね』という結果になりかねません」  けれども、細川陣営の雰囲気は明るい。関係者はこう話す。 「基本的には上り調子の細川と、下降傾向の舛添だ。もう相手の背中は見えている」  戦上手の小泉氏と組んだことが、安心感を生んでいるのか。「殿ご乱心」と批判された細川氏は、それを逆手にとって、 「ご乱心でなきゃ、こんなところ出てこない」  とアピール。第一声でも、 「原発ゼロという方向を明確に打ち出して、自然エネルギー大国・日本を打ち出していく」  と演説の8割を「脱原発」に充てた。横に並んだ小泉氏は、往年の「小泉節」を炸裂させた。 ●メディア寵児の花舞台 「原発ゼロで日本の経済は成長できる。今回の都知事選ほど国政を動かすことができる選挙はめったにない」  駆けつけた有権者より報道陣が多かったかもしれない。だが東京都庁舎を背景にテレビ画面に切り取れば、いかにも 「新たな都の顔」だ。「政界再編」「郵政民営化」でメディアの寵児となった両氏の面目躍如だ。  辺りには、日本維新の会の松野頼久・国会議員団幹事長や中川秀直・自民党元幹事長ら知られた顔がちらほら。陣営入りした小沢(一郎氏)系ベテラン秘書は、こう打ち明けた。 「『応援演説したい』という議員や元議員はたくさんいるが、選挙カーに立つのは細川、小泉だけ。どんな団体の支援も受けない、というイメージを徹底させるんだ」  実際は、民主党や生活の党が陰で支援し、国会議員経験者のほか、松野氏や旧日本新党出身の小沢鋭仁・維新の会国対委員長らの秘書が陣営に入る。よく言えば「多士済々」、けなすなら「烏合の衆」なのだ。 ●調査では先を行くが  一方の舛添氏は、今のところ各種の情勢調査で細川氏らを引き離す。第一声では、 「史上最高の五輪、世界一の東京を目指す」  と気炎を上げた。だが当初予定された与党幹事長そろい踏みは実現せず、動員も少なかったようで、かなり地味。印象に残ったのは応援弁士による細川氏の1億円借入問題へのネガティブキャンペーンぐらいだった。  直前の19日にあった沖縄県名護市長選で強引に保守一本化したのに、現職に大敗したことも尾を引いている。米軍普天間飛行場の移設が争点になり市民に拒否されたわけだから、政権の面目丸つぶれだが、追い打ちをかけたのが、応援作戦の不発と情報の混乱だ。  石破茂幹事長、河村建夫選対委員長、山本一太沖縄・北方相、田村憲久厚労相、衛藤晟一首相補佐官……。勝ちを見越して続々送り込んだが、自主投票の公明党とのきしみが逆に顕在化する結果に。地元記者も証言する。 「自民党系の政治団体が新顔について事務所を構え、電話作戦を展開したんです。何度も期日前投票を呼びかけて◎、○、△、×と色分けするから陣営もすっかり信用した。報道各社の情勢調査では現職有利でしたが、電話作戦のサンプル調査では僅差で、『これは行ける』とぬか喜びしたのです」  名護市長選投開票日の19日、東京での自民党大会は、ゲストの松崎しげるが「愛のメモリー」を熱唱するなど、お祭り騒ぎだった。派閥領袖の一人は、 「名護も我が方がいけるんじゃないか」  とうそぶいたが、結果は大敗。沖縄の混乱が東京に伝染した。小泉氏の次男の進次郎復興政務官が、「(舛添氏を)応援する大義はない」と断言したのを始め、脱原発派の河野太郎衆院議員も舛添氏が自民党を除名された経緯から「『自民党が支持している舛添要一氏』という言及は、正しくない」と主張。同じ脱原発派の秋本真利衆院議員は朝日新聞に「細川氏が発表する政策が我々の政策と合えば、積極的に支援したい」と答えた。 ●「脱原発」争点化は半々  舛添氏の元妻、片山さつき参院議員に至っては、安倍晋三首相に舛添氏の応援を直接頼まれたのに、条件を突きつけた。 「舛添氏は、障害をお持ちのご自身の婚外子の扶養について係争になっており、これをきちんと解決していただくこと」「実姉への扶養義務の問題も過去にさかのぼってある」  舛添氏は会見で説明したが、解決は容易でなさそう。 都知事選で何を問うべきか。インターネット調査会社ミクシィ・リサーチの「チャオ」を通じて、告示直前の22日、20歳以上の都民500人にアンケートを行い、男性306人、女性194人が回答した=図参照。  政党支持率は自民23.4%で、他党は全部3%以下(支持政党なし57.0%)で、「自民1強」は昨年より強まっている。  都知事選で脱原発を争点の一つにすることの賛否を問うと、「賛成・どちらかというと賛成」は、「反対・どちらかというと反対」とほぼ同じだった。  細川氏の選挙事務所には自身が揮毫した「桶狭間」が掲げてある。奇襲攻撃が成功するかどうかは、やはり細川=小泉連合が「原発」を争点としてどう盛り上げるかにかかっている。 ※AERA 2014年2月3日号
専門家が本気で心配する福島第一原発4号機の燃料棒溶融
専門家が本気で心配する福島第一原発4号機の燃料棒溶融 水素爆発で上部が吹き飛んだ4号機の建屋 (c)朝日新聞社 @@写禁  福島第一原発の汚染水漏れがいまだに止まらず、「完全にブロック」発言の修正に追われる安倍晋三首相。ほとんど報じられていないが、新たな危機に今、直面している。11月から始まる4号機からの燃料棒の取り出しだ。燃料プールに残された1533本もの燃料棒を、4号機から約50メートルの距離にある共用プールに移す。  プールからの移動は原発事故前にも行われていたが、事故で破損した不安定な原発での作業は世界初で、“未知の世界”だ。事故前に燃料棒の移動に携わっていた元大手原発メーカー社員が語る。 「作業には熟練の技術が必要。まず水中で機器を操作し燃料棒を数十体ずつキャスクという金属容器に詰める。燃料棒をちょっとでも水から露出させたら、作業員は深刻な被曝を強いられる。水中で落下させて燃料を覆う金属の管が破れても汚染は深刻。フロアの全員退避は避けられない」  無事にキャスクに詰めたら、今度は大型クレーンで空中に吊り上げ、専用トレーラーに載せて共用プールまで移動。そこで取り出しとは逆の工程を行い、燃料棒をプールに収める。  ここが、最大の難関だという。クレーンで吊っている最中に大地震など不測の事態が起きた場合、約100トンもあるキャスクが地上に落下する恐れがあるのだ。廃炉工程を検証している「プラント技術者の会」の川井康郎氏が指摘する。 「キャスクが落下して破損し、中の燃料が露出したら、大量の放射性物質が放出される。作業員はもう近づけません。燃料棒はまだ崩壊熟を帯びており、本来は常に冷やし続けなければならない。長時間放置すると燃料が溶融する可能性があります。こうなると燃料の回収は困難になり、作業全体が頓挫してしまう」  むき出しになった燃料は、「人間が近づけば即死」(原子力工学の専門家)というすさまじい放射線量だ。こうなると、1~3号機のメルトダウンに匹敵する深刻な危機に直面する。東電の今泉本部長代理によれば、キャスクは事前に落下試験を行って頑丈さを確認しているが、実際の作業では試験以上の高さまで吊り上げるという。 「落ちれば当然、何らかの破損があることは想定される。ワイヤを二重にするなど、落下させない対策をしっかりやる」(今泉氏)  だが、東電はこんな危険な作業を、4号機だけでも2014年末まで、約1年間も延々と続けなければならないのだ。  それならやめればいいかというと、そうはいかない。4号機の建屋は、今も地震や地盤沈下による倒壊の危険があるからだ。プールが壊れて1533体もの燃料がむき出しになった場合、放出される放射性物質はチェルノブイリ事故の約10倍ともいわれる。「東日本に人が住めなくなる」と言われる最悪の事態だ。作業が頓挫して現場に近づけなくなれば、危機を解決する手段が失われてしまうのだ。 「危険な作業でも、やらねばならないのは確か。われわれの命にかかわるので、作業の映像を全公開してほしい」(前出の川井氏)  先の原発メーカー元社員は、記者の前で手を合わせて拝むしぐさをしながら、こう語った。 「まさに“神頼み”。私が携わった通常の取り出し作業は年に数回なので、地震の確率は『ないもの』として無視していた。1年もの長丁場で、大地震が起きない保証はない。原発の最大の恐怖は原子炉ではなく、大量の放射性物質が格納容器にも守られずに1カ所に集まった燃料プールなんです」  そして無事に1533体を運び終えても、問題が解決したわけではない。1~3号機のプールにはさらに計約1500体の燃料がある。燃料を運び出した先の「共用プール」は、6千体以上の燃料棒で満たされたままだ。作家の広瀬隆氏がこう語る。 「共用プールも、いつ余震でヒビが入り水が漏れだすかわからない。プールに移すのではなく、水を使わない『乾式キャスク』に入れて地上で保管するように東電に求めているのですが、聞く耳を持ちません」 ※週刊朝日 2013年11月8日号
広瀬隆氏が「脱原発先進国」ドイツをルポ 「廃炉でも地元経済は衰退しない」
広瀬隆氏が「脱原発先進国」ドイツをルポ 「廃炉でも地元経済は衰退しない」 「廃炉で地元経済が破綻する」と不安を抱く原発立地自治体と、その住民は多い。作家の広瀬隆氏は俳優の山本太郎氏らとともに、日本に先んじて2022年の「原発ゼロ」を決めたドイツへ赴いた。8基すべての廃炉を進めるドイツ北部のグライフスヴァルト原発で、広瀬氏が目の当たりにしたのは地元経済の衰退ではなかったという。 *  *  *  見学後、われわれの目的である地元の雇用問題を尋ねると、「かつて原発運転時には2000人ぐらいだったが、原発を受け継いだ現在の国営廃炉企業EWN社(Energiewerke Nord)の従業員は700人余りなので、ほぼ3分の1に減った。社内の労働者は、その分だけ解雇されたので、決して廃炉だけで地元の雇用が確保されるわけではない」という。  しかし、次に廃炉コストを尋ねると、「現在まで20年間で、およそ20億~26億ユーロが廃炉作業に投入された。したがって、20年間でおよそ2000億円、毎年100億円ぐらいを要し、その大金が地元に落ちたことになる」という。  またほかの資料によると、東ドイツ側の原発の廃炉はすべてここEWN社がおこない、ロシアの原子力潜水艦の解体もおこなって、さらに西ドイツ側の原発の解体も引き受けているので、ここがドイツ全体の廃炉センターとなって、42億ユーロを要した、という。つまりさらに大きな4000億円以上の金が地元に投入されたことになる。毎年200億円という大金だ。  EWN社の廃炉ドキュメント映像をみると、廃炉解体とは、放射能のかたまりを扱うので、それほど大変な時間と、労力と、資金を要する、われわれが想像するよりはるかに大規模な難工事なのである。  そのため、廃炉の解体に伴って成長した鉄鋼関連の機械工業が生まれていたのである。したがって、経済崩壊と高齢化が進んできた東ドイツ側の中では、この地域の雇用悪化はそれほど悪くない状態にあるという。 ※週刊朝日 2013年6月21日号
敦賀廃炉阻止への悪あがき? 原発「多国籍検証チーム」の正体
敦賀廃炉阻止への悪あがき? 原発「多国籍検証チーム」の正体  廃炉の“土俵際”に追い詰められた福井・敦賀原発2号機をめぐり、原発を運営する日本原子力発電(日本原電)がなりふり構わぬ反撃に転じている。  5月22日、地質学の専門家らで作る有識者会合が「原発の直下に活断層がある」と断定した報告書を、原子力規制委員会が了承。2号機の廃炉は避けられない情勢になりつつある。 これに、日本原電は激しく抵抗した。有識者会合の見解を「断じて受け入れることはできない」として、規制委に公開質問状を送付。さらに、独自調査を委託した日米英やニュージーランドなどの専門家12人で作る「外部レビューグループ」まで登場させた。  21日、グループのウッディ・エプシュタイン氏らが会見し、さらなる調査の必要性を主張。発表された「中間レビュー」では、 《これまでに日本原電が行ってきた(調査の)方法は適切である》 《日本原電及び有識者会合双方の報告書は、(中略)中立的な専門家によって評価されるべきである》  などと、有識者会合が中立でないと言わんばかりの主張を展開した。  突然現れたこの「専門家」たちは、何者なのか。  原電側の資料によれば、調査を主導するエプシュタイン氏はノルウェーのリスクマネジメント会社「スキャンドパワー」社に所属。同社ホームページでは「原子力コンサルタント・マネジャー」と紹介されている。「スキャンドパワー」社は1970年代から各国の原子力産業にかかわり、最近も韓国や中国の原発関連企業と新たに契約している。つまり、どう見ても「原子力村の人」なのである。  英シェフィールド大教授だというニール・チャップマン氏も原子力業界と関係が深いようだ。原子力発電環境整備機構(NUMO)の2011年の資料では、《放射性廃棄物処分の分野で30年以上にわたって国際的なコンサルタントとして活動してきた》と紹介されている。  さらに気になるのは、米PG&E社出身という、ロイド・クラッフ氏の経歴。この会社、なんとカリフォルニア州で原発を運営するガス・電力会社なのである。  グループのコーディネーターだというピーター・リックウッド氏といえば、09年まで国際原子力機関(IAEA)の広報担当官を務めた人物。グループにもIAEAの経歴を持つメンバーが2人含まれる。作家の広瀬隆氏がこう指摘する。 「IAEAは国連を利用した原子力推進のために設立され、チェルノブイリ原発事故の被害はきわめて限られている、という結論を導いた悪名高い組織です」  要は、日本原電の「外部レビューグループ」は、原子力業界と“ズブズブ”の関係なのだ。東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)はこう語る。 「日本原電は藁(わら)にもすがる思いなのでしょうが、中立性が確保されているとは思えない苦しい人選、という印象です。『疑わしきは止める』という規制委の新方針を理解していないのでは」  一方、日本原電の広報室はこう反論する。「専門家の人選は弊社が外部評価をお願いしているスキャンドパワー社と大林組が行ったもの。中立性は確保されていると考えます」。 「専門家」たちの本音を、よく見極めるべきだろう。 ※週刊朝日 2013年6月7日号
広瀬隆が提言「敦賀の次に廃炉にすべき原発は…」
広瀬隆が提言「敦賀の次に廃炉にすべき原発は…」 活断層の上に立つと断定された敦賀原発2号機。なぜここまで時間がかかったのか (c)朝日新聞社 @@写禁  福井県にある敦賀原発2号機(日本原子力発電)の「廃炉」が不可避となった。原子力規制委員会の有識者会合が5月15日、原子炉建屋直下の断層を「活断層」と断定する報告書をまとめたからだ。委員会は、ほかに五つの原発でも調査を進めており、今後も「激震」が続くとみられている。  安全性の低い原発は、即刻淘汰(とうた)されなければならないが、次に廃炉にすべき原発はどこか。作家の広瀬隆氏が緊急提言した。 *  *  *  大前提として、原子力規制委員会が「活断層と認めるか否か」を再稼働の基準にしているのは、完全に的外れです。過去に起きた大地震のほぼ半分は、表出している活断層ではなく、「未知の断層」が動いている。これは地震学の常識です。活断層があれば論外ですが、活断層がなければ地震が起こらないなんて、地震学のどこにも書かれていない。  それを前提としても、敦賀原発の次に廃炉にすべきなのは、愛媛県の伊方(いかた)原発(四国電力)です。ここは、南海トラフ地震による甚大な津波被害が想定されるうえに、日本列島を形成する過程で生まれた最大の活断層「中央構造線」のほぼ真上にある原発なのです。南海トラフと連動して中央構造線も周期的に動いており、いまは「ひずみ」がたまった危機なのです。この活断層が動いたら直下なので、ひとたまりもありません。  瀬戸内海に津波が入ってきたら、津波からの逃げ場もない。江戸時代に起こった宝永地震では瀬戸内海に津波が押し寄せ、死者は2万人に及びました。現在の人口なら、被害者は10万人以上でしょう。伊方原発は、次の再稼働候補のトップになっていますが、ただちに廃炉にすべきです。  もちろん、これ以外の原発も同様に廃炉にすべきです。日本列島にある断層はすべて活断層であり、原発を立地して安全な場所など、どこにもないのです。 ※週刊朝日 2013年5月31日号
寅さんはOK、山下清はNG 「浮浪罪」とは一体?
寅さんはOK、山下清はNG 「浮浪罪」とは一体?  今年9月、奈良県警が発表したニュースが波紋を広げた。 「6月下旬ころから9月16日深夜までの間、田原本町内において、働く能力がありながら収入もないのに仕事もせず一定の住居を持たないでうろついていた男(54歳)を、軽犯罪法違反で現行犯逮捕しました」  住居不定、無職でうろついているからといって逮捕するなんて、やりすぎ感がある。これではホームレスや放浪の旅をしている人たちは、みんな逮捕されかねないだろう。男はいったい何をしたというのか。  管轄の奈良県警田原本署に事件の経緯を聞いてみた。  9月16日午後10時半ごろ、田原本町宮古の京奈和(けいなわ)自動車道に自転車で侵入している男がいると通報が入った。県警高速道路交通警察隊が現場に向かうと、そこは歩行者や自転車の通行が禁じられている「自動車専用道路」だった。  このため隊員は男に警告。さらに、自転車も盗品の疑いがあるとして、田原本署員に連絡した。自転車は他人名義だったが男は窃盗を否定し、結局、軽犯罪法1条4号の「浮浪の罪」を適用したという。  そもそも、「浮浪の罪」とは何なのか。軽犯罪法1条4号にはこう書かれている。 「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」  軽犯罪法1条4号を文字通り解釈すれば、ホームレスの多くは逮捕されてしまうのか。日本一周をしている旅人や、日本中を放浪した天才画家の山下清はどうなのか。寅さんは? 松尾芭蕉や西行も逮捕されるのか。  元検事の大塚隆治弁護士(埼玉弁護士会)はこう見る。 「ホームレスは当てはまるでしょう。放浪している人も厳密にいえばあてはまる人はいますが、日本一周などの目的があれば『浮浪』にはあたりません」  家事事件、一般民事事件に詳しい広瀬めぐみ弁護士(第二東京弁護士会)は、次のように話す。 「ホームレスも社会の脅威になっていなければ逮捕まではされないでしょう。芭蕉や寅さんも同じです。ただ、山下清さんは結構難しい問題をはらんでいる。あの風体でそこここを歩いていたら、何とかしてほしいと思う人もいるかもしれません」 ※AERA 2012年12月10号
福島県民が6月11日に東電・勝俣会長らを相手に集団提訴へ
福島県民が6月11日に東電・勝俣会長らを相手に集団提訴へ  いまだ収束せず、検証も対策も中途半端な原発事故。口では謝罪を言うが、責任はだれも取らない。このままでいいのか。被災した福島県民が勝俣恒久会長ら東電幹部らの刑事責任を問おうと、6月11日、業務上過失致傷容疑などで福島地検に告訴する。  事故前、原発から約45キロで喫茶店を営んでいた告訴団長の武藤類子さん(58)は言う。 「県内に残った人も避難した人も、困難な暮らしを強いられてきました。そうした苦労に対して、信じられないことがありすぎて。国や東電の津波対策は十分だったのか。東電社内ですら、もっと高い防波堤が必要という声がありながら、何もしなかった。そうした話を聞くたび、責任の所在をはっきりさせなければと思うようになりました」  原発差し止め訴訟を多く手がけた河合弘之弁護士と、薬害エイズ被害者の救済などに取り組んできた保田行雄弁護士が弁護する。  一義的な責任は、言うまでもなく東電にある。 「ところが東電は賠償も、あたかも施しをするかのような不誠実さです。強制的に被曝させられた事実を明確にし、事故の責任者をはっきりさせなければ、福島の復興につながりません」(保田弁護士)  昨年、作家の広瀬隆さんらが東京地検に刑事告発をしたが、事態は進んでいない。そこで第三者による告発でなく、被災者自身による告訴にした。福島地検なら、同じ被災者でもあり、訴えをむげにできないと考えた。告訴する相手は数十人規模になるという。 「津波対策を怠ったことが最も明快な刑事責任です」  と保田弁護士は言う。 ※週刊朝日 2012年6月15日号
作家・広瀬隆氏 「関西は原発ゼロでも電力不足は起こらない」
作家・広瀬隆氏 「関西は原発ゼロでも電力不足は起こらない」  福井県、大飯原発の再稼働問題。原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏は、関西電力が出した今夏の電力需給の見積もりについて、疑問を呈する。「関西地方は原発ゼロでも真夏に電力不足は起こらない」と断言して、こう言う。 *  *  *  昨年、私は週刊朝日の連載誌上で、日本の電力会社すべて、原発ゼロでも電力不足にならないことを実証したが、おかしなことに、今年に入ってから、福井県の大飯原発を再稼働させようと目論む関西電力(関電)が、「2012年夏に2010年並みの猛暑であれば、原発ゼロの場合に25%の電力不足が起こる」と主張して、これをいい加減な経済関連記者が引用して、電力不足を煽(あお)り立ててきた。  しかしこの数字は、関電が流してきたデマである。原発資産を守りたいがために、関電は無理やり夏の電力不足予測を作り出している。その嘘にだまされてはいけない。  そもそも25%の電力不足というデマを飛ばしてきた関電の化けの皮がはがれて、3月12日に関電が出した「第2回大阪府市エネルギー戦略会議ご説明資料」では13.9%不足に激減した。このように数字が減るのを見るだけで関電が詐欺師であることは明確だ。この計算には、真夏の最大電力需要の想定にその詐欺の手口が潜んでいた。昨年夏に関電が想定した最大電力需要は、3037万キロワット(kW)であった。しかしこの数字は、関西でも気温が42℃を超えるというトテツモナイ嘘を元にはじき出された数字であって、実際に、関電管内での2011年夏の最大電力需要は、大阪市で35.6℃となった8月9日の2784万kWでしかなかった。3037-2784=253万kWも過大に電力需要を見積もって、消費者に脅しをかけたのだ。関電が再稼働しようとしている大飯原発3・4号機は、118万kW×2基=236万kWなのだから、どれほど悪質な最大電力需要の想定をしてきたかが分る。 ※週刊朝日 2012年4月27日号
広瀬隆氏 「なぜ日本の電力会社には、いまだに知性が育たないのか?」
広瀬隆氏 「なぜ日本の電力会社には、いまだに知性が育たないのか?」  これまで講演会や著書などで原発の即時全廃を訴えてきた作家・広瀬隆氏。そんな広瀬氏が、本誌連載の最終回で脱原発を達成したドイツの例を提示し、日本の電力会社に苦言を呈した。 *  *  *  ドイツの2大電力会社フェーバとRWEの社長が、原発撤退政策を当時のコール首相に提出したのは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から6年後の1992年10月のことであった。原子力に没頭してきた電力会社でありながら、彼らは自らの手で大事故を起こす前に、原子力が危険であると判断する知性を持っていた。なぜ日本の電力会社には、いまだにその知性が育たないのかね。  日本の電力会社もまた、これからは安全な電気を生み出す部門だけに縮小されるのだ。本来あるべき姿に戻るのだ。今まではしゃいでいた分、君たちが夢をはかなむ気持が、私たちに分らないわけではない。しかし日本社会にこれだけの甚大な被害を与えたのだ。まだそれをほとんど償っていない自分の罪と、とっくり話し合ってみるがよい。改悟(かいご)の情は、いさぎよいほうがよい。そうすれば、私たちも、過去の確執を乗り越えて、あなたたちをあたたかく社会に迎えてあげよう。  その言葉を早く聞かせてくれたまえ。それをこの耳で聞くまで、私たちは一歩も退かない! (読者と共に……) ※週刊朝日 2012年3月30日号
山本太郎氏に、広瀬隆氏が「俳優は続けて」と助言
山本太郎氏に、広瀬隆氏が「俳優は続けて」と助言  原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏が俳優・山本太郎氏と対談した。2011年4月、「原発はいらない」と世の中に訴え、活動家としての行動が注目されている山本氏。広瀬氏は彼に、俳優の活動も継続するよう力説。その訳とは...。 *  *  * 広瀬:僕は、山本さんを初めてテレビで見たのは......森の石松(2006年放映のNHKドラマ「次郎長 背負い富士」)。おどけて変な男が出てきて印象深かった(笑い)。山本一力さんの原作でしたね。 山本:よく覚えていらっしゃいますね。好きな作品だったので、嬉しいです。 広瀬:でも、反原発を訴え出した途端に、役者の仕事がこなくなったと......。 山本:どんどんなくなっていきました。真綿で首を絞められる感覚かと思っていたら、意外と早くて。1月に母親から「今月仕事、どうなってんの?」と聞かれて、「大丈夫、大丈夫」と言って1本指を折ったら、あとがなかった(笑い)。 広瀬:そんな状態で全国の集会を飛び回っているでしょう。本当に偉いと思う。 山本:いえいえ。手さぐりなんですよ。ブレーンでもいれば、スムーズにいくんでしょうけど。一人でやっているから、けっこう泥臭い動きになっています。 広瀬:今、おいくつ? 山本:37です。 広瀬:僕はね、79年のスリーマイル島の原発事故をきっかけに、36歳で反原発運動を始めたとき、実をいうと小説を書いてデビューしたころなんですよ。小説家になろうと思って、そっちに夢があったんだけど、「小説なんか書いてるときじゃない」って。それから33年経って、69歳。山本さんには、僕のような人生を歩ませたくない。ちゃんと役者を続けてもらいたい。絶対、地をはってでも。僕みたいにやめちゃダメ。  4月には日本の全原発が止まる。原子炉は運転している限り放射性物質を生み出すことが問題だ、と30年間言い続けてきた。青森の六ヶ所村再処理工場の危険性を知ってもらうために、どうしたらいいかと悩んで、工場の前で焼身自殺まで考えた。だから、死の灰の生成が初めて止まるということは、僕には感慨深いんです。止まったら再稼働させない。原発の即時全廃を実現させましょう。 山本:なんとか止まってほしいなあ。すべて原発が止まってから1基目が再稼働するとなったら、人が集まってバイオレントな感じになるかもしれないですね。 広瀬:いや、やるっていったら、俺も行くよ。 山本:今度こそ逮捕されますよ、ほんとに(笑い)。 ※週刊朝日 2012年3月23日号
山本太郎 「自分がやっている市民運動は過激じゃない」
山本太郎 「自分がやっている市民運動は過激じゃない」  震災後、脱原発を宣言し、活動家としての行動が話題の俳優・山本太郎氏。彼が原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏と対談を行った。広瀬氏は"後輩"山本氏に熱いエールを送った。 *  *  * 広瀬:山本さんの『ひとり舞台 脱原発―闘う役者の真実』(集英社)の表紙は、中間貯蔵施設があるドイツのゴアレーベンで撮影したものですね。 山本:ええ、脱原発を宣言して、市民運動が進んでいるドイツを実際に見てみようと、昨年11月に行きました。みんなで踊ったり、炊き出しのおいしいものを食べたり、お祭りですね。今日のデートはデモに行こうか、という感じで若い人が集まってくるんです。 広瀬:日本でも、昨年4月の高円寺の反原発デモなどを見ると、お母さんたちが大勢参加して、自発的で、新鮮で嬉しかったです。 山本:そう思いますね。ドイツの後に、独裁体制が続いているベラルーシに行ったのですが、もう雰囲気がぜんぜん違う。デモの届け出すらできなくて、声を出してアピールすると、逮捕されてしまうそうです。これから日本がドイツになるのか、ベラルーシに向かうのか。日本で頑張らなあかんな、と思った旅でした。 広瀬:山本さんがゴアレーベンで、線路に寝る放射性廃棄物輸送の抗議行動にも参加していましたね。昔から、僕もやりたくてね。だから、ここまで行ってやったのか、と嬉しかった。 山本:非暴力直接行動を取り締まる警察もリベラルでした。でも、ドイツの抗議行動を日本でやったら、とんでもなく話題になるでしょうね。いろんな市民運動に合流して、メディアに過激な行動のように報じられることもあるのですが、ドイツを基準にすると、ぜんぜん過激じゃないですよ。 ※週刊朝日 2012年3月23日号
アーニー・ガンダーセン氏 「フクシマ事故の影響で100万人はがんが増える」
アーニー・ガンダーセン氏 「フクシマ事故の影響で100万人はがんが増える」  先月20日、近著『福島第一原発 真相と展望』(集英社 新書)を刊行した米原子力技術者、アーニー・ガンダーセン氏が来日。『第二のフクシマ、日本滅亡』(朝日新書)で同様の警告を発する、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏と対談を行った。そこでガンダーセン氏は「原発事故の試算でがん患者が100万人増加する」という。 *  *  * ガンダーセン:私の試算では将来的に少なくともフクシマ事故の影響で100万人はがんが増えます。米国にも今回の事故による放射性物質が飛んできている。特に西海岸のオレゴンで高い数値が出ています。アラスカの先のアリューシャン列島の上空を通って、カナダ方面から西海岸の北側にたどり着いたのでしょう。 広瀬:海洋汚染はすでにハワイまで広がっている、と聞きます。日本人として深く謝罪します。 ガンダーセン:いえ、いえ。米国が日本に売った原発ですから。日本で、子どもの乳歯を集めてみるのはどうでしょうか。ストロンチウムはカルシウムと置き換わって骨や歯に蓄積します。大人の歯はダメですが、子どもの歯はカルシウムと同様にストロンチウムも吸収して固定されます。 広瀬:同感で、私も歯科医の方に呼び掛けたのですが、最近は法律上、本人の許可が必要で、難しいようです。核実験が行われた冷戦時代は、乳歯を集めて解析しました。日本全国から集めれば、飛散の分布もつかめるのですが……。東日本ではもうすぐ雪が溶けて、地表の放射性物質が大量に川に流れ出し、河口地帯から汚染が広がっていくと思います。 ガンダーセン:その通りです。魚が汚染し、海底にも堆積するでしょう。人への影響でいうと、疫学的には、子どもは放射性物質に対する感受性が強い。また女子は男子の2倍と言われています。それだけ、がんにかかりやすいといえます。 ※週刊朝日 2012年3月16日号
福島原発4号機 プールのヒビ割れだけでも人類史上最悪の事態に
福島原発4号機 プールのヒビ割れだけでも人類史上最悪の事態に  福島第一原発事故の直後、CNNテレビで「すでにチェルノブイリと同じレベルだ」と指摘した米原子力技術者、アーニー・ガンダーセン氏。さらに原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏が対談で福島第一原発4号機の危機的状況を指摘した。 *  *  * 広瀬:私の講演会では、ガンダーセンさんが3号機の爆発で、使用済み核燃料プールで即発臨界が起こった可能性について解説しているインターネットの動画を見せています。東京電力は認めませんが、私はあなたの解析に間違いないと思います。 ガンダーセン:今は、爆発の原因を厳密に特定するのは難しい段階ですが、上向きのベクトルで劇的な爆発が起こったこと、爆発位置と偏りを考えると、核燃料プールで不慮の臨界が起こったと考えるのが自然です。 広瀬:原発敷地内で極めて高い放射線量が検出されたのも、臨界暴走でプールの核燃料が飛び散ったと考えると、現場の状況と符合します。著書『福島第一原発 ―真相と展望 』(集英社新書)では「4号機のプールで火災が起きたら、日本を脱出せよ」と警告していますね。 ガンダーセン:4号機の核燃料プールは、今も日本列島を物理的に分断するほどの力を持っています。震災時、このプールには炉心数個分もの使用済み核燃料が入っていたのです。大気圏内で行われた過去の核実験で放出された総量に匹敵するほどの、放射性セシウムが眠っています。 広瀬:しかも、おそろしいことに、核燃料プールは遮蔽されていません。 ガンダーセン:まさに「格納されていない炉心」です。今は水で冷やしていますが、プールにヒビが入るなどして水位が下がり、冷却できなくなると、温度が上がって燃料棒の鞘であるジルコニウム合金が発火するのです。こうなると、もはや水では消火できない。核燃料が大気中で燃えるという、人類のだれも経験したことはない、おそろしい状況になるのです。 広瀬:今回の事故とはけた違いの膨大な放射性物質が出てくる。大惨事です。 ガンダーセン:まさしく。震災直後、日本では1、3号機の爆発に気を取られていましたが、米原子力規制委員会(NRC)は、この事態を非常に心配してきました。私自身もそうです。 広瀬:私は、ボロボロの4号機の燃料プールがガラッと崩れて、核燃料がバラバラと飛び散る事態を心配してきましたが、燃料プールのコンクリートに亀裂が入っただけで終わり、ということですね。 ガンダーセン:科学にとって未知の大惨事になります。 ※週刊朝日 2012年3月16日号
広瀬隆氏 「福島第一原発に末期的事故の予感  人生最後の事態も」
広瀬隆氏 「福島第一原発に末期的事故の予感 人生最後の事態も」  原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏。2月初めに福島県内の連続講演会をした際には、「福島第一原発の内部で何か"異常"が起こっているような気がします。みなさん、逃げる用意をしておいてください」と話した。広瀬氏は昨年起きた連続爆発より「ケタ違いの放射能が放出される"人生最後の事態"」が起きる可能性があると警告する。 *  *  *  福島第一原発では、4基とも危ないが、とりわけ4号機の原子炉建屋は、昨年のプールから生じた水素の大爆発で、ほとんど骨組みしか残らないほど大崩壊してしまった。東京電力は、傾いて倒壊寸前のこの建屋のプールを補強するため、応急処置の工事をしたが、それは、何本かのつっかい棒を入れただけである。その支柱の下は、補強できないまま、実は軟弱な基礎の上に、つっかい棒が立っているという、いい加減な状態のままである可能性が高い。  この大気中にむき出しのプールには、不幸にして通常の運転で原子炉が抱える「数個分」の使用済み核燃料が入っているとされる。その量は、10~15年分の運転期間に相当するウラン・プルトニウム燃料が入っているということになる。元旦に東北地方・関東地方を襲った地震のあと、このプールの隣にあったタンクの水位が急激に低下したので、プールに異常が起こったことは容易に類推できる。さらにその後、1月12日と23日に、立て続けに、福島第一原発のある浜通りを激震が襲ったので、私は生きた心地がしなかった。  こうした中地震の続発がプールのコンクリートに与えてきた疲労は、相当なものに達している。したがって、大地震でなくとも、コンクリートの亀裂から水が漏れる可能性は高い。  4号機に何かあれば、もう手がつけられない。致死量を浴びる急性放射線障害によって、バタバタと人間が倒れてゆく事態である。東電も、真っ青になって震えながら、今度こそ「直ちに健康に影響が出ますから、すぐに遠くに逃げて下さい」と記者会見するはずだ。 ※週刊朝日 2012年3月9日号
再稼動準備が進められている大飯原発 福島の二の舞になる可能性も
再稼動準備が進められている大飯原発 福島の二の舞になる可能性も  現在運転を停止している福井県の大飯原発3・4号機について、その再稼動のために関西電力が実施した安全評価(ストレステスト)の1次評価を、原子力安全・保安院が「妥当」とする審査書をまとめて、2月13日に原子力安全委員会に提出した。だが、その再稼動の流れに原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏は福井が第二の福島になる可能性を指摘する。 *  *  *  アメリカの原発技術者としてすぐれた頭脳を持ち、フクシマ事故について数々の事実をインターネットを通じて日本人に伝えてきたアーニー・ガンダーセン氏が、今月『福島第一原発――真相と展望』(集英社新書)を発刊した。それを読むと、これから全土の子供たちの体に何が起こるかを想像したくないほど、寒けがする。東電は、「チェルノブイリより被害が少ない」、保安院も「放射能はチェルノブイリの1割程度だ」などと主張していたが、福島第一原発から漏洩した放射能物質はチェルノブイリよりはるかに多いとしてもおかしくないとしているのだ。たとえばチェルノブイリの2倍だとすれば、国の発表の20倍の放射能が放出されたことになる。その根拠として、東電は放射性物質が水に取り込まれて除染されたという誤った仮定で計算しているが、福島第一原発では水が沸騰していたので、すべて放出されているし、格納容器からの漏洩も計算していないので、まったく間違った推算であることが論証されている。  こうなると、福井県の大飯原発3・4号機を、フクシマ事故を引き起こした最大の責任者であるド素人の保安院と原子力安全委員会のゴーサインで再稼動することが、どれほどおそろしい結果を招くかについては、誰でも想像できる。言い換えれば、事故が起こる確率は限りなく高く、その事故があればまず最初に、福井県の地元民が、フクシマ県民に続いて、壮大な放射能被爆のモルモットにされるのだ。 ※週刊朝日 2012年3月2日号
ストレステストによる大飯原発の再稼動 小浜市は蚊帳の外
ストレステストによる大飯原発の再稼動 小浜市は蚊帳の外  現在運転を停止している福井県の大飯原発3・4号機について、その再稼動のために関西電力が実施した安全評価(ストレステスト)の1次評価を、原子力安全・保安院が「妥当」とする審査書をまとめて、2月13日に原子力安全委員会に提出した。だが、その再稼動に小浜市民は怒りの声を上げていると原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏は言う。 *  *  *  ストレステストによる再稼動では、地元の了解を得ることになっているが、その地元とは一体誰のことなのか。国側は、大飯原発のある「おおい町」と福井県、この二つの地元自治体だけから了解をとりつければよいとしているが、実際の地元は、この二つだけではない。大飯原発から半径10キロ以内に住む地元民は、おおい町が4500人に対して、原発を目の前にする小浜市民はその3.5倍の1万6000人もいるのだ。半径10キロ以内とは、最悪の事故があった場合「ほぼ100%の住民が早期に死亡する」とされている超危険エリアである。ところが小浜市は地元とみなされず、このように関西電力(関西経済圏)の電気のために殺される候補者にだけ挙げられている。  では小浜市民は、大飯原発の存在をどう考えているのか。今回の再稼動の対象となった大飯原発3・4号機は1985年に電源開発調整審議会で建設のゴーサインが出て建設されたが、その前年におこなわれた全戸調査によるアンケートでは、実に86%の市民が建設に反対、という結果であった。もともと小浜市民は拒否してきたのである。だからこそ昨年6月に、小浜市の市議会が「原発からの脱却を求める意見書」を全会一致で可決したのではないか。「俺たちは猿回しの猿ではないぞ」と怒っているのだ。 ※週刊朝日 2012年3月2日号
広瀬隆 電力会社発表の津波対策は「子どもでもわかる無意味さ」
広瀬隆 電力会社発表の津波対策は「子どもでもわかる無意味さ」  福島原発事故あとの津波対策として、どこの電力会社も、ほぼ共通して「予備電源の電源車を高台に配置する」、「防波壁を設置する」を挙げている。しかし、原発の即時全廃を訴える作家・広瀬隆氏がその二つの対策は「無駄だ」と非難する。 *  *  *  昨年の東日本大震災で岩手県を襲った津波は、重さが推定140トンにも達する巨岩を、数百メートル離れた川岸から陸上に運んだのである。これは、人間が3人か4人つながって寝たほどの長さで、人間2人分の高さを持った巨岩である。こんなものが激突してくるのだ。岩石だけではなく、巨木も、自動車も、船も、家屋も、濁流となって、電源のケーブルに激突してくる。もしケーブルが地下に埋設してあっても、地震では地盤が大破壊されるから、電源ケーブルが大丈夫であるはずはない。ケーブルが切断されても、電気が送られるのか? 高台に置いた電源車は、がけ崩れにも遭わないのか? こんな人間の常識的判断力さえ持ち合わせていないのが、すべての電力会社である。  防波壁を設置する対策については、講演会場でその電力会社の設計図を見せると、みな大笑いする。何しろ、電力会社が計画している防波壁とは、しっかりした防潮堤ではなく、家の塀と同じような代物だからだ。東日本大震災で岩手県を襲った津波では、300トンを超える頑丈な防潮堤さえもが、みな流されてしまったというのに、塀を建てて津波を防げると考えているのだ。ここまでくればジョークだと思いたいが、それが真剣な電力会社の津波対策だ。若狭の原発群なども、浜岡原発も、みな同じである。人間の常識的判断力を失った電力会社の哀れな姿である。  そして、こうした対策が実行に移された結果、何が起こっているだろう。そう、電気料金の値上げ問題である。新聞を読むと、今年度の発電コストが高くなった原因は、「原発を動かせなくなり、火力発電の燃料を購入しなければならないため」ということしか書かれていないが、冗談ではない。先に挙げたような15歳の子供でも分るような、対策にならない対策に莫大な金を出費して、相変らずトンデモナイ無駄なコストを食っているのが、停止中の原子力発電所なのだ。 ※週刊朝日 2012年2月24日号

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