4月号書評家 大森望 Nozomi Ohmori“嫌韓的”現状を変える“静かでさりげない力” デビュー作『ハンサラン』で脚光を浴びた新鋭・深沢潮が、ふたたび在日コリアンをテーマに、新作『ひとかどの父へ』を刊行する。 最初の読者から 4/3
4月号装丁家 熊谷 博人 Kumagai Hiroto町人美意識のエッセンス 三重県鈴鹿市は江戸時代から現在も「染め型」の本場。内田勲さんは伊勢型彫り師のひとりで「突き彫り」の第一人者である。無骨な手先はザクッ、ザクッと迷うことなくリズミカルに微細な文様を切り込む。型紙は美濃和紙を3枚、柿渋で貼り合わせ、燻(いぶ)しをしてから1年以上乾燥させて渋(しぶ)を枯らす。手間と時間がかかる日本独自の台紙であり、薄い紙なのに耐水性が強く、伸縮せず、丁寧に使えば数千回の染めに耐えられるほど堅牢だ。型彫りの道具、小刀はそれぞれの職人さんたちが自分で作る。型を彫る時は型紙を六枚ほど重ねるので、小刀は専用の小さな砥石でこまめに研ぐ。根気と集中力、まして、高度な技術が必要だ。 著者から 4/3
3月号文芸評論家 菊池仁 Kikuchi Megumi“現代に通底するテーマ”を活写 時代小説が従来のファンはもとより、新しい読者層の支持を受けるためには何が必要か? この重要な課題のひとつが、時代小説だからこそ描ける“現代に通底するテーマ”を内包しているかということである。言葉を変えれば時代を超えた普遍的人間像を刻み、濃密なドラマを展開できるか、ということである。現在、求められているのはそんな作品であることは確かである。 最初の読者から 3/30
3月号ライター 豊崎由美 Toyozaki Yumi都市への新しい感受性 IngressというスマホやiPhoneで遊ぶゲームがある。レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)の陣営が、街の中に存在するポータルと呼ばれるたくさんの拠点を取り合って陣地を広げる、スタンプラリー要素のある位置情報ゲームだ。ポータルに設定されているのは名所旧跡ばかりではない。ヘンテコな看板、オブジェ、小さな地蔵、駅、ビルなどさまざま。現実の道路地図をもとにした画面に点在するポータルを探して歩いていると、「よく知っていると思っていたところに、こんなものが!」という発見があり、新しい街歩きの楽しさを教えてくれるゲームなのだ。白い道を浮かび上がらせた黒い画面に点在するポータルが、青や緑の炎をボォーッと立ちのぼらせる。その仮想現実上の街と、スマホから目を上げた時に広がる現実の光景が重なる感覚は、Ingressが存在する以前にはなかったものだ。都市ばかりが変容し続けるだけではない。そこにいる人間が都市から感受する何かも変わり続けているのだ。 最初の読者から 3/30
2月号文芸評論家 細谷正充 Hosoya Masamitsu著者の新境地、新人警官の成長物語 今野敏の新刊で、主人公は警察官。と書くと、作者お得意の警察小説だと、誰もが思うだろう。しかし、それは間違いだ。本書は新人警官が、さまざまな体験を経て、SAT(特殊急襲部隊)の一員になるまでを描いた、成長小説なのだ。 最初の読者から 2/27
2月号作家・元国連職員 川内有緒 Kawauchi Ario漢方という名の心優しき隣人 「人間は考える葦」と言ったのは哲学者だが、「人間の体は皮袋」と言ったのは、漢方薬局の先生である。なるほど、と思わず頷く。柔らかな皮袋に、入れては出す。入れては出す。そのシンプルな反復を、人間は生涯繰り返す。しかし、基本は単純でも、そこに生まれ持った体質やライフスタイル、生活環境や時代の変化といった要素が絡まると、時に皮袋も厄介なことになる。群ようこさんの場合、それは原因不明のめまいという形で現れた。 最初の読者から 2/27
2月号評論家 貴田 庄 Kida Sho志賀直哉と熱海の映画館 昨年、「一冊の本」の2月号から12月号まで連載した「志賀直哉、映画に行く エジソンから小津安二郎まで見た男」が、この2月に朝日選書として世に出る。「一冊の本」へは選書の内容の3割ほどの発表であった。執筆に長い時間がかかり、紆余曲折があったが、ともかく出版までたどり着き、筆者として、今、ひと息ついている。 著者から 2/27
1月号日本国際交流センター・シニアフェロー 若宮 啓文 Wakamiya Yoshibumi苦節20年、3度目の正直 このほど朝日選書から『戦後70年 保守のアジア観』を出版した。そこで「一冊の本」への執筆を頼まれたのだが、それには「三冊の本」を語らなければならない。何しろ今度の本はオリジナルの『戦後保守のアジア観』と、その改訂版だった『和解とナショナリズム――新版・戦後保守のアジア観』を踏まえた3度目の作品だからである。 著者から 1/22
1月号ノンフィクション写真作家 常見 藤代 Tsunemi Fujiyo日本人が知らないイスラムの姿 現地の人の家に呼ばれ、お茶や食事をごちそうになり、そのまま泊まってしまう。イスラムの国々で、そんな勝手気ままで、ずうずうしい旅をかれこれ20年続けてきた。 著者から 1/22
1月号元在シリア日本大使 国枝 昌樹 Kunieda Masaki独裁者の実像 30年前のエジプトのアンワル・サダト大統領、後継者のホスニー・ムバラク大統領、あるいはイラクのサダーム・フセイン大統領、リビアのムアンマル・カダフィ大佐、そしてシリアのハーフェズ・アサド大統領とその子息バシャール・アサド大統領は現代の独裁者として人々に知られている。 著者から 1/22
1月号作家 市川 拓司 Ichikawa Takuji「避難民」の物語 昨年の頭にフランスで『いま、会いにゆきます』のペーパーバックと『そのときは彼によろしく』の単行本がほぼ同時に刊行されることになって、あちらの出版社からプロモーションに来てもらえないか? という打診があったんですね。ぼくはこの小説の「寛太」同様、乗り物すべてに対して恐怖症を持っているので、かなりのためらいはあったんですが、それでも、とりあえずは「伺います」と返答しました。でも、いよいよその日が近づいてくると、やっぱりどうにも飛行機には乗れそうになくて、そのことを考えるだけでパニックになってしまい、結局は土壇場で断ってしまいました。一番落胆したのは同行することになっていたぼくの奥さんです。パリに行ける! ってものすごく楽しみにしていたのに、明確な理由(ぼくにとっては明確ですが)もないままにキャンセルですから。ぼくはいつだってこんな調子です。結婚して30年近く経ちますが、関東から出たことなんてほとんどない。旅行にも映画にもコンサートにも行けず、ひととの集まりにもほとんど顔を出さない。そうしていてさえ心や体を乱さずにいることはとても難しい。 著者から 1/22
12月号憲法学者・首都大学東京准教授 木村 草太 Kimura Souta平和主義の「経験」と「想像力」 2014年7月1日、安倍内閣は、集団的自衛権の行使に関わる閣議決定を行った。この7.1閣議決定の成立には、「平和」を党の基本理念とする公明党が、連立与党として深くかかわっている。では、7.1閣議決定とはどのような内容であり、また、公明党はどのような影響を及ぼしたのだろうか。これが本書のテーマである。 最初の読者から 12/12
医師676人のリアル すべては命を救うため──。朝から翌日夕方まで、36時間の連続勤務もざらだった医師たち。2024年4月から「働き方改革」が始まり、原則、時間外・休日の労働時間は年間960時間に制限された。いま、医療現場で何が起こっているのか。医師×AIは最強の切り札になるのか。患者とのギャップは解消されるのか。医師676人に対して行ったアンケートから読み解きます。
あの日を忘れない どんな人にも「忘れられない1日」がある。それはどんな著名な芸能人でも変わらない。人との出会い、別れ、挫折、後悔、歓喜…AERA dot.だけに語ってくれた珠玉のエピソード。 インタビュー
12月号ノンフィクション作家 河合 香織 Kawai Kaori日常は異常を内包する 象が空を飛んでいるのを見たらきっと驚くだろうけれども、そもそも象は空を飛ぶものだと思っていれば驚くこともないだろう。人との距離感も同様で、自分を軽んじる恋人だと思っていれば、どんな扱いを受けたって傷つくこともない。だって、すべて思い定めた通りだから。 最初の読者から 12/12
11月号ライター 佐久間 文子 Sakuma Ayako重厚な建築物を思わせる鮮烈なデビュー作 本書がデビュー作となる若い著者が、禁じられた書物をめぐる、ヨーロッパの重厚な建築物を思わせる世界を果敢に描き切った。 最初の読者から 11/13
11月号作家 仁木 英之 Niki Hideyuki老いて枯れ 老いて壮んな男たち 「枯」という字は文字通り枯れる、という意味の他に生気のない、乾いた様を表しているそうです。一方、「壮」という字にはさかん、つよい、いさましい、大きい、大きい男、戦士、などという意味があるとか。 著者から 11/13
11月号東京福祉大学国際交流センター長 遠藤 誉 Endo Homare習近平新政権、完全解剖 「虎も蠅も同時に叩く」をスローガンとして、中国の習近平主席は政権発足後の1年間で18万人以上の腐敗分子を処分した。そのうち15万人は中国共産党の幹部だ。「虎」とは大物の政治家、「蠅」は「虎」のまわりを飛び交う小物たちのことを指す。胡錦濤時代の中央軍事委員会副主席・徐才厚やチャイナ・ナイン(中国共産党中央政治局常務委員9人)の一人だった周永康までが囚われの身となっている。政治局常務委員およびその経験者は政治問題以外の腐敗問題などでは逮捕しないという「聖域」だったが、習近平はその聖域に斬りこんだことになる。 著者から 11/13
10月号文芸評論家 菊池 仁 Kikuchi Megumi歴史の“場”を借りて、人間の生きる姿勢を描く 本書は武士の高潔な生きざまを端正な筆致で刻み込んだ作者のライフワークとも言うべき一編である。作者は三作目の『銀漢の賦』(2007年刊行、松本清張賞受賞)以降、武士の精神のありようを主題として、多くの作品を手がけてきた。本書はそんな作者がさらに精神の高みを極めようと、主人公の人的造形に心血を注いで、この物語を紡いだことをうかがわせる作品に仕上がっている。 最初の読者から 10/7