《話題の新刊 (週刊朝日)》
父母(ちちはは)の記 私的昭和の面影 渡辺京二著
86歳になった思想史家が、自身の大連からの引き揚げの記憶と生い立ち、共産党への入党のほか、若い時に知遇を得た人らについて綴った。
日活専属の活動弁士だった父親には、ほとんど切れ目なく隠し女がおり、勘のいい母親は、さっさと見限るようにも、父親の善良さと男振りを愛していたようにも映ったという。著者は父母の夫婦喧嘩に悩まされ、中学に入るまで、12歳上の異母兄を実の兄と信じて育つ。中学2年のころ詩と文学に開眼し、3年生から4年生にかけては詩と短歌ばかりを書き、行く末は一所不住の詩人の境涯しか夢見ることができなかった。
吉本隆明や橋川文三との思い出も明かされる。たくさんの出会いの中で、誰をもっと大切にしなければならなかったかがようやくわかって来た、とは深い言葉だ。
※週刊朝日 2016年11月4日号
おすすめの記事
あわせて読みたい