最近、京都を歩いていると、緑色の本を持った人をよく見かける。ほとんどが女性で、年のころは30代後半から50代くらい。シックで品のいい人が多い。彼女たちの出没場所は、神社仏閣などの観光名所ではなく、ごく普通の商店街だったりする。
 あの本はなんだろうと思って書店で確認したら、『京都、街歩きガイド。』というガイドブックだった。雑誌「&Premium(アンドプレミアム)」に連載された記事をもとに再編集したものだ。
 なかを開いてびっくり。なんと、いちばん最初に紹介されているエリアは鞍馬口通。次が曼殊院道で、その次が夷川通。京都ガイドブック定番の、清水寺や金閣寺、銀閣寺などは出てこない。かろうじて三十三間堂や東寺は出てくるけど。そのかわり、小さな菓子店やパン屋、古書店、雑貨店がたくさん紹介されている。そうか、だから「観光ガイド」じゃなくて、「街歩きガイド」なのか。
 メインとなっているのは「京都さんぽ部」という記事だ。京都在住コーディネーター(雑誌等の取材先を探したり、取材交渉する仕事)の大和まこが書いている。コンセプトは「暮らす人のように街を歩く」。
 そのほか、老舗の包装紙や箱を紹介する「包装紙と箱のデザイン」、小さな店ばかりの「極小空間でお商売」、なぜか「京都たまごサンド巡り」。堀部篤史と林七緒美による「センスのいい人に会いに行く」というコーナーも。ふつうのガイドブックとはひと味もふた味も違う。
「京都コンシェルジュ」というコーナーは、その分野の達人がさまざまなテーマで案内する。たとえば「かもがわカフェ」店主・高山大輔による「注目の新進焙煎人」。京都には老舗喫茶店も多いけど、自分で焙煎する若いカフェオーナーが増えているのだとか。
 京都は初めてという人にはおすすめしないけれども、名所旧跡・神社仏閣に飽きた人にはぴったりだ。この秋、紅葉見物アンド街歩きもいいね。

週刊朝日 2015年9月18日号