著者の赤瀬川原平は画家、作家、路上観察学会会員、千円札事件被告など風変わりな経歴の持ち主。尾辻克彦の名で書いた小説では中央公論新人賞と芥川賞を受賞している。本書には、本格的な小説家になる前に書かれたショート・ショートとエッセイが収録されている。
「根拠のない想像」という意味を持つ「妄想」がタイトルに付くこともあって、想像の斜め上を行く短い話がたくさん詰まっている。例えば、幾度も自殺を図っては失敗して手配されている「連続自殺未遂事件犯人」、「東京忘れもの生産工場」の就職試験を受ける男、平和に耐えられない老人の気力を回復させようとグータラ息子になりきろうとする福祉事務所の福祉マン、左の目ばかりに虫が入る男の話など、まるでコントのようだ。
 著者は殺人、偶然、忘れ物、福祉といった言葉の意味を逆手にとり、現実にあってもおかしくなさそうな「妄想」を軽やかな文章で繰り広げてみせる。世間の常識にとらわれない発想の自由さが、読んでいて清々しく感じる作品だ。

週刊朝日 2015年4月24日号