資本主義っていうのは、資本家がいちばん得する制度なんだよ。学生のころ、先輩にこういわれた。なんとも大雑把な話だが、トマ・ピケティの『21世紀の資本』もそういうことだ。マルクスの『資本論』もそうだった。ついでにいうと、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』も。
 マルクスは「起て、万国の労働者」と呼びかけ、キヨサキは「ビジネスを始めよう」といった。ピケティは、「資本にもっと課税を。それも累進課税を」という。
『21世紀の資本』は日本で刊行される前から話題になっていた。2013年秋に原著がフランスで刊行されると、半年で13万部も売れた。14年4月に英訳版が出ると3カ月で40万部も売れた。
 ピケティがいっていることはシンプルだ。所得の成長率を資本の収益率が上回ると格差が拡大する。これを18世紀から現代までの主に西欧と北米についてさまざまなデータを分析することによって立証している。
 やや乱暴に言い換えると、所得は賃金、資本は土地や株券など。いくらコツコツ働いても、親から莫大な資産を受け継いだ金持ちにはかなわないよ、ということ。人口が増えず経済成長率も低い先進国ほどその傾向がつよくなる。子どもが5人いれば親の資産は5分割されるが、一人っ子なら全額受け取ると考えるとわかりやすい。
 それはマズイことだ、とピケティはいう。なぜなら、能力のある人が成功する、というのが民主主義の基盤になっているから。
 じゃあ、どうするか。資本(資産)にしっかり課税する。それも評価額が大きいほど税率も高くなる累進課税にする。働かずに得られるお金を減らすのだ。固定資産税や相続税をもっと拡充したものといえばいいか。金持ちが外国に逃げ出さないよう、国際規模での課税が必要だ。
 大事なのは民主主義を守り育てることで、資本主義はその道具だ、というピケティの信念を感じる。

週刊朝日 2015年1月23日号