紙に書かれた文字、糸によって織り込まれたスカーフ、踏み続けられてつくられた草道。このように私たちは様々な「ライン」に囲まれて生活を営んでいる。本書では人類学者である著者が、これらの分類に挑み、ラインを用いる私たちの人生の在り方までを考察した。
 本書に引き合いに出されるラインは、手相、中世の楽譜、星座、1300年に中国の書家によって書かれた「李白の詩」、建築家のスケッチなど多岐にわたる。著者はこれらのものを、表面をつくり出す「糸」と表面に加えられたり刻まれたりする「軌跡」として対比させながら「ラインとは何であるのか?」という自らの質問に答えていく。
 著者はラインを点と点のあいだを繋ぐものではなく、点と点を散歩するものだと定義する。ラインの進もうとするその運動こそに意味があると言うのだ。なぜなら、どこにも縛られない自由なラインの動きこそが新しい場所を発見し、つくるからである。そして、それは人生においても同じだと言う。「面白いことはすべて、道の途中で起こる」という著者の人生論にも共感が持てる一冊だ。

週刊朝日 2014年8月8日号