わたしはこんなにも特別なのに、なぜ周囲は認めないのだろう。自信過剰な少女の前に現れた、もうひとりの少女。「ひとりでやる度胸がないなら、組んでもいいよ」
 まるでドラマ「あまちゃん」のアキとユイ。朝倉かすみ『てらさふ』は北海道小樽の北岸オタモイを舞台に、女子中学生コンビ、頭の切れる堂上弥子と容姿に恵まれたニコこと鈴木笑顔瑠が「ここではないどこか」へ向かって疾走するお話だ。
「あまちゃん」のようにはじまった物語はしかし、あらぬ方向に転がってゆく。弥子が考えた最初のミッションは「小樽市読書感想文コンクールで最優秀賞を受賞すること」。企画立案を担当するのは弥子。演じるのはニコ。「わたしが書いて、ニコの名前で応募するの」。「ゆでたまごでいえば、ニコが白身で、わたしが黄身。それが『わたしたち』なの」
 小説の初出のほうが先なので、ただの偶然なんだけど、最近どこかで聞いたような話ではないか!
 ゴーストライター作戦はみごとに当たり、感想文は全国大会で文部科学大臣奨励賞をとる。策士の弥子はすかさず第2のミッションを発表した。「次は芥川賞を獲ります」
 弥子は自分のためのウィキペディアの文案を考えていた。<日本の芸術家。映画監督、写真家、画家、小説家として名高いだけでなく、ファッションモデル、ミュージシャン、女優、声優としても有名>。いい気なもんではあるけれど、まーこんなものでしょう、中高生は。
 女の子たちが大人をだますプロセスを痛快と思うか、痛々しいと感じるかは微妙だが、片方が「もう、やめようよ」といいだしたときから亀裂ははじまる。白身(外側)と黄身(内側)、ふたりでひとつの卵だったはずの弥子とニコにも断絶が!
「てらさふ」とは「てらう(ひけらかす)」を意味する古語。ヤングアダルト小説風なのに、中身はダーク。将来に希望が見いだせない今般の青少年には、でもこのくらい刺激的な物語のほうが効くかもね。

週刊朝日 2014年5月2日号